第1章 〜笑えない〜 ep.1 『日常』
俺は金宮愼二、冴えない16歳の高校生だ。冴えない…と言うか、冴えられないのか、自分でもよく分からないが、俺は人に嫌われやすいらしい。
学校ではハブられ、いつもの不良達からカツアゲ、金が無かったらストレス発散のためのサンドバッグ、だいたいこの3連コンボの日常だ。
これと言った取り柄もなく、毎日顔に痣を付けられては帰宅して掲示板を眺めている。
こんな飽き足りた人生、やり直せる、と言うか生まれ変われるなら上でも下でもない、何も変わらない平凡な中の中ぐらいの人生を送りたかったものだ。
そんな事を考えながら、今日も環状線に揺られて学校という名の地獄へと足を運ぶ。とりあえず高校は卒業しておきたいの一心でめげずに登校してきてはいるが、それもいつまで持つことやら…。
と、噂をすればやってきた。いつもの不良達だ。名前なんて、興味も無いので覚えてすらいない。ただ顔とその雰囲気で認識している。すると不良の長が出てきた。クソダサい金髪と茶髪を混ぜたような髪色で、耳には何がカッコイイのか分からないくらい意味不明なピアスをぶら下げ、服装はピンクが目を引くパーカーの下に何か英語でエッセイが綴って(つづって)あるよく1○9にありそうなシャツ。ズボンは少し色の薄いデニムで腰パン。靴は派手に飾らず黒と茶色のオシャレな靴。アタマのネジが外れた人間のファッションセンスはどうも理解し難い。
そしてそいつは何かを企む小猿のようにニヤニヤとこちらを見つめながら話しかけてきた。
「シーンージー君!いつもの出ーして!まさか、昨日も無かったのに今日も無いなんて言わないよねェ?」
周りにいる奴もニヤニヤと嫌気がさすような笑みを浮かべる。
「おはようございます。朝から元気ですね。金ならあります。あなたたちが満足できる量かは知りませんが、まあ好きなだ」
丁寧に対応したつもりだったが、その不良の長の気に触ったのか、いきなり顔面にフックを喰らう。
「朝の挨拶までは良かったんだが、ちと話が長ぇンだわ。さっさと財布ごと出せばいいんだよッ!」
今度はみぞおちに膝を1発。まあいつもの事なので受身をとり、痛みを最小限に抑えた。
「…ゲホッ、すみません…とりあえず財布です。」
長は不機嫌そうに財布を奪い取るかのように強引に引き取る。
「それじゃ、俺はこれで…」
不良達の気を計らいその場をやり過ごすつもりなのだが、長の気はいつも計らえない。
「おい、待てよ。なんだこれ。」
長は財布を地面にポスンと落とす。その中から万札が何枚か見切れた。
「なんだこれって…お金ですけど。」
「なんだこの量。こんだけで俺達が満足すると思ってんのか?万札3、4枚で足りると思ったのか?俺達、そんなに短い付き合いじゃないよなァ?」
長の顔にみるみるとシワが寄ってくる。
「でも、これだけしか」
「これだけしかァ!?そんな訳ないよなァ、嘘なんて吹くだけ無駄だぜ。万札用意すりゃ俺達がのこのこと撤収するとでも思い込んだか?あ?」
既に手の付けられない状況だ。朝から顔に痣を付けられて学校に出るのは、ハブられているとはいえかなり辛いものである。
しかも今日は痣どころでは済まされそうにない。
「ま、いいや。んじゃいつものやるね〜。」
そう言った刹那、俺の視界は彼の拳で埋め尽くされた。
気が付いた時には、もう既に彼らは居なくなっていた。何の慈悲かは知らないが、財布は残されていた。もちろん、万札は全て抜き取られていた。
スマホの時計を確認すると、既に10時半を回っていた。
「やっべ、何時間寝てたんだ?俺は。」
そして今更何を焦るのか分からないが、急いで学校に向かった。
遅刻なんてほぼ当たり前のようなものだったので、あまりショックは受けなかったが、その日はダントツ遅かったので、周りの目も相当きついものとなっていた。
後で気付いたが、歯が何本か欠けていた。一体どんな間抜けな姿で教室に入ったのだろうと思うと、自分の事なのにクスッとなってしまった。
「こんな日常、つまらないよな…。」
1人紅く染まる夕暮れに呟く。
その夜、事は起きた。いつもの様に暇を持て余すため、お気に入りの掲示板サイトを閲覧していた。俺は基本スレは立てず、見るだけの立場である。俗に言うROM専というやつだ。
そこでとあるスレッドを見つけた。その奇妙なスレ名に、思わず呟いていた。
「…なんだこれ。『ゴミ捨て場みたいな名前の神社見つけたった』…?」
釣りなのかな、と思いつつスレッドを開くと、そこには自分の家の近所の地図が添付されていた。
「これ、俺の家の近所じゃないか?」
更に読み進めて行くと、その神社は捨物神社と言うらしく、あまり有名ではないらしいが、そのスレッド主は奇妙な事を書き込んでいた。
「えーとなになに?その神社では『なんでも自分が望むものを捨てられる』…?なんだそれ。ただのゴミ捨て場じゃないのか?」
スレッド内では、出任せを言うなやら、嘘乙やら、ほんとにあるの?など釣り扱いされていた。
だが、地図アプリで捨物神社と調べると、確かに出てきた。しかもそのスレッドに添付されていた地図の場所と全く同じだった。
「これは…行くしかないな。」
こんなに胸が高鳴ったのはいつぶりだろうか。夜も更け、空は闇に覆われていたが、そんなことは躊躇わず俺は家を飛び出した。