消防団って何? ~大学生と消防団の関係を見て思ったこと~
自分が入団した後、大学生の消防団員を勧誘していて感じたことをツラツラと書きました。多様な消防団の取り組み全てを知っている訳ありませんし、多くの例外や間違い、批判、偏見があると思います。ぜひ、コメント欄に書いて下さい。
さて、消防団というものはどのような組織かご存知だろうか。
私の知人に聞いて周ると、消防署との違いさえ分からないという人も意外に多い。実際、私も出動した時に「消防士さん」と呼ばれたことがある。ある意味間違っていないが、厳密には消防士は常備消防の消防官の一番下の階級のことだ。では、実際にはどのような組織なのだろうか。
消防といえば、火事・事故・病気…そんなときに119番へ電話を掛ければ、直ぐに駆けつけて助けてくれるものだということは皆さんご存知だろう。しかし、その多く事案のは消防署のみで賄われている。なぜなら、彼らは常に消防署に待機していて、通報があれば即座に出動できるからだ。一方の消防団はボランティア組織だ。メールや電話・防災無線等で招集を知って分団の詰所に向かい、十分な人数が集まったらポンプ車を出動させる。
消防団が緊急出動するのは、主に火災・地震・水害が発生したときだ。この三つ全てに共通することは、対応に多くの人手が必要であることだ。現在の日本の消防吏員(職業消防官のこと)は16万人だ。それに対して、消防団員は86万人もいる(平成27年 総務省消防庁調べ)。
中には消火にそんなに多くの人手が必要かと疑問に思う人がいるだろう。特に東京などの大都市に住んでいる人などはそのように思うだろう。そのような所では常備消防が多くの人員と装備を抱えているため、対応が迅速だ。一方、地方においては消防署から30分以上かけて消防車がやってくる地域も珍しくない。そんな地域での初期消火は消防団しかできない。ごく限られた例だが、一部の自治体では常備消防が存在しないところもあるくらいだ。都市部に於いても、より多くの水利を確保するためには消防団のポンプが欠かせない。消火の基本は物量作戦だからだ。
地震や水害ではいうまでもないだろう。東日本大震災や阪神淡路大震災でも、初期救助・消火活動の中心として活動したのは消防団だった。台風や河川の氾濫でも、警戒や避難の呼びかけを行う映像には消防団のポンプ車が登場することは多い。先日の熊本地震でも、避難所や倒壊した建物の脇には消防団員が必ずいた。彼らの地元に密着できる立ち位置は、避難困難者の救助に役立つ。
現在、この重要な組織である消防団に大きな問題が発生している。それは、消防団員数の減少だ。昭和30年には約200万人いた団員が現在は86万人まで減少してしまった。勿論、これは合併と行政規模の拡大に伴う常備消防の一般化や、阪神淡路大震災発生前まで信じられていた消防団不要説に依るところも大きい(異論がある人も多いかもしれない)。しかし、現在では多くの分団で定員を割り切っていることも常態化している。
インターネットで調べると、この原因を消防操法に依るものと断じているところが多い。確かに、被雇用団員(所謂サラリーマン団員)が70%を超える現在の消防団にとって夕方・朝方に関わらず何時間もの訓練を行うことは無理があると言われても仕方がない。しかも、その内容は歩く歩数や、腕の角度まで定められている。現場に出た時に役に立たない、形骸化した遺物だという批判も最もだろう。その改良に努めて来なかった先人たちは批判されてしかるべきではないか。
一方で、筒先の構え方やホース同士の結合確認、乗降時の安全確認など現場での受傷事故防止に役立つ知恵も多く含まれている。高レベルでは経過時間で勝敗が決する方式も、実際の火災での救命率と放水までの所要時間に因果関係が存在する以上、適したものだと言える。
一方の、要改善点を検討してみたい。今最も求められているものは、地域ごとに置ける最適化だ。例を挙げれば、現在の取水は一様に吸管(取水専用の太くて丈夫なホース)を無限水利(川・池などの水のこと)や防火水槽を模した水槽の中へ入れる。しかし地域によっては、使用しうる水利の殆どが消火栓である可能性がある。そういった地域では、想定水利が消火栓の方が適していることは自明の理だ。非現実的な極論を述べるなら、無限水利が極端に多いところに於いて、ディスクストレーナー(水深の浅い無限水利をくみ上げる皿型の器具)の使用もいいかもしれない。
私の地域の全ての団車にはホースカー(ホースを伸ばしながら引っ張るリアカー)が搭載されており、常備消防より遅く到着しがちな消防団にとっては遠方の水利からの取水に有効な装備となっている。しかし、ホースカーは操法においては使用されない。これは現実に即しているのだろうか。
ホース延長という観点を掘り下げれば、ホースバッグや背負子を使用する事ができないことも問題だ。確かに二重巻(丸めたホースを転がして展開する巻き方)による展開は平地では非常に有効だ。しかし、坂道や狭い場所の多い地域に置いては島田巻(折り畳んだホースを引っ張って展開していく巻き方)による展開を積極的に指導していくべきだ。未だ研究途上の閉所巻(閉所で障害物に干渉せずに展開する巻き方)とは異なり、島田巻は完成された巻き方の一つだ。これが操法に於いて使用できるようになれば、各分団の車載ホースが島田・二重の混載になり、現場での応用力が広がるだろう。
つまり、操法は現場で必要な技術の粋を集めたものに生まれ変わるべきなのだ。
では、どのように消防団員を増やして行くべきだろうか。現在消防庁が力を入れているのは、大学生消防団員の増加だ。私もこの問題に取り組む1人として、どのようにして解決していくべきか意見を述べたい。
大きな問題は、消防団が閉鎖的な組織であることだ。そもそも、自分の地域の消防団の詰所はどこか、定例整備はいつやっているか、そんな事さえ分からない。相談できる先は堅苦しいと思われがちな役所のみ。このような状況は極々一般的だ。実際、私が入団しようと思ったとき、地元消防団約60個分団の中で情報発信していたのは4個分団のみ。内訳はフェイスブック3個分団、ホームページ1個分団、ツイッター1個分団(重複あり)だった。そんな中、消防団員兼個人商店店主のブログから最も近い分団の情報を集め、入団した。結局、自治体の情報は一切アテにならなかった。
そう、消防団員の募集活動で最も不足している要素は「入団したくなるような情報発信」だ。そもそも、どこに詰所を持つ某分団がどの範囲を管轄しているといった情報は当たり前で、集会は定例か否か(地方によっては殆どやってないような所も存在する)、酒や煙草は入るのか(今の時世に合わないが事実として存在する)、団員の年齢層と職業、出動はどの位あって、その他訓練や講習はどのように行われているか。こういった情報を入団前に知っておきたいと思うのは当たり前だろう。
私の取り組む大学生に関しても同じで、同じ大学生からの目線を求められていると感じる。近い隊場の人から見た消防団に関する情報はとても貴重だ。生の声を聞くことができるということは入りやすさを大きく左右する。実際、北海道の札幌市札幌北消防団鉄西分団では北海道大学の学生が継続的に多数入団し、大きな戦力となっている。また、淑徳大学や千葉科学大学は学内のサークル活動としての消防団活動が存在しており、消防車も保有している。
大学生は学業の他にもアルバイト、部活やサークルといった様々なことにチャレンジしている。そんな中に消防団活動が割り込んでいくことは大変難しいことだということは、学生消防団員は全国で約3000人(平成27年度)しかいないということが示している。繰り返すが、そのためには消防団の魅力を積極的に発信していくべきだ。
近年、消防団員を増やす新しい取り組みとして、機能別分団員・消防団活動認証制度が挙げられる。機能別分団員とは、特定の条件下のみで消防団員として働く分団員のことを示し、消防団活動認証制度はある期間以上消防団員を務めた学生の功績を表彰するものだ。うち、消防団活動認証制度は学生を消防団に呼び込む方法として優れていると考えられる。
一方、機能別分団員が有効に機能するかは疑問がある。なぜなら、これは消防団員の水増しに過ぎないからだ。確かに、旧来の伝統行事、例えば祭りの出店他、を受け継がずに分団運営が可能である点は長所だ。しかし、機能特化である点は消防団でなければならない必要性がない。OBの採用は定年の引き上げや制度上の見直しで可能だし、情報収集・予防広報・水上活動などは「東京消防庁災害時支援ボランティア」の様な組織で行えばよいのだ。ラッパ隊などは、この制度が考案される前から団本部附だった消防団もある。更に疑問が湧くのが、大規模災害対応団員だ。消防団の強みは、日頃から顔を合わせることによる団結力と一定水準の災害対応技能だ。大規模災害対応団員はこのどちらも剥ぎ取ったものだと言わざるをえない。年に数回の訓練で顔を合わせ名前だけは辛うじて覚えている、そんな人に災害時に背中を預けられるだろうか。
お読みいただき、ありがとうございました。
消防団員の方にはエールを、消防団員でない方には少しでも興味を持っていただけたら幸いです。