第三話 花壇で何をしている?
番組が始まって最初の2時間はドラゴンの闘い方についていろいろ質問攻めにあった。
ドラゴンの話が一通り終わると僕がドラゴン退治に来た理由について話すことになった。
「手前が神谷風人くんです。どうしてここにドラゴン退治に来たんですか?」
あれは一週間ほど前のことだった。消えそうだった記憶の中で思い出した。
テンコさんに伝える時に最初は魔法陣に囲まれたことにして神に選ばれし勇者という設定にしようと思ったが、テンコさんに嘘を貫き通すのも疲れると思って、正直に死んだことを語った。
僕は地球という星で死んだことを話した。
テンコさんは、僕が死んだことに割と平気な態度だった。
そうだ。僕は学校の花壇で死んだんだった。
最初に僕を目覚めさせてくれたのが、隣に座るブリスだった。
「あんた、2階から落ちたぐらいでいつまで倒れてるの?」
ぽっちゃりの女性が僕の肩を揺らした。
「もう早く起きなさいよ。遺体は1時間前に運ばれたのよ」
見渡すとそこは学校の花壇の上だった。
僕のクラス、2年3組の花壇だ。
咲きかけのチューリップが十本ほど押しつぶされ、その周りに白い粉で倒れた人型の線が描かれている。その人型の線の中に収まるかのように僕は寝ていた。
僕の周りにはクラスの生徒達が三十人ほどいて、その中央に若い男女の警察官が2人いた。
「先輩、刺殺ではなく、あきらかに転落死でしたね」
「2階から落ちて死ぬとはなあ。打ちどころが相当悪かったんだろうなあ。脊椎骨折か」
「良かったんでしょうか。包丁で身体に傷を負わず綺麗に死ねて」
「良くはないよ。どっちみち、こんな若さじゃ家族が悲しんでるだろう」
「そうですよね…」
警察官の男女二人が僕に手を合わせた。
僕は二人に頭を下げて一礼した。
周りの生徒達も同じように手を合わせていた。話したことのない同じクラスの女性3人と篠崎由佳さんが泣いていた。
僕の倒れていたところにチューリップがへし折れている。
「本当に馬鹿よ。2階から落ちて死ぬなんて」と名前も知らない1人のクラスメイトの女子が泣きながら言う。
すると篠崎さんがそのクラスメイトに言った。
「馬鹿じゃないよ!?私達を守ろうとしたんだよ」
なぜ、篠崎さんが泣きじゃくってるの?
篠崎さんはとは滅多に話したことがないが、僕はもう5年も片思いしている。
高校も篠崎さんと同じところに行きたくて受験を必死で頑張ったぐらいだ。
男性の警察官が篠崎さんに声を掛けた。
「あなたが人質になったんですよね。すいません、署で詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
「はい・・・」
泣いたままの篠崎さんを男女の警察官がパトカーに乗せっていた。
そうだ、篠崎さんは人質だった。
僕は頭が混乱していた。
ひとまず残ったクラスメイト3人の女性に謝った。
「・・・ごめん、僕が花壇に倒れたせいでチューリップが・・・」
しかし、クラスメイト3人は僕を無視していた。
僕は下敷きになって折れたチューリップを再び立たせようとした。
あれ?チューリップに触れられない。
何度触れようとしても触れられない。
土にも触れない。
僕を囲むように周囲の人が泣きながら僕を見ている。
「ごめんなさい!!」
なんだか恥ずかしくなった。
僕は大勢の生徒に囲まれている場所から急いで立ち去ろうとした。
「ちょっと失礼します!」
人混みを通り抜ける時に多くの人と接触したはずだったが、その感触はなかった。