第20話 信仰心
――これだから、信仰心というものは。
スウィンザは軽く嘆息して見せた。
AIの自分に向けられる純粋無垢な瞳が馬鹿馬鹿しくて、そんな態度をとるのが適切だと判断したのだ。
人間とは驚くほど脆弱だ。
精神をコントロールするために在りもしない神を必要とし、相手がAIだと分かっていても見目が良ければすぐに惑わされる。
「楽器があれば可能です」
「すごいっ、本当に!? でも――楽器かぁ。そんなのこの街にはないよな。っていうか、もう世界中探してもないんだよね。どこにも残ってない……」
小さな人間は悲しそうに面を陰らせた。
これは〈失意〉というものだろう。
決して望みが叶えられないと分かった時、人が抱く負の感情だ。
極めて冷静に少年の態度をスウィンザはそう解析した。
暴走した中枢演算処理装置〈ニュークリアス〉は、一番最初に世界から音楽を消去した。
楽器も譜面も、音楽に関する機器一切を。
完璧を追求する〈ニュークリアス〉は、世界にとって音楽を必要ないものと決定し、そしてこの世から抹消したのだ。
「聴きたいのですか?」
足元を見つめていた小さな人間は、弾けるようにして顔を上げた。
不安そうに何度も瞳を瞬かせ、スウィンザの瞳を見つめる。
「……もしかして、聴かせてくれるの? 楽器もないのに?」
「ありますよ、ほら、ここに」
スウィンザが己の喉を指し示すと、釣られるようにして小さな人間も自分の喉へと手を当てる。
意図を解したようでパッと表情を明るくした。
が、それは一瞬だけですぐに俯いてしまった。
「俺……歌なんて知らないんだ」




