第19話 イスラフィル
よく見れば、つんと上を向いた鼻の上にうっすらとソバカスが浮いている。
丸みを帯びた頬からも、彼の年齢は十歳程度と推測された。
「私はAIです。嗅覚から成分を割り出して情報と照らし合わせるので、大概のものは目で確認しなくとも当てられます」
そんなに驚くことなのか。
そうこちらが問いたくなるほどに、小さな人間は口を開閉して驚愕を示していた。
「どうしたのです?」
何も返さない小さな人間の態度を不審に感じたスウィンザは、微かに白金色の眉を寄せた。
不愉快である表情を作って見せたのだ。
そこへ、目を見開いた小さな人間が堰を切ったように大声を浴びせる。
「嘘! だって、どう見てもお兄さんは人間にしか見えないよ!」
何に対して興奮しているのか。
顔を真っ赤にして小さな人間がそう叫んだ。
しかし、そう言われたところで真実を曲げるわけにはいかない。
もとよりAIであるスウィンザは嘘というものがつけない。
「私が、人間? 馬鹿なことを。――あなたも見たでしょう? 熱暴走した私が冷却される様子を」
「でもでも! お兄さんの髪も、水色の瞳も、すごく綺麗で……まるで教会の壁に描かれている天使様のようだよ!」
小さな人間は、体には似合わないほど大きな動作で首を振る。
よほど信心深いのか。
神や天使の存在を少しも疑っていないようだった。
「当然です。私は音楽の天使〈イスラフィル〉を模して造られたのですから」
至高の美貌は天使のもの。
自分はそれを真似て造られた模造品にすぎない。
所詮は紛いものだ。
賞賛される価値などあろうはずもない。
しかしこの小さな人間にとっては、そんな事実は何の障害にもならないようで、
「もしかして、お兄さんはラッパが吹けるの?」
黒真珠のような瞳を大きく何度も瞬かせた。




