第21話 天使の歌
もうスウィンザへの恐怖は完全に消えてしまったようで。
小さな人間は虚勢を張ることもなく、素直に首を項垂れた。
そんな姿に、スウィンザの胸がまたまた小さな痛みを訴えてくる。
最適化処理の最中だというのに。
この体の中には精密機器がびっしりと詰まっているだけだというのに。
今、己の胸を締めあげてくるものは、いったい何なのか。
「……この砂漠苺を、私にも?」
「え? あ、うん。さっきは恐かったけど、俺が悪かったんだし。それにあんなにいっぱいお金ももらっちゃって……その苺で許してくれる?」
「私はAIですから食べられませんが……」
そう言うと、小さな人間は残念そうな表情を見せる。
何故かそんな態度が気に入ってしまったスウィンザの顔には、意図せぬ笑みが浮かんでいた。
そして、不可解な自分を不振に思いながらも、今はあまり追求する気にはなれなかった。
「けれど、彼女はきっと喜ぶと思います。ですから、そのお礼として――」
スッと大きく空気を吸い、吐き出す息に声を乗せる。
人工声帯を軽やかに震わせ、透き通った歌声を響かせた。
視界の中で小さな人間の顔がみるみる綻んでいくのを捉え――。
初めて出会った時の彼女を思い出す。
人工心臓の手術を受けたあと、不安そうに自分を見つめ、震える腕を伸ばしてきた。
そして、大切なものをくれた。
〈スウィンザ〉
永遠――という意味を持つ名前を。
断片化したデータの最適化処理を行っている最中だからなのか。
何故だか思考がうまく制御できないようで。
スウィンザの脳裏に浮かんだ情景は、彼女と同じ若草色の草原だった。
――アリエス、あなたの色。
スウィンザの口から自然と流れ出たものは、どこまでも続く草原の歌だった。




