第二話 何故か鬼の話
「テンコさんの部屋に一回入ってしまうとテンコさんが満足するまで、ここでトークをし続けることになるのよ」とブリスがこの番組について書かれたデータを宙に出現させて小声で読み上げる。
「最長で百年を超えたゲストも1人いるわ!番組中に亡くなったみたいだけど」
「じゃあ、つまらないトークにして飽きさせればいい」
「テンコさんは面白くなるまで粘るのよ!百年超えて死んじゃった人も最初はテンコさんとの会話がつまらなかったみたい。途中から精神的におかしくなってテンコさんが楽しみだしたの」
「こわー!じゃあ、盛り上げてすぐ出ないと」
「盛り上がったら盛り上がったで長くなるみたいだけど、精神に異常を来たすよりはましよね」
「盛り上げよう!」とブリスに声をかけた。
「はい、CM終わって本番入りまーす」
CMが明けたことをADが告げるとブリスの手元からデータが消えた。
メイクのダリアさんがテンコさんが食べていたドラゴンの肉を片づけてフレームアウトする。
「5、4、3・・・・・・・」
銅の鎧頭のADがカメラの下で指だけで「1、0」の合図を出す。
「♪ボーボボ♪ボボボボーボボ」
「テンコの部屋のテーマソング」だ。
改めて僕らは紹介された。
「今日のゲストはドラゴンを倒しになられた勇者の神谷風人さんとお供のブリスさんです」
「お供ってまるで桃太郎と猿みたいですね。ウッキー」
ブリスがおどけるがテンコさんにはピンと来ていない。
「桃太郎って何かしら?」
そうだ、この世界には桃太郎はない。
「あ、私のいたところの昔話です」
「あら、どんなお話なの?聞かせて聞かせて」
テンコさんが興味を持ち始めた。
「桃から男の子が生まれて鬼退治に行くお話で、その仲間に犬と猿とキジがいたんです」
「桃から男の子が産まれるなんてありえないわ。ナンセンスよ」
「ですよね」とブリスが小心する。「でもそんなおとぎ話がチキュウってところにはあるんです」
「そんな話が人気なの?」
「人気よね」とブリスが僕に話を振る。
「人気というか子どもの頃にほぼみんなが聞かされる話で。僕のいたところでは知らない人がいないぐらい有名な話です」
「桃から生まれた男の子が鬼退治をする話ねえ。その男の子は受粉で出来たのかしら?」
テンコさんからとんでもない質問が返って来た。
「受粉!?それはないでしょう」
改めて考えると桃から男が生まれてくる話をそれほど不思議に思ったことはない。
正直、桃太郎が赤ちゃんの時に何故桃に入っていたかを知る人はいないだろう。
「お婆さんが川から流れてきた大きな桃を拾って包丁で切ったら男の赤ちゃんがいて・・・」
「あらまあ、中に男の子がいるのに包丁で桃を切ったの?頭は大丈夫だったの?身体は無事??」
テンコさんがまた新しい不思議を発見した。
「傷一つなく無事に切れました」
「二人がいたところには変わったお話があるのね。でも何故犬や猿がパートナーなの?ムキムキな格闘家か弓矢をもった兵士でいいじゃない」
やっぱりそこに食いついた。
「きびだんごという団子をあげたらお礼に鬼退治の協力を申し出たんです」
「団子だけで鬼退治に協力してくれるって優しい動物たちね。動物愛護団体には訴えられなかったの?」
「・・・昔話だから、その時代はそういうのもなかったみたいで」
テンコさんは腑に落ちないながらも話を変えた。
「そんな鬼の世界から来たお二人ですが、」
「あ、鬼の世界ではないです。鬼は作り話です。架空の話でして、僕らがいたところにはいません。鬼みたいな人はいますが」
「鬼みたいな人?」
「チキュウでは怒った時すごく怖い人を『鬼』と例えるんです」
「あと、形容詞で『すごく』という意味をあります」と僕が助け船を出すが余計だったかもしれない。
「じゃあメイクのダリアちゃんは『鬼かわいい』っていうのかしら」
「使い方は間違ってないような気もしますが、どっちかというと『激しい』という意味合いが強くて」
「『鬼ころし』ってお酒もあったわね」
話を反らそうとしたブリスがこれも余計な一言を言った。
「鬼を殺すお酒って強い毒でも入っているのかしら」
テンコさんは不思議がった。
「鬼を殺すくらい酔わせてしまうという意味ではないでしょうか」とブリスがテンコさんに言った。
高校生にもなって「桃太郎」と「鬼」でこんなに話したのは初めてだった。こんなトークがこれから先ずっと続くのだろうか。
テンコさんが改めて僕らを紹介した。
「そんなフィクションが人気の世界から来られたお二人ですが、なぜドラゴン退治に来られたのか聞いてみましょう」
フィクションは確かに人気だが。やっとドラゴン退治の話が出て来た。
この番組の放送は長くなりそうだ。