ちゃんと聞いて
朝起きた瞬間やばい遅刻だって思ってすぐ起きたのに時計見たらまだ六時半じゃん、えっもっと寝れるよってタオル被りなおしたのはいいけど、寝ようにも寝ようにも一度目を覚ましちゃうと眠れないってのはいつものことだし、わかってるのに、でも今日こそは出来ると思って、ていうより期待して、ていうか頑張ろう、これを達成したらそれこそ自己記録だパーソナルベストだって唱えてたらそれこそほんの最近の話だけど、今やってる陸上の棒高跳決勝のことをね思い出して、でも深夜にやってたから録画して見たんだけどかっこいいんだよあの人たちほんとに、それに最後の最後三回目でこれを失敗したら負けちゃうってときに自分がまだ飛んだことのない高さひゅって飛んじゃうの、ひゅって飛んじゃって優勝しちゃったの、今まで一回も成功したことないんだよ、やばいよねめっちゃすごいよねほんとすごい、でそれにはね戦ってたライバルの人も拍手してて、すごいすごい信じられないって首を横に振りながら笑顔で相手をたたえてて、それから駆け寄っていってハグするの、それ見てるとこっちまで感動しちゃって泣けてきて、ううん泣きはしなかったけどジーンときて、ほんわかしてきて、やっぱりこういうのいいなあって、負けたのは絶対悔しいのに、今はそれよりも自分が飛べなかった高さをライバルが飛べたことに感動してて、素直に嬉しくて、若いっていいなあって思っちゃった、でもあの人たちわたしより全然年上なんだよね、だからこそかも、そういえば早く男子のも見たいのにいつやるんだろう、まだ終わってないはず、なんだけど、もしかしてもう終わっちゃった、でね話ちょっとそれちゃったけど、わたしも寝よう寝よう、今日こそ二度寝しようってそれで思えて、枕でぎゅっと耳をはさんでみたらふわふわして気持ちいいし、これなら眠れそう、やっぱりこの枕に替えてよかったほんとにって思って、前のやつはすこし表面も硬かったし、ごわごわしてて、今思うと何であれで我慢できたのか不思議なんだけど、でもこの子はふわふわ包みこんでくれて、時計を見てもまだ時間は平気だし、早く寝ようって思って顔にタオル押しつけてどれくらいだろう、ほんのちょっとだけそうしてたんだけど、やっぱり無理なのは無理だから、ほんとは最初からわかってたからそれでもう起きることにしたの、そう結局起きちゃった、ねえ聞いてる?
──聞いてるよ。
ほんとに? うそだよ、絶対聞いてなかった。ずっとスマホ見てたじゃん。え、じゃあ証明して。いま喋ったこと最初から教えてよ。出来るでしょ。
──え、だから、二度寝しようとして出来なかったんでしょ。途中で走高跳、じゃなくて棒高跳の話もあったけど。ていうか話もだいぶ跳躍してたよ。まあでも二度寝できなかったってことでしょ。それと棒高跳に感動したってことかな。
そうじゃないよ。そうじゃないじゃん。
──いや、そうだったよ。ちゃんと聞いてたよ。
そうだけど、でも違うよ。違うじゃん。けどもういい。
──どうしたんだよ。どうすればいいの。
ううんもういい。もう知らない。
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