第18話 小さな人間
脳の最適化処理をしながらも機敏な動作で起き上がったスウィンザの目に小さな影が映り込む。
人工的に作られた淡い色の瞳孔がきゅっと狭まり、影の正体を素早く捉えた。
「あなたは……先ほどの……」
戸口に立っていたのは、街で出会った小さな人間だった。
腕を切り落とされそうになった彼は、スウィンザを見て幼い顔に恐怖を張り付かせる。
しかし相当勇気があるのか。
それとも足が竦んでしまって動けないのか。
小さな人間はその場から逃げようとはしなかった。
「あ、あの……お姉さんは?」
緊張のためだろう。
こちらにも聞こえるほど大きく喉をごくりと嚥下させたあと、意を決したように訊いてきた。
「何の用ですか?」
慎重にスウィンザは返事をする。
己の脳内データからは、この小さな人間に関する窃盗犯としての罪は既に消去していた。
しかし「窃盗未遂、だが被害者の希望により免罪」という形で、スウィンザの記憶データにしっかりと刻まれている。
つまり、今も要注意人物には違いないのだ。
「お、お礼をしたいと思って……これ」
恐怖のせいだろう。
小さな人間の体は小刻みに震えている。
差し出された手には、白い袋が握られていた。
警戒しながらもスッと腕を伸ばし、スウィンザはそれを受け取ってみた。
途端に甘酸っぱい香りが小屋を満たした。
「この香りはラズベリーケトン。食物繊維、糖質の他、ナトリウムやカリウムも含んでいますね。乾燥させた砂漠苺ですか?」
「え、あ、すごいね、お兄さん」
中身を言い当てたスウィンザに、小さな人間は感嘆の表情を見せた。




