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ほの暗い砂漠の底から

世の中の人間の大半は当てはまらないと思うが,気づけば自分の周りの世界は,どうしようもなく停滞していた.粘液のような憂鬱を分泌しては自分で舐めとるような生活.自給自足,そして自業自得なのだ.

もし,転機というものが来るならば,それは現代の文明が都合よく滅ぶか,あるいは自分が駆逐されるかだろうと僕は考える。もう何度目か分からないが、脂の匂いが染みついた雑巾でテーブルを拭き日課をこなす。そんな人間がバイトとして入っているラーメン屋は,もちろんのことながら閑古鳥が鳴いていた.店長はキッチンの奥に引きこもり,恨みがましそうにラーメンのスープを睨んでいる.開店して十数年経ってもなかなか,思い通りの味が出来上がらないらしい.

そんなもの,AIに覚えさせれば簡単に大量生産できるだろうにと僕は肩をすくめる.

そう,AIは人間よりも記憶力が優れている.それに頼らない店長のやり方は誰からみても,時代遅れで,非効率的だった.いつか,淘汰されるか,変革を迫られるだろう.空はドローンが飛び交い,地では自動制御された車が整然と列をなしている世界で,人間だけが変わらないなんて無理な話である.このバイトだって,いつかは完璧に仕事をこなす眉目秀麗なアンドロイドへ取って代わられるだろう.

僕はテーブルから顔を上げて,窓越しにアンドロイド達が各々一定の速度で移動するのを眺める.

あるものは直立二足歩行.あるものは正座をするように折りたたまれた脚の両側に取り付けられた車輪で移動する.奴らは車道と誰もいない歩道の間の機道と呼ばれる道を通り,毎日決められた時間に駅の方向へ向かっている.ここは,都心というには小声になってしまうが,LRT(次世代型路面電車)を乗り継げば数時間で都心へたどり着く位置であるので,アンドロイド達の休息施設が多く存在している.

もちろん人間の住宅もあるが,まだ午前5時だ,ほとんど誰も目覚めていない.

無機質な砂漠のような街だと,思う.砂が巻き上げられて擦れる音はするのに,姿は見えない.

このラーメン屋にいると無数の砂にかぶせられて,息がつまりそうになる.






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