第八話 チキュウから来ました
ブリスが言う。
「一度決めた選択肢は変えられないの。変えられるとしたらトンネルの中まで。トンネルを出たら異世界で暮らすしかないのよ。」
「なんで村に着いたらトンネルが消えることを説明してくれなかったの!」
「それを私たち天使が教えちゃいけないの。自分の意志ですべて決めなきゃいけないの。私が平均年齢の話をした時、引き返してくれるかと思ったんだけど、スーパーマンの話をしたのがいけなかったわね」
「そうだよ。ヒーローになれそうだったからこの星に行こうと思ったんだよ」
「ヒーロー?何を話しとるんだ?やはり君達はテンコさんが話していた救世主の勇者か?」
「テンコさんってどなたかしら。いえ、私はただのコスプレイヤーですのよ、ほほほ。ミルクいただいてから、また旅に出ようかしら?」
温かいミルクが出てくる。僕はミルクを口に付けて、「チキュウというところから来た旅人です」と僕は言った。
ブリスは僕の言葉を遮った。
「チキュウって村から歩いてきたんですよ」
「チキュウ?聞いたことない村だな」
ブリスが僕に囁く。
「異世界なんて言ったら救世主にされちゃうわよ」
「何がいけないのさ」
「だから救世主なんかになったら、ドラゴンが現れる度に毎回戦わされることになるのよ。まだ眠っているけど、ここには雌のドラゴンもいるんだから。その子ども達が孵化したどうするの」
「それは面倒くさい」
僕はここで生き続けるのか。地球ほど文明の発達していない世界で。
ミルクをくれた老人はダンクスと名乗った。ダンクス老人は布の上下の服を着て足には皮のブーツを履いている。腹の帯には短剣が備わっていた。
ダンクス老人が入れるミルクは濃厚で美味しかった。
「やはり二人ともこの世界ではない格好をしているな」
僕が高校のブレザーのまま。ブリスは会った時のままの天の使いの格好をしていた。
「それが私達がいたところは、変わった村でしたの」
「これは僕のいたチキュウの高校の制服です」
「本当に変わった制服だのお。そなたはなんという名前だ?」
「フートって呼ばれいます」
「フートさんか。そちらは?」
「私はブリスって言いますの」
「そちらの方も制服か?」
ブリスの天使の服にダンクス老人が聞く。
「いえ、これは職業柄こういう服を着る仕事で」
「あーあれか。夜の商売か」
「そういうことにしとくわ」
むっつりとしながらもブリスは反論はしなかった。
「マニア向けのか」
「マニアは余計よ。でもまあ、希少な仕事といえばそうかしら」
僕は、「これからどこに行くの?」とブリスに聞いた。
「とにかくこの村を出るのよ。ドラゴンが出たらどうするの?」
ダンクス老人が、「そうじゃな。危険だからな」と僕らを心配してくれた。
ダンクス老人は、「知ってのとおり、この村の東の火山にドラゴンが住んでいる。村人は全員遠くの村や近くの塔に避難した。何故こんな危険な場所に来たんだ?」と聞いた。
「トンネルを抜けたらここだったんです」と僕は言った。
「トンネルなんかあったかの」
そうだ、トンネルは消えたんだった。
「お爺さんはどうしてこの村から避難しないんですか?」
「もうこの歳だ。今さら逃げる気も起こらん」
ブリスが、「お爺さん、おいくつなんですか?」と聞いた。
「もう1186歳だ」
「み、見た目よりお若いんですね」
「もう腰の曲がった爺さんだよ」
そうだ、この星の平均年齢は約千歳だった。