第29話 不滅
「教会ではどんな祈りを?」
唐突に話を切り替えられて、アリエスはビクリと肩を揺らす。
「ダ……ダメだよ、スウィンザ。人に話したら叶わなくなっちゃう」
困ったアリエスは、眉を下げて苦笑した。
「私は人ではありません。それにこの世に神など存在しませんよ。人に話したところで、願いが成就するかどうかとは無関係です」
「うっ……そうだね」
またまた正論を言われ、アリエスは肩を竦める。
明日のことを考えると居ても立ってもいられなかった。
怖くて怖くて、それこそ今の状況から助けて欲しいと懇願したくて。
ただただ逃げ出したくて。
他のことを考える余裕など一切なかった。
けれども――彼女に救われたのだ。
『この世にはねぇ、未だ女神ですら奪えないものが残っているのさ。それを信じてごらんよ』
老女がくれたあの一言に。
「お父さんとお母さんが幸せでいてくれるように。それと、スウィンザが――」
「? 私が何か? あなたの願いに関係があるのですか?」
まさか自分の名前が出てくるとは思わなかったのだろう。
アリエスの肩口から、スウィンザが驚いた顔を覗かせる。
音楽の天使〈イスラフィル〉を模して造られたという彼の容貌は彫像のように美しい。
その顔が、今だけはほんの少し困惑を滲ませていると感じてしまうのは気のせいだろうか。
人間らしいと思ってしまうのは……勝手なことだろうか。
「ねぇ、スウィンザ。お願いがあるの」
「私にお願いですか……何でしょう?」
彼の腕の中でくるりと向きを変え、白金髪の下に輝く淡青色の宝石を見つめる。
「わたしが死んでも……覚えていてくれる?」
「物理的に私は忘れません。データを消去しない限りは不滅です」




