生徒会長
ついに書いてしまった。
今まで避けていたこと。なるべく考えないようにしていたこと。
クーロン君は、何者なのか?
「大胆だねえ、苺は」
(うるさいわよ)
試験は水曜日に始まった。26日。初日の感触は、正直あまりよくない。最近眠りがちなお新ちゃんは、試験中も黙ったままだった。手助けが無かったのは、大きな痛手だ。
『奴は我ら学期末試験の中でも最弱だというのに』
『先が思いやられるなあ、小娘よ』
『星埜家の面汚しめ!』
これからも数々の難敵が控えているのに、困った話だ。まあ、もともと頼るべきものではなかったのかもしれないけど。自分の無意識の作用だとしても、やっぱりちょっとカンニングっぽいもの。
だから一番の原因は、どうしたって私なのだ。この数日間は、あまり勉強に身が入らなかった。ふとした時に、あのことを考えてしまう。
金曜日。私が書いた文字。
『知りたい 君のこと』
うわー! あれは恥ずかしい。死にたいって書いたのも大概だけど、あれは酷い。だって、あんなの、もう。
私の思考が乱れている、こんな時に限って、お新ちゃんは目を覚ましていた。
「ふふ。実質、告白だよね」
「言わないでっ!」
「ええ、なにを」
すると、筒井さんが驚いたように言った。しまった。すぐ側にいたらしい。
学校なのに、つい言葉に出してしまった。心の中でお新ちゃんに恨みの言葉を吐くけど、逃げ足の速いことに、もう「眠って」しまっていた。
「えっと、ごめん。なんでもないの」
「あはは。試験勉強でおかしくなったー?」
頭がおかしいのは、当たらずも遠からず。
「うーん、勉強ができていたらまだ良かったんだけどね……」
「ほんとにどうしたの? 悩みがあるんなら聞くよ?」
筒井さんは少し心配になってきたみたいだった。その厚意はありがたかった、けど。さすがに、いきなりクーロン君のことを話すのは無理だ。私だって、まだ心の整理が付いていないのに。
「じゃあ、ちょっと聞いてもいいかな」
「任せて! なんでも聞くよ! ん? どっちが聞くんだ……?」
私はついに腹をくくっていた。こうなったら、クーロン君の正体を突き止めるのだ。残りの試験の間も悩んでしまうことを考えれば、そうするしかない。せめて、相手が誰かさえ分かればいい。敵を知れば百戦危うからず、と言うではないか。
「己を知る」という部分を忘れていたと思い知ることになるんだけど、それは後の話。私はある疑問を筒井さんにぶつけてみることにした。
「第4講義室って、どの部活が使っているか、知ってる?」
それは、試験勉強の合間に考えていたことだった。クーロン君の正体にたどり着くには、あの教室をどんな人間が使っているかを知るのが手っ取り早いと思ったのだ。まず最初に思いついたのが、部活動で使っている線というわけ。
「それって、4階のあの教室だよね? うーん、どうだったかな」
「部屋の後ろにね、色々置いてあるの。将棋盤とか、外国のボードゲームとか」
「囲碁将棋部は第2を使っているから、違うね。ボドゲ愛好会もそこに間借りしているし」
即答だった。さすが、交友範囲の広い筒井さん。
「あと、文集みたいなのもあった」
「漫研は別の場所だし、うちの高校は文芸部は無いからこれも違う、か。他には?」
「……ビーチバレーのボールとか」
「はは、さすがにお手上げだよ」
筒井さんは笑った後、考え込むようなポーズをして、私に言った。
「じゃあ、今から確かめてみる?」
「え? 確かめるって」
4階まで行ってみるんだろうか。
「まあ、私に任せて」
にやりと笑うと、私の手を引っ張って歩き始めた。慌てて着いていく。
筒井さんは階段まで向かうと、なぜか降りる方を選択した。昼休みの校舎は、まだ寒さの残る時期だから、人気があまりない。どうやら昇降口に向かっているようだった。
「えっと、筒井さん、」
「ほら。ここだよ」
昇降口の手前で、彼女は立ち止まった。そこは、私も見覚えのある場所。全校生徒が立ち寄りやすい場所にあるそこは、生徒会室だった。
「もしかして、筒井さんって生徒会に入ってたの!?」
「うん。ていうか生徒会長」
彼女は苦笑いを浮かべた。
ええ!?
たいていの青春小説に登場する、あの!
「筒井さん、やっぱり凄い人だったんだ。ごめん、私知らなくて……」
「いやあ、漫画みたいに派手な役職じゃないからね。縁の下の力持ちだ」
腕まくりをした筒井さんは、本当に頼りになる感じで、格好よかった。




