第17話 苦悩
――まさか。
自己診断プログラム自体が故障しているのか?
疑い出したら切りがない。
記憶のデータだけを保護し、それ以外の断片化したデータを最適化し始めた。
そこまで行っても症状が続くようであれば、もう自分自身で対処できる範疇ではない。
生みの親であるインジバ博士のもとへ帰還しなければ。
たとえ任務遂行を後回しにしたとしても。
最適化処理を実行しながら、ふとスウィンザは自分がいる場所を見回した。
土と石で造られた粗末な小屋。
床石は朽ちかけ、布一枚敷くものすら見当たらない。
このまま夜が来たならば、生身の人間は寒さを感じるはめになるだろう。
そして、まるで納屋のように貧相なこの場所が、彼女と過ごす最後の場所となる。
そう考えると、またまたスウィンザの胸に針のような鋭い痛みが走った。
「自業自得ですね。あの小さな人間に、全財産を提供してしまったりするからです」
一文無しとなってしまった二人は、こんな小屋で最後の夜を過ごさなくてはならなくなったのだ。
だから財布をやってしまったアリエス本人のせいであり、それについて自分が責任を感じる必要などどこにもない。
そこまで原因を明確にすることで、スウィンザはやっと己を納得させた。
そして、そんな状況を作り出した張本人のアリエスはというと――。
今はひとり教会へ行っている。
最後の祈りを捧げるために。
――今頃、彼女は何を祈っているのだろう。
護衛兼監視役としては彼女の傍を離れるわけにはいかない。
が、教会は神聖な場所であるから、余程のことが無い限り誰かに襲われる心配はない。
概ね安全だと分かっているからこそ彼女をひとり残してきた。
しかしそれ以前に、教会とは人間のための施設だ。
感情ある者のみが心の平安を得る目的で集う場所。
AIであるスウィンザは受け入れられないため、彼女を送ったあと仕方なくこの小屋へ戻ってきたのだった。
けれど、流石にそろそろ長い祈りも終わる頃だろう。
――最適化が終了したら、迎えに行かなくては。
脳内でそう予定を組んだ時。
ガタンと音を立てて木戸が開いた。




