第31話 選択
「約束ですから歌を歌います。あなたに捧げる最後の歌になるでしょう」
最後の歌。
彼の口からそうキッパリ言われてしまうと、現実がぐっと間近に迫ってきたような錯覚を覚える。
もう彼の歌声が聴けなくなる。
そう思うと胸が張り裂けそうに苦しくなった。
けれど、断るなんて選択肢はアリエスにはない。
「……うん。ありがとう、スウィンザ」
「その前に質問があります」
「え?」
「白か黒。どちらがいいですか?」
「え……何?」
白か黒。
今まで何度も歌をせがんだことはあるけれど、そんな選択を求められたことは一度もない。
いったい何のつもりなのかと、訝った目を向けてアリエスは首を傾げた。
「私はそうプログラミングされているのです。最後の夜、あなたにどちらかを選んでもらうようにと。ですから……どうぞ選んでください」
彼の説明に合点した。
インジバ博士の趣向だ。
明晰な頭脳と優れた技能を持つAI専門の博士は、精神破綻した〈狂博士〉だという噂を何度も耳にした。
実際、彼に人工心臓を提供してもらったアリエスも、その片鱗を垣間見たことがある。
彼は〈試す〉ことが好きなのだ。
あらゆるものに対して疑念を抱き、決して信じようとはしない。
だからこそ最先端をゆくのだろうとも思う。
が、アリエスはそんなインジバ博士が苦手だった。
「白……かな」
選ぶなら明るい色を。
それだけの理由でアリエスは答えた。




