音楽会のおわり
音楽会が終わりました。
全ての演奏が終わり、動物たちがそれぞれのチームの前にドングリを並べます。
『REDジャズ』も、『環天頂アークロック』も、同じくらいの山になりました。
……特別審査員の、逆さ虹はどうでしょう?
見上げると、逆さ虹はぷるぷるぷるとふるえだし、ぐるぐると水平にコマのように回転しだしました。
みんなが呆気にとられていると、突然、ぴたりと止まりました。
そしてーーー逆さ虹の根本から、金色ドングリが落ちてきました。
『REDジャズ』にひとつ、『環天頂アークロック』にひとつです。
ぽかんとしたみんなをそのままに、逆さ虹はゆっくり、ゆっくりと上がっていきます。
ーーーちゃぷんっ
ドングリ池の氷が溶け、池の水に戻ります。
真夏の夜が戻り、熱気を帯びた風が吹きました。
満月は傾いています。
沈む頃には、ニワトリさんの朝を告げるトランペットの音が聞こえるでしょう。
『REDジャズ』も、『環天頂アークロック』も、顔を見合わせて、おそるおそる金色ドングリを手にしました。
ーーーこうして、今年の逆さ虹の森の音楽会は終わりました。
◇◇◇エピローグ◇◇◇
ある日の夕方、音楽会で演奏したみんなで、ドングリ池に集まりました。金色ドングリで願い事をするためです。
フクロウさんには、少し早起きして来てもらいました。
まずわたしたちから代表して、キツネさんが金色ドングリを投げました。
ぽちゃん
池の水にドングリが入り、水面がゆらりと金色に輝きだします。
『オンボロ橋が直りますように』
手を合わせて……わたしは根っこですがーーーキツネさん、リスさん、アライグマさんと一緒に言いました。
すると、金色の光がゆらめいて、水面にオンボロ橋が映し出されます。
ボロボロになった橋のロープが、組み込まれた材木が、みるみる新しくなり、壊れたところがなくなります。
「これならぼく一匹でも渡れるさ!」
クマさんが言いました。
もうわたしの根っこを伸ばさなくても、川の向こう側の動物たちはこちら側に、こちら側の動物たちは向こう側に渡れるのです。
オンボロ橋が新しくなり、水面は元に戻りました。
「もうオンボロ橋とは呼べませんね」
みんな、うんうんとうなづいています。
続いて、コマドリさんが代表して、金色ドングリを投げます。
『森の仲間がたくさん増えますように』
コマドリさん、クマさん、ヘビさん、フクロウさんが言いました。
逆さ虹の森はおよそ千年前のある日、突然できました。最初は森と呼ばず、逆さ虹の下に木と川と草が少しだったのが、だんだん森になり、いつしか動物たちがいました。
川の向こう側には絶滅危惧種が、そして、川のこちら側には、絶滅危惧種予備軍が集まりました。
外の世界の動物たちが減ると、逆さ虹の森へ来るのです。
そうやって新しく来た動物たちは、ある日逆さの虹が見えて、それを追いかけていたらこの森に来た、と言います。
今年の金色ドングリはふたつ。
わたしたちは、何をお願いするか、音楽会のみんなだけでなく、森の動物たちみんなと話し合いました。
オンボロ橋を直すことと、外の世界から逆さ虹の森へ、仲間を増やすことにしたのです。
「ヒンカラララ〜♪これで、大合唱団ができるわね」
「ぼくははちみつ協奏曲をやりたいよ」
「んんん、ソプラノパート募集」
「ホウッホウッ、トランペットもお忘れなく」
『REDジャズ』のみんなが口ぐちに言います。
「ボクはまた、ロックをやってみたいな」
「ふん、わるくはないな」
「いいねいいね〜、たのしそう!」
「このメンバーで、またやりましょうか」
『環天頂アークロック』の同じメンバーで、また演奏するのも楽しそうです。
しばらく来年の音楽会をどうするか話して、みんなでオンボロ橋に……もうオンボロではありませんがーーー向かいます。
ぴかぴかになった橋の向こう側には、今まで見たことのない動物たちがいるようです。
「新しい仲間たちがきましたよ」
森の仲間が、また増えます。
『『逆さ虹の森へようこそ!』』
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
童話祭の動物たちを見て、将来、動物園でしか見ることのできない動物、もしくは図鑑や絵本でしか見ることのできない動物たちになる可能性があることに気付かされました。
『おとぎ話の動物』になる日も近いかもしれませんね。
逆さ虹の森で、幸せに暮らしているといいなという思いと、演奏描写に挑戦してみたいと思い書きました。
設定を全て使って書くことをやってみれて良かったです。