第28話 幾千万の星
「そうですか……それは良かったですね。あの小さな人間も喜ぶでしょう」
教会に迎えに来てくれたスウィンザは、乾燥させた砂漠苺が入った袋を持っていた。
訊けば、街の正門でアリエスのウエストポーチを盗んだ少年が訪ねてきたのだという。
この融通のきかないAIと二人きりで大丈夫だったのだろうかと、アリエスは少年の身の上が心配になった。
スウィンザ曰く、「極めて良好な関係で有意義な時間を過ごした」とのことだが……。
いやいや、非常に怪しい。
あの子供は利き腕を切り落とされそうになったのだ。
良心の呵責に苛まれた彼は、きっと寿命が縮むような恐怖を感じながらも、この苺を届けに来てくれたのだろう。
想像するとあの少年が気の毒になった。
「ねぇ、スウィンザ。あなたは知ってた? わたしは苺が大好物だったんだよ。入院中もよくお母さんが持ってきてくれたの。懐かしいな。――だから〈最後の晩餐〉として、あの砂漠苺は最高だったんだよ」
明るい声で言ってみる。
上手くいったかどうかは分からない。
それでもアリエスは背後を振り仰ぎ、精一杯の笑顔を作ってみせた。
けれど――。
「恐いのですか?」
そう直球で訊かれてはしまっては。
もう頷くしかない。
強がってみても、やっぱり自分は明日が恐いのだ。
その思いが素直に顔に出てしまっていたらしい。
隠そうとしても隠しきれないほどはっきりと。
「うん、流石にね……今夜は、眠れないよ」
スウィンザの温かい腕の中で、もう一度夜空を見上げる。
窓枠に四角く切り取られた空は、白砂漠の白光に上塗られ、白く霞みがかったように見えた。
雲がない夜空には、本当は幾千万の星が輝いているのだというけれど。
星空というものをアリエスは一度も見たことがない。




