音楽会当日 その4
環天頂アークロックの出番です。
大きな大きな拍手の中、『REDジャズ』が退場します。
次はわたしたち、『環天頂アークロック』の出番です。
「ふん、じゅうぶんあったまった」
アライグマさんが、布団をバサリと脱ぎました。
「いいねいいね〜、もえちゃうね〜」
アライグマさんの尺八になにか入れようとしていたリスさんは、ぴたりといたずらをやめ、ハーモニカを握りしめています。
「ボクたちのロック魂、見せてあげよう」
キツネさんは、いつものお人好しなキツネの姿ではなく、どこか獰猛な目をして、何か狙っているかのような鋭さを見せてます。
わたしたちは円陣を組み、手を……わたしは根っこですがーーー出しました。
「環天頂アーク!」
『ロック!』
キツネさんのかけ声で、全員が声を合わせ、ごつんと握りこぶしをぶつけます。
緊張感は高まり、全員が一度天を仰ぎます。
空には逆さ虹と満月。
舞台上に並び、一呼吸。
照明を落とし、キツネさんにスポットライトが当たります。
狐紋付に縞袴、赤い和傘を差し、後ろ姿で立ちます。
Ven Ve Ve Ve Ven Ven Ven……
振り向いたキツネさんの三味線のイチョウの形のバチが、じょんがら節を奏でます。
Ti〰︎ Cara Ti 〰︎Cara Ti 〰︎Cara Ti〰︎Cara
Ve Ven Ven Ven Ven !
最後の一音が大きく鳴り、動物たちは凛と立つキツネさんの姿にくぎづけです。
わたしはキツネさんに差していた和傘を回収し、スポットライトの位置を調整しながら、鼓を鳴らします。
流れるようにぽん、ぽんと打ち鳴らし、わたしのかけ声を、いよっ!はっ!と合わせます。
アライグマさんの尺八が、荒ぶる風がうなり声をあげるかのように、ひゅるり、ひゅるりとした音を放ち、鼓の音が小さく消え、ひときわ尺八が荒ぶり、始まります。
キツネさんの独唱です。
「♪〰︎ せんねんの もりに つつまれて
かんてんちょうあーくの そらのした
ぷりずむらいとのひかりをあびて
ぜつめつきぐしゅの うたげはつづく〰︎」
森のナラ材のスネアスティックに持ち替え、カウントします。
「ワン、ツー、1、2、3、4!」
4ビートから8ビート、8ビートから32ビートへ、リズムを刻みます。
ハイハット、シンバル、バスドラムを鳴らし、再びスネアへ。根っこで打ち鳴らす、ドラムセット。
リズムに乗っていく速い動きで、リスさんがメロディーを吹き始めます。
「千年の森〜じょんがらVer.」です。
リスさんの動きに合わせ、ぎらぎらとハーモニカが照り返すのを見つめ、根から水を吸収する時のように、葉脈に栄養を行き渡らせるように、全ての動きに集中します。
全員にスポットライトが当たり、それぞれのシルエットが大きく池の氷に映ります。
影絵のように織り成す動きは、おとぎ話の世界です。
キツネさんがわたしを見ます。
別の根っこで、マリンバと三味線がセッションします。
ハーモニカが主旋律を奏で、尺八がうなるように追いかけます。
ドラムセットはリズムを刻みます。
激しくなる動きの中、客席を見ると、動物たちはみんな立ち上がり、手拍子をしています。
キツネさんが客席に向かい、挑発的に三味線を弾きます。
いよいよすごみを増した目元と、薄い微笑みを見て、女性客がよろめいています。
「♪ーーー誘惑の森 逆さの迷路
檻は外にある 早く中へ!」
ダカダン!ジャッ!
打ち鳴らすスネア、吹き荒ぶ尺八、哀愁のハーモニカ、物語る三味線と、歌声の魂の叫び。
ロックが反骨精神なら、間違いなく、今、わたしたちは逆さ虹の森の外の世界への、反逆を歌にしました。
……無音の一呼吸、ふた呼吸。
総立ちで拍手が巻き起こりました。
根っこさんは裏方もできます。
キツネさんはイケメンっぽいですね。