第10話 死神
そして。
この制御装置の存在が〈ニュークリアス〉に察知され、強制排除されてしまうのを避けるために、わざわざ人間の体内に隠すのだ。
特に細胞の入れ替わりが激しい成長期の肉体ほど、隠れ蓑としては相応しい。
まるで詩を口ずさむようにそう告げたインジバ博士に、知らずアリエスは寒慄を覚えたものだ。
単眼鏡の下で光る赤く血走った瞳を思い出すと、今でも背筋が冷たく凍る。
ぞくぞくと、まるで氷柱に背を突き刺されるような痛みを伴う悪寒が蘇ってきてしまう。
思わずアリエスは己の両腕を抱きかかえていた。
(スウィンザは……)
制御装置の開発と同時に造られたのがスウィンザだった。
超高精度・高機能を搭載した最新型AI。
制御装置を植込まれたアリエスを守護し、その時が来たならば〈ニュークリアス〉のもとへと誘う存在だ。
守護神でありながら、けれどその正体は死神。
アリエスにとっては複雑で矛盾した関係だった。
しかし、そんな非情な役割とは裏腹に、彼はどこから見ても人間、いや、人類よりもずっと美しい外見をしていた。
加えて、その端麗な容姿にも引けを取らぬほどに素晴らしい、至高の声を持っていた。
彼の歌声はまるで大天使の囁きのようで。
耳にしながら眠れば、アリエスは死の恐怖から救われる。
死神の子守歌。
それなのに、確かに心に響く何かがあるのだ。
だから今夜はどうしても聴かせて欲しい。
明日、自分の命は消えてしまうのだから。
そっと目を閉じたアリエスの耳には、昨夜も聴かせてもらった歌が鮮明に浮かび上がってきた。
透き通った声。
確かに男性の声なのに、どこか中性的で神秘めいた声質。
――と、突然。
「わぁぁぁ! 変な髪のお姉ちゃんだ、野菜の色をしてるよ!」
屈託ない声と共に、街の大通りから数人の子供が駆け寄ってきた。




