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机上の時空論  作者: 御法 度
12/24

初日の試験は日本史でした

 

「じゃあ入って」

「え、いいの」

「いいよ、よく生徒の相談とかも受けてるし」

 中はイメージ通り(?)、雑然としていた。壁際の古いパソコン。うずたかく積まれた書類の山。スリッパが大量に入ったダンボール箱。傘立てに差し込まれた古めかしい学校旗。壁に貼られた雑多なステッカー。

「うわあ、本物の生徒会室だ」

「面白い反応するね」

 筒井さんはからからと笑った。

「うちの高校さ、やたらと部活や同好会が多いんだ。活動場所をまとめたプリントが、ここら辺にあったと思うんだけど……一緒に探してくれる?」

「うん、もちろん」

 私が言い出したことだ。当然よ。

 すると長机の上に、どさっと書類の束が積み上げられた。……け、結構な量ですね。

「それはこっち。この箱にまとめて」

「はい!」

「あ、それはファイルに入れたままで良いよ。そこ足下気をつけてね、滑りやすいから」

「はいー!」

 しばらくして、気付いてしまった。

「私、ちょうどいい労働力になってる?」

「はは、ばれたか」

「ちょっと」

「ごめんって」

 こうやって気を許し、ふざけあえるのも、だんだんと当たり前のことになっていた。

「それに、ここなら人の目を気にせずに済むよ」

 さらりと、筒井さんは言った。

「京二から聞いたんだけど、第4講義室ってうちのクラスも何人か、移動教室で使ってるとこだよね。確か、星埜(ほしの)さんも」

 ここに移動したのも、仕事をするためだけじゃなかった。彼女には、ちゃんと考えが合ったんだ。私とその教室の関係も見抜いていたみたいだ。どうしよう。言うべきかどうか。

「……机の中に、誰かの筆箱が忘れてあって、それで」

「いいよ、別に。言わなくても」

 一瞬の逡巡を、筒井さんは見逃さなかったみたいだ。嘘だと看破されている。私はうなだれるしかなかった。

「無理に聞くつもりはないのよ。でも、いつか教えてくれたら嬉しいな」

「ありがとう」

 どうして私にここまでしてくれるのだろう。優しさに感謝すると同時に、微かな疑問も湧いてくるのだった。

 結局、どの部活や同好会も、あの教室を使っていないことが判明した。

「一応、鍵で管理しているから勝手に入ることも出来ないはずだけどねえ」

「分かった。ありがとう」

 それでは、次はもう一つの可能性だ。

 残って仕事をやってしまうと言った筒井さんと別れ、私は職員室へ向かった。第2案を確かめるには、まずあの教室の鍵を借りなければならない。

「……ダメだ」

 即座に頓挫した。試験期間であることを失念していた。ドアには、『試験期間中につき、生徒の立ち入り禁止』の張り紙がしてあったのだ。

 当然だ。職員室の中には明日以降のテスト問題もあるだろうから。

「どうして? 声をかけるくらいいいじゃん」

「でも……」

 おにいちゃんは簡単に言うけどね、私にとってはハードルが高いのよ。知らない先生も大勢いて、普段から職員室は入りづらいのに。入り口にこんな張り紙までしてあったら、ドアを開けるのも躊躇ってしまう。

「本当に苺の人見知りは筋金入りだねえ」

「うるさいよ」

「ここにいたのか」

 ひゃっ。まただ。人前で声を出していた。

 職員室の前で不審な挙動をしていたから、私は先生に怒られたと思った。だけど、振り返ってみれば、そこには学ランの男子。それも見知った顔だった。

「小松君」

 小松京二君。最近話せるようになった、数少ない男子だ。少しホッとした。

「えっと、第4講義室の鍵が取りたいんだけど、これ」

 ドアを指差す。小松君は張り紙を一瞥し、「ああ」と納得したように頷いた。そして、優しく微笑んだ。

「分かった。取ってくるよ」

「え?」

 彼はさっさとドアを開けると、「失礼します」と中に消えた。え、え。いいのかな。

 すぐに、小松君は戻ってきた。ほんのり誇らしげに、鍵を掲げている。

「ほら」

「ありがとう……なんて説明したの?」

「忘れ物したって言ったら、すぐ貸してくれたよ。

 星埜はどうして入りたいんだ」

「えっと、忘れ物したから」

「はは、ごめんな。余計な詮索だった」

 今日は嘘をついてばかりだ。申し訳ない。

 その時、私はあることに気づいた。

「小松君、私に用事あった?」

「え」

 さっきの小松君の言葉は、少し変だった。「ここにいたのか」と。私を探していたかのような言い方だった。

 首を傾げていると、

「いや、なんでもない。先に行ってこいよ」

「なにそれ」

 拍子抜けしてしまった。しかも、彼はなぜか不自然に顔が赤い。なるほど、やっぱり小松君も職員室に入るのは緊張したんだね。

「ありがと。助かった。じゃあ」

「おう、またな」

 私は小松君に片手を振って、職員室を後にした。

 敵は第4講義室にあり! そこに答えはあるのだ。

 たぶん。






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