エピローグ
「では、今日は話題のSF作家・星埜苺さんへインタビューしたいと思います! よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「この3月に発売されます、こちらの新作『机上の時空論』は、星埜先生ご自身の体験をもとにしたものだとか?」
「そうです。もう何年も前の話ですが、高校生だった時に、机の上で文通をしていたんです。見知らぬ相手と」
「ロマンチックですね。その方とは会えたんですか?」
「いえ、結局、何も起こりませんでした……日常は続いていき、私は今も作家をしています。
勘違いをしていた、ということでしょうね」
「星埜先生はデビュー作でパラレルワールドをあつかっていましたが、もしかするとそこにもえいきょうが?」
「はは、そうかもしれません。私がやりとりをしていたのは、別時空の人間だったのかもしれませんね」
「では、最後に読者のみなさんにメッセージを。今、世間はコロナウイルスさわぎで大変なことになっています。先日は、数ヶ月後に迫った2020東京オリンピックえんきの発表もありました」
「はい。こんな時代だからこそ、本を読んで欲しいと思います。そして、感じたことを大切にしてください。それが自分を見つめ直すことに繋がると、私は思います」
「なるほど。きちょうなお話をありがとうございました! あ、もう一つだけ」
「なに?」
「ペンネームの由来をお聞きしてもいいですか? やっぱり女の人向けの本を書いているから……?」
「そうですね。でも、これはある大切な人の名前でもあるんです。私の妹の」
「うふふ、うれしいなー」
「君のことじゃないって、異稚児」
そこで、妹の幻覚――僕は「異稚児」と名付けた――は、不満そうに頬を膨らませた。
「もう、お兄ちゃん。そんなむずかしい名前でよばないで。わたしは苺だよ♪」
「はいはい、そうだね。『インタビュー』は楽しかったかい?」
「うん! ありがとう!」
異稚児は満足そうに笑った後、すっと消えた。疲れたのか、「眠って」しまったらしい。
6年も経ったというのに、彼女は小学5年生の姿のまま。不運な事故で死んだ妹は、変わらない笑顔を僕に向けてくる。
「苺」
僕は床に落ちていた本を拾い上げ、そっと仏壇に捧げた。
完