第15話 真名
――このままではダメだ。
もう彼を止める方法が……。
ぐっと両目をきつく閉じたアリエスは、これ以上為す術もなく。
身を切る勢いで言いたくない名前を呼んだ。
悲鳴にも似た金切り声で。
「お願い、RD505!!」
RD505――。
それは彼のシリアル、つまり製造番号。
悲しいけれど、彼にとっての真名はこれだ。
その証拠に、暴走しかけていたスウィンザの状態が即座におさまっていく。
沈静化していく様子にホッと胸を撫で下ろしながらも、アリエスの心境は苦々しいものだった。
彼はやはりAIなのだ。
こうして「スウィンザ」などという人間らしい名を持ったとしても、機械の頭脳は解釈できない。
自分というものを表す「名前」だと認識してはくれない。
「アリエス? それはあなたの全財産ですよ?」
完全に冷静さを取り戻したスウィンザ。
アリエスの気持ちなど寸分も気づかぬ様子で、ただただ呆れたような表情を作って訊いてくる。
「いいの……お金はもうわたしには必要ないから」
「……なるほど。あなたから提供するというのですね。だからこの小さな人間には罪がないと?」
コクコクとアリエスが頷くと、ようやくスウィンザも納得してくれたようで。
掴んでいた少年の腕に財布を握らせ、ようやく解放してくれた。
スウィンザに掴まれた腕が痛むのか。
それともこの異常なやりとりに恐怖してしまったのか。
いやいや、その両方なのだろう。
涙で顔をくしゃくしゃにした少年は、一言の礼も告げず。
一目散に逃げて行ってしまった。




