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机上の時空論  作者: 御法 度
13/24

小松京二

 

 にしても今日は、筒井さんと小松君に助けてもらってばかりだ。持つべきものは友達だね。

「あの苺が友達の良さを認めるようになるなんてね……。僕は嬉しいよ」

「もう、大げさだよ」

 いつの間にかお新ちゃんも戻ってきていた。

 4階まで上がると、さすがに息が切れた。降ったり昇ったり、忙しいことだ。

 廊下には誰もいない。静かな空間に、私の呼吸音だけが響く。ゆっくり歩きながら、息を整える。だけど、講義室の目の前まで来ても、はやる心は治まるどころか、ますます昂ぶりを訴えてくるのだった。

 もしかしたら、今日、クーロン君の正体が分かるかもしれない。

 鍵を射し込み、ゆっくりと回した。扉を開け、教卓に向かう。そこに私の目的である、()()()があるはずだ。

 物理の先生は、教卓の座席表を見て私たちを指名していた。この教室が部活で使われていないとしたら、考えられるのは、他の授業で使われているという線だ。おそらく、物理と同じような移動教室。

 時間ごとに座席表があると考えたのだ。そして、他の時間に私と同じ、窓際の最後列に座っている生徒が、クーロン君だろう。

「いつもの机は確認しないの?」

「あ、あとでするから!」

 今日は水曜日だからもう書かれているかもしれないけれど、後でもいいだろう。踏み込んだメッセージを書いた後だったから、返事を確認するのが怖いのだ。

 教卓には、思った通り座席表があった。クリアファイルに、2枚挟まっている。どちらもうちの学年で、一つは例の物理の授業だ。窓際の一番後ろの席に、私の名前が記されている。

 さて、問題はもう一枚。英語表現のクラスらしい。

 ここに、クーロン君の名前が記されている。

 私は、文字が正しい向きになるように、教卓に座席表を置いた。そして先生がするように教室を俯瞰してみる。だけど、

「……だめだ」

 当てが外れた。私が座っている席には、誰も該当していなかった。というのも、窓際の縦一列には誰も割り当てられていなかったのだ。物理のクラスではほとんど全席が埋まるけど、英表では机が余るらしい。

 この移動教室が始まったのは3学期からだ。寒い窓際を避ける配慮なのかもしれない。しかしそんなことはもうどうでもいい。結局、誰があの席に座っているかを絞る試みは、暗礁に乗り上げてしまったのだから。

 ため息をついて、何気なく座席表を見てみると、私の眼は吸い寄せられるように、一人の生徒の名前をとらえた。座席表なので、名字だけしか書かれていない。

『小松』

 その生徒は廊下側、入り口に一番近い席を割り当てられていた。

 もしかして……あの小松君? 小松、京二君。

『京二から聞いたんだけど――』

 うん、やっぱりそうだ。生徒会室での、さっきの筒井さんの発言。

 思えば職員室でも。小松君は難なく鍵をもらえた。忘れ物をした、と言い訳をしたらしいけど、何のことはない。小松君も本当にこの教室を使っていたのだ。

「あ」

「どうしたの?」

 今、気付いた。鍵をもらってきてしまったけど、返す時はどうしよう。もう小松君はいないし、自分で返す必要がある。行きと帰りで人が変わっているなんて、変じゃないだろうか。そもそも、今度は一人で返さなきゃならないのだ。

「やっちゃった」

「別にいいじゃん、それくらい」

「言うのは簡単よね」

「なら、彼に着いてきてもらったらよかったのに」

「無理だよ」

 どう事情を説明するのだ。

「そうだ! 君が小松君の物真似をして返しに行けば――」

「アホなこと言わないで」

 さも名案だというように言い出すから、一瞬期待したじゃない。

 ん?

 そこで、何かに気付きそうになった。入れ替わり。逆。

 何が逆なのか?

「わかった!」

 左右が逆なんだ!

 座席表に書かれた教卓を見落としていた。ちゃんと位置を合わすために、紙を180度ひっくり返す。文字の向きが反対になるのは、書いた人が間違えたからだろう。

 今度は、窓際の一列がちゃんと埋まった。空いていたのは廊下側だったのだ。そして、ちょうど対角線上の位置にあった席が、私の席と重なる。

 まさか、そんな。

「苺、誰か来たよ」

「え」

 足音に気付いた。徐々に近付いてきて、やがて入り口に現れた。

 先ほどの小さな悩みは解決した。どう鍵を返しに行くか。やはり着いてきてもらうのがいいだろう。

 そこにいたのは、窓際一番後ろの座席の人物。私が凝視していた名字の人。

『小松』

 小松京二、その人だった。

 

 





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