第1話 狂博士
「白か黒か――」
病的なほどに血走った目を細め。
「選ばせてあげよう。おまえが誰よりも人間らしいという証として」
狂った博士はニヤリと口端を歪ませた。
分厚い単眼鏡の下、血の色を滲ませた眼球が不自然にぎらぎらと光っている。
しかし。
こうして選択を求められた人物の方は、少しの感情も見せることはなく。
低くもなく、かといって高過ぎもしない、美しい声で答えを返した。
寸秒の迷いもない返答を受け、〈狂博士〉の口許は再び大きく引き歪む。
「なるほど……。なんとも嬉しい限りの裏切りだ。これはもう流石としか言いようがない。間違いなくおまえは私の最高傑作だ」
彼の返答は博士の期待通りであったのか。
それとも――。
「だが……そうだな。あぁ、なんと嘆かわしいことだろう! 残念だが、天才だ奇才だと称賛され尽くしたこの私の精神は、もはや破綻してしまっている。くくく、せっかく選んでもらったのに申し訳ないね。私はおまえに明るい未来は与えられない。そう、白と黒。どちらも――」
白金髪の影に佇む淡青色の瞳を見下ろしてから。
「絶望の色なのだよ」
白衣を着た狂人は、凍える笑声を噴きあげた。