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第11話 僥倖

 街の雑踏に入らず、正門の近くでひとり茫然と立ち竦んでいたアリエスの存在に気づいたらしい。


 子供は好奇心が強いものだ。


 余所者にも警戒なく近づいてくる。



 この街コアデザートに住む人々はその多くが黒目黒髪をしている。


 緑色の髪と瞳を持った人間は相当珍しかったようで、アリエスはあっという間に子供たちに囲まれてしまった。



「ねぇ、お姉ちゃん。その色何ていうの? すごく不思議」



 男の子はやんやと野次るようなことを言うが、女の子は興味津々といった様子で素直な疑問を口にする。


 南の島の海岸で採れるという黒真珠のような瞳をキラキラと輝かせて、アリエスの言葉を待っている。



「よく〈若草色の髪〉って言われるわ。初夏になると草原を埋め尽くす淡い草の色に似ているから」



 子供たちは揃って首を傾ける。


 ひそひそと互いに囁きあいながら、意味が分からないという顔をした。



「若草ってなあに?」


「草原って食べられる?」



 ゆっくりと子供の目線まで腰を下ろしたアリエスに浴びせられたのは、そんな質問の声だった。


 この街しか知らないのだろうか。



「草原っていうのはね……えっと、うーん」



 説明しようとして、アリエスは声を濁らせる。


 どう伝えたらいいのか、適切な言葉が思い浮かばないのだ。



 長い闘病生活であまり外へ出られなかったアリエスも、世の中を知らないという意味ではこの子供たちと大差ない。


 実際、若草に埋め尽くされた草原を目にしたのは、スウィンザと旅を始めたあとだった。



 あれは僥倖だったと言うべきだろう。


 本当に思いがけない幸運だったと、アリエスは心からそう思っている。



〈ニュークリアス〉に接近を感づかれないために、二人は空路や海路ではなく陸路を選んで旅をした。


 何度か〈ニュークリアス〉の手先である偵察ビットに遭遇しそうになり、大きく進路を変え迂回したことがある。


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