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勇者が○○の力を使って何が悪い!?

 魔王討伐を決意してしばらく、そういえば自己紹介がまだだったことに気付いた俺たちは、改めて簡単に自己紹介を済ませる。


 「儂の名前は、エンカ・シルファー。シルファー家の長女にして、炎を操る悪魔じゃ。おぬしには特別に、エンカ様と呼ぶことを許そう。」

 「俺の名前は、一色直輝だ。改めてよろしく頼む、エンカ。」

 「だぁー、エンカ様と呼べといったそばから何を呼び捨てにしておる。様をつけんか、この大馬鹿者!」


 さっきまで号泣してたやつに、今更凄まれたところで何にも怖くない。

 自己紹介も済んだことだし、何やらわめいているエンカのことは放っておいて、さっさと本題に入るとしよう。

 

「それで、魔王を討伐するのは良いとして、エンカは俺にどんな力をくれるんだ?」

 そう、異世界召喚、異世界転生ものといえば、やっぱり欠かせないのが、チート能力だ。

 エンカだって、わざわざ異世界から人間を召喚して、魔王を討伐しようって言うんだ、それなりの能力がもらえると期待してもいいだろう。


 「ん?力?いったい何を言うておるんじゃ、おぬしは?」

 ところが、この悪魔、力をよこせといったにもかかわらず、何のことだかわからないといった風に首をかしげて、きょとんとしている。

 どこまでテンプレを無視すれば気が済むんだ、お前は。


 「いや、だからさ。

  普通、こういう場面では、召喚主がなんかすごい力を与えてくれたり、装備をくれたり、召喚主と契約して力が使えるようになったりとか、そういう展開があるもんでしょう?

  なんで、力をよこせって言ってんのに、きょとんとしてるの?

  何の力もない奴が、異世界に呼び出されたところで、魔王を倒せるわけないでしょうが!

  というか、それはもはや異世界召喚でもなんでもなく、ただの規模の大きい移住だよ。

  単に、膨大な魔力を消費して、この世界の人口を一人増やしただけだよ!」


 ・・・やってしまった。

 またしても俺のテンプレ愛が暴走してしまった。

 エンカの奴が泣いてないといいんだが、と思って、恐る恐る彼女の様子を窺ってみたが、彼女は俺の話をふんふんと頷きながら聞いていた。

 

 「つまり、おぬしは強力な装備や強力な能力がほしいと、そういうておるわけじゃな?」

 「あぁ、その通りだ。ポンコツ悪魔のお前にしては、なかなか理解が早くて助かるぞ。」

 「誰がポンコツじゃ、たわけ!まぁよい。そういうことならわしに心当たりがある。少しそこで待っておれ。」


 そう言うと、彼女は、俺をその場に置き去りにして、どこかへ飛び去っていってしまった。

 

 一人、ぽつんと取り残された俺の周囲には、世にも恐ろしい格好をしたモンスターたち。


 ・・・こんな中置き去りにされると、非常に心細いんですが。

 散々からかった仕返しですか?そうなんですか、エンカ様?

 俺は、周囲のモンスター達となるべく視線を合わさないように、びくびくと震えながら、彼女の帰りを待つしかなかった。


*****************************************


 「なんじゃ?どうしてそんなに死にそうな顔をしておるのじゃ?」


 パタパタと上空を羽ばたきながら、地上に降り立ったエンカの足元にすかさず飛びつく。

 時間にして、ほんの数分の出来事だったろうが、俺の精神は大きく削られていた。

 エンカは人型だから、まだすんなり受け入れられたが、人型じゃないモンスター達に囲まれながら過ごす時間があれほどつらいとは。

 人間がはるか昔に忘れてきた捕食される側の恐怖を思い出したよ。


 「エンカ様、もう二度と馬鹿にはしないので、どうか僕のそばを離れないでいただけますか?」

 「ん?なんじゃ、おぬし?やっと儂の偉大さが分かったか!かわいいやつめ。くるしゅうない、くるしゅうないぞ。」


 なんだか、ポンコツ悪魔を調子に乗らせてしまったようだが、背に腹は代えられない。

 もう二度と、あんな恐怖を味わうのはごめんだ。

 この世界にいる間は、彼女のことを敬うことにしなければ。

 エンカに頭をガシガシとなでられながら、俺はそう心に誓うのであった。


*****************************************

 

 「ということで、屋敷に余っておった父様の装備品の中から、いくつか見繕ってきたぞ。ほれ、どれでも好きなのを選ぶがよい。」

 そういって、エンカがこちらに差出してきたのは、一目見てやばいとわかるくらい邪悪なオーラを放つ、一級装備品の数々だった。


 「あのー、エンカさん?これ、人間が装備しても大丈夫な奴?」

 「うむ?よくわからんが、父様が装備しておったのじゃし、お主が装備しても問題はなかろう?」

 「どういう理屈だよ!?お前の親父は上級悪魔だろ!ただの人間と比較しちゃだめだよ。」

 

 つくりは立派だし、素人目に見てもいい装備なんだろうとは予想がつくが、いかんせん、どす黒いオーラを放っているのがなぁ。

 

 ・・・ええい、物は試しだ。

 最悪やばかったら、エンカが何とかしてくれるだろう、そう信じるしかない。

 とりあえず、一番近くにあった、いかにも強そうな剣を手に取ってみることにする。


 ん?持った感じは特に問題なさそうだ。精神や身体にこれといった異常も感じない。

 なんだ、エンカのいっていた通り、別に何にも起きないじゃないか。

 見た目がグロいけど味はおいしい珍味みたいな感じで、こいつらも案外、見た目がやばそうなだけで別に普通のいい装備品なんじゃないか?

 そう楽観的に構えて、剣を鞘から抜いた瞬間、

 

 ―右手が勝手に剣を振るい始めた。

 しかも、ただ振るうなんてもんじゃない。

 歴戦の戦士を思わせる華麗な剣捌きで、その動きは剣の使い手である俺自身にも見えないほどだった。

 ただ、問題なのは、俺が歴戦の剣士ではなく、ただの普通の高校生だったこということか。

 体が剣に振り回されて、今にも右手がもげそうだ。

 というか、痛い、右腕がめちゃくちゃ痛い。

 

 助けてくれと、エンカの方に視線を向けると、彼女はそんな俺の姿を見て、さも面白そうに笑っていた。

 前言撤回、もう二度と、あいつのことを敬うなどと馬鹿なことは言うものか。


***************************************** 

 

 なんとか剣を鞘に収めたものの、疲労感がとんでもない。

 全力疾走でマラソンコースを走らされた時くらいの疲労感がある。

 

 「今、おぬしが使っておった魔剣ディアスは、かの剣聖ディアボロス・クルルシファーが生前使っておったという、いわくつきの剣じゃ。剣にはディアボロスの遺志が宿っており、剣を抜いたものは自分の意思とは関係なく、剣を振るわされることとなる。」

 「そういうことは、もっと早く言え!」


 なんだよ、魔剣ディアスって。なんだよ、剣聖ディアボロスの遺志って。

 だいたい、よく考えたら、ここにあるような禍々しい装備品を身につけて人間界に行ったら、確実に魔王軍の手のものだと勘違いされちゃうよ。

 俺がそう言うと、エンカはまたもや首をかしげて、きょとんとした表情を浮かべた。


 「ん?なんで、そこで人間が出てくるのじゃ?人間界に行かずとも、今から直接魔王城に行って、魔王を倒せばよいではないか?」

 「馬鹿野郎!そんなの人間から見たら、単なる魔界の政権交代でしかないわ!本当の意味で、人間が魔王の恐怖に打ち勝ったといえるためには、人間の勇者が魔王を倒したって事実が重要なんだよ!」


 目からうろこが落ちたとばかりに目をしばたかせる、エンカ。

 ほんとにもう、この堕悪魔はどうしたものか。まぁ、悪魔だから元から堕ちてはいるんだけど。


 「ともかくそういうわけだから。せっかく持ってきてもらったけど、この装備品は使えない。何かほかに使える能力とかないの?」

 「んー、そういわれてもなぁ?能力なぁ?」

 「そういえば、さっきエンカは炎を操る悪魔だって言ってたよな?その能力を俺に渡したりはできないわけ?」


 俺の提案に、エンカはその手があったか、と手をたたく。

 そして、俺の右手をスッとつかむと、手の甲にキスをしてきた。


 「いっ、いきなり、なにすんだ、お前!?」

 「何って、言われた通り、おぬしに儂の力を与えただけじゃが?」

 

 見れば、キスされた部分には、何やら見たことの無い複雑な紋章が、くっきりと浮かび上がっていた。

 何でそういうところでテンプレを守ってくるんだよ。もっと、大事なところでテンプレを守れよ。

 

 まぁ、何はともあれ、これでエンカの炎を操る力を手に入れることができたのだ。

 どんな力かはよくわからないが、本人の口ぶりからするに上級悪魔の力なのだから強力な能力に違いない。


 「能力を使うには、刻印のある右手を突き出し、煉獄魔炎エンカ・フレイムと叫べばよい。」

 「・・・どうでもいいが、自分の能力に自分の名前を付けるなよ。かなりイタイぞ、それ。」

 

 エンカに言われた通り、右腕を突き出し、いやいやながらも、煉獄魔炎エンカ・フレイムと唱えると、腕から炎がほとばしった。

 出力も範囲もでたらめな炎の槍が、周囲に向かって無差別に振るわれる。

 その威力は強烈で、手を突き出した方向にいるモンスター達がジュッと焼かれて、一瞬のうちに蒸発していった。

 

 おぉ、これだよ、これ!俺が求めていたのは、こういう力だよ。

 これなら、雑魚モンスターはもちろん、魔王にだって通用するんじゃねぇのか。

 この世界に来て、初のテンプレらしいテンプレに思わずはしゃいで、ところかまわず炎を乱射する。


 「そういえば言い忘れておったが、その能力は使いすぎると、だんだん体が悪魔に近づいていってしまうから気を付けるんじゃぞ!」


 エンカからの遅すぎる忠告が、能力を使うのに夢中になっていた俺を、一気に現実に引き戻す。

 すぐさま能力の使用を中止し、慌てて右腕の様子を確認する。

 もはやそれは、一見して人のものだとはわからず、肘から下は完全に悪魔のそれだった。

 

 「だから、そういうことは早く言え!どうすんだよ、この腕!?こんな腕してたら、どう考えても人間に擬態しようとして失敗した悪魔だと思われるじゃねぇか。」

 俺の必死のつっこみに対するエンカの答えは、しかしながら、意外なものだった。


 「うむ?しかし、人間界でも、おぬしと同じような感じの人間を見たことがあるぞ?」

 「は?本当か、それ?」

 「うむ。何やら、魔王の側近に人間を悪魔化しようと考えておる奴がおるらしくての?そいつの実験台として呪いをかけられた人間は、みなそのような姿をしておった。」

 

 ・・・なるほどね。

 俺のテンプレ思考回路が急速に回転し、様々なキーワードから一つの物語テンプレを作り出す。


 悪魔化の呪いに苦しめられる勇者、日々悪魔に近づいていく彼から人々は離れていき、やがて彼は元凶である魔王を倒すことを決意する。

 悪魔と化した彼には、通常の装備は身に着けることはできず、身に着けられるのは呪われた装備品と、いわくつきの魔剣だけだった。


 ・・・いい、すごくいいテンプレ展開じゃないか。

 これなら、この能力も装備品も全く無駄にすることなく生かしつくすことができる。

 エンカのやつ、ここにきて何たるファインプレーだ!

 能力、装備、おまけに設定まで出来上がった、あとは冒険の旅に出るだけだ!

 

 一人で頷いていたかと思うと、突然高笑いし始めた俺の様子を、エンカはただ、引き気味に見つめていた。

少し長くなりましたが、出会い編おしまいです。

次回から、人間界編に突入します。

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