第2話 砂船
どこまでも続く白い砂漠――ビアンカサンズ。
砂丘を渡る風が砂塵を巻き上げ、白煙のように空を霞ませている。
一粒ひとつぶの砂が頂点から照らされる陽光を受け、波打つ光の洪水を形成していた。
砂紋が美しいその上を、一艘の小型船が滑るように進んでいる。
軽いエンジン音を引き連れて走っているのは、砂漠専用の船――砂船。
船首は軌道を確保するため鋭利な形に整えられ、後尾にかけて緩やかな曲線を描いている。
そんな簡素だが優美な砂船を操縦しているのは、若草色の髪の少女アリエス。
相当手慣れているのか。
片手で舵をとり、もう一方の腕で軽く髪を掻き上げる。
新緑の髪に絡んだ砂粒が光を集めて後方へと飛んでいった。
ふと、アリエスは前方を指差して翠緑の瞳を瞬かせた。
「スウィンザ、もしかして……あれがコアデザート?」
視界は砂で形成された小さな丘と舞い上がる砂煙で見通しが悪い。
しかし双眸をじっと凝らしてみると、前方の遥か遠くに小さな街のような陰影が見える。
昨日までは砂嵐が酷くて仕方なく砂漠横断を断念したのだが、本日は近辺に嵐の予兆も見えずまずまずの良い天候に恵まれた。
「ええ、アリエス。間違いありません。北緯一〇度、西経一四二度。白砂漠の中心に位置する総面積約一三平方マイルの街。どうやらやっと目的地に辿り着いたようです」