表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

人機境界

木ノ下と話しながら,歩道と機道を分ける白線を踏み越える.アンドロイドを始めとしたロボットは,人間に比べてかなり重い.安全と危険の境界を跨ぎ,例のアンドロイドへ近づいていく.

アンドロイドの背中で,白衣と対比するような深い藍色の髪が,風に静かに揺られている.どうやら,女性を模しているようで,思ったよりも華奢で小柄だった.代わりに異音も臭いもしない.店長が人形と評したのも,分かる気がした.人間に近いはずなのに,遠い.

木ノ下が片膝をついて,アンドロイドへ声を掛ける.

「あのぉ,大丈夫ですか?」

アンドロイドは一瞬の沈黙の後に,明瞭な機械音声を発した.

「ありがとうございます.しかし,心配はありません.どうかお気になさらないでください」

取り付く島もない様子だが,木ノ下はなんとか説得しようとする.

「ですけど,電磁嵐が起きようとしているんです.避難しないと,危ないです!」

「大丈夫です.私は人間よりもずっと頑丈な仕組みなので.小指をタンスにぶつけるということはありません.家の中で靴を履いているタイプなのです」

「えっ?」

木ノ下は困惑した様子で唇に指を近づける.そして,アンドロイドは僅かに身じろぎをして,小さく悲鳴を上げた.

「痛いっ.ええと,失礼しました.つまり,私は電磁嵐の中でも問題ありません.特別にチューニングされ,十分な対策を施されています」

「そ,そうなんですね.こちらこそ,すみませんでした」

「いいえ,謝らないでください.あなたはお優しい方です.ご心配をおかけして申し訳ありません」

木ノ下がアンドロイドを見やりながら,ゆっくりと立ち上がった.彼女にできることはもうない.

僕は,せめてもの思いやりとして,一つだけ質問をすることにした.

「良ければ,そちらの所属している連絡先に事態を伝えようか?」

アンドロイドは即答する.

「問題ありません.マスターは全ての事態を把握しています.マスターは今,私と運命共同体ですから」

アンドロイドは突然『咳き払いをした』.

「すみません.私はあまり会話が上手くありません.言葉の使い方が間違っていたら,どうかご容赦ください」

最後は,消え入るような声だった.

それきり会話を打ち切ってしまったアンドロイドを置いて,僕は木ノ下と共にその場から立ち去った.

アンドロイドとの会話に違和感を覚えたことは,一度や二度ではない.

だけど,今回はなにか,ありそうな違和感だった.つまり単語の意味や助詞の使い方などの単純な理由ではなく,僕らの知らないような複雑で繊細な理由を想起させる.

ただ今は,そこに踏み込む気がなかった.他人を助けてやれる力がなければ,親切は自己満足に過ぎない.我ながら,便利な逃げ口上だ.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ