心青し
さて,僕の知ったことではない.アンドロイドにかける情けは人の為ならず.
誤用だって,時代とともに認められる.正しい意味が失われていることも仕方のないことだ.
必要とされなければ,廃れるのは言葉だけではない.物だって.人だって同じこと.
僕は木ノ下と共に足りない具材を推理する店長を見る.悲しいことに忘れてしまうほど,ラーメンが売れていないのだ.
とりあえず,僕は床掃除を始めることにした.
あーまた,油汚れ.どうしてもキッチンから出るとき,靴の裏に付着して汚れが床に移るんだ.作業量と,客の出入りを天秤にかけてみる.とても微妙なところだ.
そのうち,きゃあ!という悲鳴とぱちーんという誰かの頬がぶたれる音がした.店長,また木ノ下になにかセクハラをしたらしいと音から判断する.前回は手をいやらしく撫でたとかで,彼女の可愛らしいスイングが唸りをあげて振りぬかれ,店長の右頬を打ったのを見た.その後,しゅんとなった店長だが,次の日には割と元気だった.これでも,妻がいたらしいから驚きだ.一方,木ノ下は相手はお爺さんだから仕方ないと思っているらしい.そんなだから,僕も注意せねばと思っているのだが,店長は僕のいる前ではしないのでなかなか機会がつかめない.
木ノ下がいなくなったらこの店は潰れる.顧客のニーズを理解するんだ店長.
僕は不安げに二人の様子を気にしながら,洗剤を振りまいた.
これをモップ等で拭いてもヌルヌルが残ってしまうのが,難点である.洗剤を使って,徹底的にやっつける
そして,僕の存在も重要なんだぞと,橙色の床に水と一緒に白く溶けだした洗剤が主張し始めた.
一通り作業がひと段落したところで,店長を含めて僕ら三人は途端にやることがなくなる.
それなので,木ノ下は業務用のPAI(Personal Artificial Intelligence)つまるところ,人工知能を搭載した電子端末を起動させ,なにやら会話をし始める.
といっても言葉に出すのではなく,軽く頷いたり目線で文字を打ったりする程度だ.
接客用なので話していても面白いのだろうか.
一方で僕のはキッチン用のPAIであるので,料理について独白を続けるか,自分の作業について文句を言うことを主とする.勿論,お客がくるまで電源は切ったままである.
一日一回投稿
情けは心が青い時にのみかけることができる




