第35話 計画
彼の言葉にそっと通路を覗いてみれば、球型の偵察ビットが遠くに見えた。
さらにその向こうには、小型機動兵器の姿まで。
偵察ビットに見つかった瞬間、進行妨害ビットである機動兵器が二人を排除しようとするだろう。
そして、それは同時に〈ニュークリアス〉に侵入者を知らせてしまうことになる。
そうならないための方法は二つ。
一つは〈ニュークリアス〉に通達される前に偵察ビットを倒す。
もう一つは、どちらかが囮になって騒ぎが起こっている隙にもうひとりが制御室へと潜り込む。
前者の方法が成功する確率は低いと判断したのだろう。
スウィンザは後者を選んだのだ。
「待って、スウィンザ。制御室に無事辿り着けたとしても……わたしは、自分では――」
制御装置はアリエスの人工心臓に組み込まれている。
それを自分で取り出して、適切な場所に組み込むなど、人間である彼女には到底不可能。
つまり……スウィンザに自分を殺してもらわなくてはならないのだ。
「ええ、分かっています。ですから、あなたは大人しく部屋で待っていてください。私が来るまで、いいですね?」
振り向いたスウィンザが頬を緩める。
この上なく優しく。
そして美しく。
その笑顔にアリエスの胸が大きく脈打つ。
壮絶な美しさに圧倒される。
けれど、何故だろう。
とても胸騒ぎがする。
彼の表情が禍々しいほどに妖艶だと感じられて。
どうしても胸の内に不安の蟲が湧き立ってきてしまう。
「いいですね、アリエス?」
返答をしないアリエスを不振に感じたスウィンザが、再度返事を問うてくる。
「どうしたのですか?」
痺れを切らした彼が美しい眉を寄せる。




