第23話 操り人形
『奏でよ、祈りを。さすれば闇は祓われん』
子を抱く聖母に迫る災厄から、天使〈イスラフィル〉は剣や弓ではなく硝子のラッパを吹いて彼女らを守ったとされている。
故に音楽は魔を遠ざけ、美しく透き通った響きでもって人々の心を豊かで穏やかにする力を持っているのだ。
そして、スウィンザはこの偉大な天使を模して造られたAIだと聞いている。
しかし本来は、科学と宗教は相反する位置にある。
互いに擦り寄ることのできない関係。
科学とは神を冒涜する悪魔の力だという古い考えが今も根強く残っている。
だから教会にAIが足を踏み入れることは禁止されているのだ。
この超科学に先導される世界にあっても。
どうしてあの狂博士が、自身が最高の技術力でもって手がけたAIの姿をこの天使に見立てたのか。
そこにどんな意味があるのか。
天才でありながら狂気に呑まれてしまったあのインジバ博士が望んだものは何だったのか。
アリエスには何も分からない。
ただ、確信していることが一つだけある。
これは、間違いなくあの白衣の男が描いたシナリオなのだと。
そして自分は彼の手のひらで虚しく踊る操り人形。
スウィンザと共に弄ばれている。
「少しだけ……悔しい、かな」
左胸に手を当てて、アリエスは小さく呟く。
確かに伝わってくる鼓動の音。
規則正しく体内へ血液を送り出してくれている。
この装置のお陰で生かされているというのに。
けれど今は……ちょっぴり疎ましい。
「胸がどうかしたのかね?」
ジレンマに翻弄されそうになるアリエスに、嗄れた声がかけられた。




