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ハーレム目指して何が悪い!?

―人間界、北部、リマジハの村

魔王軍の軍勢を倒した翌日

 

 今回、魔王軍の奇襲を未然に防いだことで、ただでさえ東部、西部、中央を相手にして人員不足なはずの魔王軍が、再度北部に軍を派遣してくる可能性は限りなく低くなった。

 そこで、俺とエンカはリマジハの村を出て、次なる目的地を目指し旅立とうとしていた。

 ・・・旅立とうとしていたのだが。


 「いやだ。ハナもナオキと一緒に魔王をやっつけに行く!」

 「こらこら、わがままを言って勇者様を困らせるんじゃありません。」

 魔王軍との戦いの一部始終を見ていたらしいリマジハ村の村長の娘、ハナ・ケバタに俺はなぜかはわからないが、大層気にいられてしまい、なかなか村を出れずにいた。


 「いやだ!ナオキはハナの運命の人なんだもん!それに、エンカちゃんだって、私とおんなじくらいなのにナオキと一緒に旅してるもん。だから、ハナも一緒に行っても問題ないもん。」

 「いや、小娘。儂はお前の五十倍は長く生きておるぞ。」

 隣でエンカが小さく愚痴る。心なしかハナに対する態度が冷たい気がするのは気のせいだろうか。

 

 それにしても、助けた村の娘に惚れられるって展開は嫌いじゃないし、むしろ願ってもないくらいなんだけど、まさか幼女に惚れられるとは。

 テンプレを愛してやまぬと自負する俺だが、さすがに幼女に手を出して、変態勇者のレッテルを張られるわけにはいかない。ここは、適当に口から出まかせを言ってごまかしておくか。


 「お嬢さん。あなたの気持ちはうれしいですが、私は魔王の軍勢に苦しめられている多くの民のため、一刻も早く魔王を討たねばならないのです。ですから、今はあなたの気持ちにこたえることはできません。」


 「だから、それなら、ハナもナオキについて行けば・・・」


 「ハナ、あなたは少し勘違いしているようですが、エンカはああ見えてかなり強い魔術の使い手です。私が手助けをせずとも、たいていの魔族ならうち倒してしまうほどの力を持っています。しかし、君には何の力もない。魔王の軍勢との死闘の中で、私には君をかばいきって戦う自信がない。あなたのような美しい女性を傷つけるわけにはまいりません。力不足の私を許してください。」


 まさか俺の人生に一度でもこんな歯の浮くようなセリフを言う機会があるなんて思いもよらなかった。

 ・・・ テンプレ勇者の断り文句を覚えておいて助かったぜ。

 人間、どんな知識がいつ役に立つのかなんて案外わからないものですね。

 

 俺の必死の説得に、さすがのハナも遠回しに自分が足手まといであると指摘されていることに気が付いたのか、先ほどまでの勢いはなく、じっと下を向いてうつむいている。

 この機会に乗じて村を出発してもよかったのだが、いくら幼女とはいえ純粋な好意を無下にするのもはばかられ、思わず、思ってもないセリフが口をついて出てしまった。


「ハナ、魔王討伐の旅にあなたを連れていくことはできません。ですがもし、私が魔王を倒し、人の世に再び平和が訪れ、それでもなお、あなたの思いが変わらぬというのなら、再び私を訪ねてください。その時は、きっとあなたの思いにお応えしましょう。」


 俺のセリフを聞いた少女は、途端に顔を跳ね上げる。

 先ほどまで曇っていた表情は嘘のように晴れ渡り、その目はキラキラと輝いていた。


************************************


 何度も「ホント?ホント?」と念押ししてくるハナに、とびっきりの勇者スマイルを炸裂させ、村人たちの感謝の声をBGMに、俺たちはリマジハの村を後にする。

 一部ちょっとしたイレギュラーはあったものの、この世界に来て初めてのテンプレらしいテンプレを満喫して俺の気分は高揚していた。

 そんな俺の様子を、エンカは横からジトーっとした目で見つめてくる。

 

 「おぬし、初めて儂にあった時と、あの小娘の求愛に答えたときとではずいぶんと反応が違ったのではないか?もしかして、うわさに聞くロリコンとかいうやつか?まさか、儂に少女姿に擬態しろといったのも・・・。」


 「違うわっ!少女姿に化けてもらったのは、その方が人間たちに警戒されにくいって思ったからだよ。それに、あんなの口から出まかせ言ったに決まってるだろ。なに幼女相手にムキになってるんだよ。もしかして、嫉妬してるのか?」


 「ちゃうわい!儂はただ、あんなぽっと出の幼女に、契約まで交わしたおぬしがデレデレとしておるのが気に食わんかっただけじゃ。断じて嫉妬なんかしてはおらぬ。」


 それを嫉妬というんじゃないのか?

 ポンコツ悪魔のくせにテンプレツンデレヒロインみたいなセリフを言いやがって。

 ツン要素もデレ要素も見せたことないでしょ、あなた。

 エンカに向けてそんな視線を送っていると、エンカも自分で言っておきながら照れくさかったのか、顔をそむけて違う話題を口にした。

 

 「おほん。んー、えー。そのー、おぬし、それで、次はいったいどこへ向かうつもりじゃ?」


 ずいぶんと急な話題転換だが、あんまりいじめるのもかわいそうか。ここは、エンカの話に乗ってやるとしよう。

 

 「昨日、リマジハの村の人たちに聞いたところ、現在、魔王軍との戦いが最も激しいのは人間界東部らしい。そこで、人間・魔族両軍の精鋭が集まっているであろう東部へ向かうのは後回しにして、先に西へ向かおうと思う。エンカがずっと魔界に引きこもっていたせいで、魔王軍の情報も最小限しか集まっていないし、精鋭たちと戦うのなら戦力の増強もしておきたいからな。」


 「ん?戦力なら儂とおぬしの二人だけでも十分じゃと思うが?」


 「いや、実際に前回戦ってみて、自分の戦い方がいかに装備や能力に頼り切ったものかってことを思い知らされた。もちろん、今のままでもたいていの幹部相手なら圧倒できる自信はあるが、それ以上の力を持った奴らが相手となるとどうなるか分からない。もし、能力や装備が使えない状況になった時でも最低限戦える状態ではありたいし、できれば近接戦闘型の女の子辺りを仲間にして、戦闘の手ほどきを受けたいところだな。」


 「おぬしの言いたいことはわかった。が、おぬし、今言った目的のほかに、何かやましいことを考えてはおらぬか?」


 いやだなぁ、エンカさん。ハナちゃんに感化されて変なスイッチが入っちゃったのかな?

 清廉潔白で知られるこの僕ともあろうものが、テンプレっていったらやっぱりハーレムだよな?ハーレムって言ったら、お色気だよな?となると、戦闘訓練と称して始まる一連のムフフイベントは欠かせないよな?なんて思うはずがないじゃないですか。

 僕は純粋に己の力不足を嘆き、パーティーのバランスも考えて戦力増強を提案したって言うのに、ひどい言いぐさだな。あはは、あはははは。


 再び、ジトーっとした視線でこちらを睨みつけてくるエンカに、今度は俺の方がたまらず話題をそらす番だった。


 「まぁ、仲間のことはあとから考えることにして、とりあえず、今から俺たちが向かう目的地について簡単に説明しておきたいと思う。俺たちが今回向かうのは、人間界の西端にあるギーツ侯国だ。」


************************************


 ―ギーツ侯国

 その名の通り、この国を治めるのは王国貴族の中でもやり手と称されるロマク・ギーツ侯爵だ。

 彼と彼の治めるこの国は、王国諸国、いや人界全土にわたっても類を見ない変わった国であった。

 そう、この国は人界で唯一、異界との国交を持つ国なのである。

 

 ギーツ侯国領主のロマクは、天才的な商才の持ち主で、金になることであれば、どんなことにも力を惜しまぬ人物であった。そんな彼が目を付けたのが、人類と異なる特性を持つ異界人たちにしか生み出せない素晴らしい作品の数々であった。

 当時、いや、現在でも異界人たちは人間、魔族とは相互不干渉のスタンスをとっていたし、人類の側も積極的に彼らに歩み寄ろうとはしてこなかった。そのため、異界人の作品は希少価値がかなり高く、需要に比べて供給が圧倒的に不足していたのである。

 異界と人界、両者の接点を作ることができれば、とんでもないビジネスになるに違いない。そう確信したロマクは、気の遠くなるような努力の果てに、人類とはまったく異なる彼らの外見、言語、風習、それらすべてを受け入れ、人類との調和を図り、それを実現させることに成功したのである。

 異界・人界双方からお宝を求めて人が集まるこの国は、今や人界最大の商業国といっても過言ではなく、その存在は王国ですら無視できないほどとなっていた。

 


―人界、西端、ギーツ侯国、冒険者街


 ギーツ侯国は聞いていた通りの大都市だった。

 いたるところに人があふれ、道路は常に満杯で、人の波をぬって歩くだけでもかなりの体力を消費する。屋台の喧騒もすさまじく、数歩歩けば客引きのキャッチにつかまってしまって、なかなか思うようにも進めない。

 俺たちが、そんな大変な思いをして目的地である冒険者街へ向かう中、すれ違う街の人たちは顔色一つ変えずに颯爽と歩き去っていった。やはり、人間こういうところに住んでいると慣れるものなのだろうか?

 

 また、異界と国交を開いているというだけあって、道行く人の中には、人間に交じって様々な種族の人たちの姿も確認することができた。そして、その中にはエルフや獣人などファンタジー作品でよく見知った存在の姿もあった。


 「いやー、やっぱり、異人さんを見ると異世界に来たんだなぁって実感が改めてわいてくるよなぁ。」


 悪魔を見ておいていうのもなんだが、やっぱり獣人とかドワーフとかエルフとか、ファンタジー作品に登場する存在が動いているのを見てしまうと、ここは元いた世界とは違うんだ、というのがダイレクトに伝わってくる。

 魔界へ召喚された時もそれはそれで異世界という実感がなかったわけではないが、魔界の場合、異世界というよりも地獄といった印象が強く、こうして普段の日常の中に非日常が溶け込んでいるような異世界感を味わうことができなかったのだ。

 そうやって、ポケーっと道行く異界人の姿を見つめていると、エンカが俺の脇腹をこつんと小突いてきた。


 「おぬし、いつまでも異界の女に見惚れておる場合ではなかろう。本来の目的である情報収集と仲間探しはうまくいっておるのか?」


 「情報収集の方はいくつか知らない情報を手に入れることができたけど、仲間探しの方はさっぱりうまくいってないな。」


 なんとか冒険者街にたどり着いた俺たちは、街にある冒険者ギルドや情報屋と称される酒場などをいくつか回り、魔王軍についての情報収集と魔王討伐へ向けた仲間探しを行った。

 エンカにも話した通り、魔王軍の情報についてはいくつか有力そうな情報を手に入れることができたものの、仲間探しの方はなかなか条件に見合う人物を見つけ出すことができず、現在ギルド内にあるカフェ兼バーでひとまず休憩をとっているところだった。


 「戦力になりそうな近接戦闘型の戦士ならば、このギルド内にも何人かおったろう?一体、お主は何がそんなに気に入らんのじゃ?」


 「いや、だってそいつら全員男じゃん!しかも、ガチムチのおっさんばっかりじゃん!どうして好き好んでそんな男をパーティーに入れなきゃならないんだよ?」


 「いやいや、別にガチムチのおっさんじゃろうが戦力になれば問題はなかろう?おぬし、自分がとんでもなくわがままな注文を付けておるという自覚はあるかの?」


 「いいや、これはわがままな注文なんかじゃない。俺の士気にかかわる最重要の条件だ!」


  別に俺だってガチムチのおっさんが嫌いなわけじゃない。むしろ、彼らはファンタジー作品において、情熱的で気のいい主人公のよき相談役、ともすれば主人公の第二の父や兄貴分として描かれることも多い。

 ただ、どうせこちらに選択権があるならば、暑苦しくてむさくるしいおっさんよりも、健康的で快活な拳士の女の子を仲間に組み入れて、ハーレムパーティーを作ってみたいと考えてしまうのが、テンプレ脳のさが、いや、男の性ってもんだろう。

 もはやハーレムへの欲求を隠そうともしない俺に、エンカはあきれ果てた様子でやれやれと首を左右にふった。


 「さてと、大体情報も集まったことだし、宿に戻って、夜頃もう一度ここに来ることにしよう。」

 

 これ以上、この場にとどまってもめぼしい情報は得られそうもないし、ここはいったん引きあげて、冒険者街がさらに活気づくであろう夜に、再度訪れるのが賢い選択だろう。今は街を出ている冒険者たちも、夜になれば街へ戻ってくるだろうし、仲間探しもその時に本腰をいれて行えばいい。

 俺の提案にエンカもこくんと頷き、二人で冒険者ギルドを後にする。



 ―その後方、直輝たちを見つめる黒い影。

 「やっと、見つけた。」

 そのシルエットの人物は、ギルドから出ていく彼らを見つめ、にやりと口の端をつり上げた。


思ったよりハナちゃんのくだりに字数を割いてしまったのと、これ以上字数を増やすと、読むのが大変かな?ということで分割にさせていただきました。すみません。


今後の展開は、大体出来上がってるので、なるべく早く次話投稿できるように頑張ります。

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