○○が魔王討伐を志して何が悪い?
現在の状況を一言でまとめるとこうなる。
「悪魔から異世界召喚を受け、魔王討伐を頼まれたんだが、一体俺はどうしたらいい?」
・・・下手なラノベのタイトルかっ!
大体、なんで悪魔が、魔王の討伐を、異世界の住人である俺に依頼するんだよ、おかしいだろ。
悪魔界のことはよく知らないけど、魔王って言ったら、悪魔の総大将的なポジションに君臨するお方でしょう?
そんなお方の討伐を依頼するって、はっきり言って反逆罪でしょ、謀反でしょ。
見つかったら、ただじゃすまないどころの騒ぎじゃないよ。多分、生きながらにして死ぬよりつらい苦しみを味わわされることになるよ。
・・・で、
そんな大罪を犯そうとしているにもかかわらず、何でお前はどや顔なんだよ!
この人間、儂に見惚れて声も発することができなくなってしもうたか?みたいな顔してんじゃねぇ。
さっきから、両腕で胸を押し上げたり、足を組み替えたりしてお色気ポーズをとってるけど、別にそういう目でお前のこと見てたわけじゃないからな。
確かにスタイルは抜群だし、エロくないといえば嘘になるが、今は状況が混沌としすぎてて、それどころじゃねぇよ。
あまりの突っ込みどころの多さに、俺の脳は軽くオーバーヒートを起こしかける。
「して、おぬし。儂と契約して、魔王を倒す気はあるのか?」
そんな俺の様子にしびれを切らしたのか、悪魔は、先ほどと同じ質問を投げかけてきた。
質問形式をとってはいるものの、彼女の表情は、絶対に断られるはずがないという自信に満ちている。
一体、君のその自信はどこからくるの?
「その前に、一つ質問してもいいか?」
自信満々の彼女には申し訳ないが、突然異世界に連れて来られた俺にだって、質問する権利くらいはあるだろう。
テンプレ展開ならいざ知らず、ここまでテンプレを外しに来られると質問せずにはいられない。
てっきり、機嫌を損ねるかと思っていたが、彼女の態度はやけに好意的だった。
「うむ。一つといわず、何個でも質問するがよい。ちなみに、儂のスリーサイズは・・「言わなくていいからっ!」
露骨に落ち込む悪魔。
やけに好意的だと思ったら、自分に関する質問だと思ってたわけね、こいつ。
ある意味お約束といえなくもない流れだが、今更そんな展開を持って来られても焼け石に水だ。
近くでいじけている悪魔のことは無視して、何を聞かねばならないかと、頭の中を整理する。
やはり、まず一番に聞かなきゃならないのは、こいつの魔王討伐の動機だろう。それ次第では、まだテンプレ路線に戻れる可能性もある。
「え?儂が魔王を倒したい理由?そんなの人々を苦しみから解放するために決まっておろうが?」
あまりのショックに、再度、意識を失いかけた。
よりにもよってこの悪魔、なんて理由を言いやがる。
俺のテンプレ路線復帰への道は、完全に断たれた。
「いやいや、人々のためって。あんた悪魔でしょ?悪魔っていうのは、人を苦しめるのが仕事じゃないの?」
「いや、自分でも変な悪魔じゃ、とは思っておるのじゃがの。ほら、儂らは人々の魂をいただいて暮らしておるわけじゃろう?ならば、生きている間くらいは、人々に苦しみのない平和な生活を送ってほしいと思ったわけじゃよ。」
どこか照れくさそうに、もじもじとしながら、魔王討伐を決意した理由を話す悪魔。
いや、悪魔のセリフじゃねーから、それ!
人間でいうところの「私、生まれてくるヒヨコさんがかわいそうだから、オムライスは食べられないの。」に通ずる薄気味悪さがあるぞ。
こいつ悪魔に向いてないんじゃねぇの?
・・・ん?悪魔に向いてない?
ということはまさか、もともとは悪魔じゃなかったという可能性が?
私、実は悪魔じゃないんですという展開に、一縷の望みをかけて、いくつか質問を投げかけてみる。
「もしかしてお前って、もとは天使で堕天したとかいう設定?」
「いや、両親ともに上級悪魔の、正真正銘の純血悪魔じゃ。」
「じゃあ、もとは女神で、今現在は記憶を封印されていて、悪魔の両親は実は本当の両親ではない、とか?」
「うむ?そんな話聞いたこともないが。」
・・・もうむりだぁ、おしまいだぁ。
最後の希望である、実は悪魔じゃなかったヒロインが魔王を倒す直前に正体を明かすルートすら潰えてしまった。
ここからじゃ、どう頑張ったってテンプレ路線に持っていける気がしないよ、俺。
こんなの俺があこがれていた異世界召喚とは、全然違う!
そのまま、頭を抱えてうずくまってしまった俺の姿を見て、もう聞きたいことはすべて聞き終えたと判断したのか、悪魔はゴホンと咳払いをして姿勢を正す。
「で、おぬし。いい加減答えは決まったかの?儂とともに魔王を倒しに行ってくれるな?」
なかなかイエスといわない俺に、向こうもいらついているのか、最後の方は質問というより脅しに近かった。
そんな彼女に答えを告げる。
「・・・ない。」
「ん?今何と申した?よく聞こえんかったのじゃが?」
本当に聞こえていないのか、それともすっとぼけているだけなのかよくわからない悪魔に向かって、今度ははっきりと、しっかり聞こえるように、俺の答えを言い渡す。
「だから、行かないって言ったんだよ。俺はお前とは契約しないし、魔王も倒しに行かない!」
今度は、彼女の方が頭を抱える番だった。
彼女は、涙目になりながら、すがるような視線で俺に問いかける。
「でも、おぬしは、たしかに異世界にあこがれておると、異世界を救ってみたいとそう願っておったではないか?」
「たしかに、その通りだ。俺は異世界召喚物が大好きだし、異世界召喚物にあこがれている。」
「だったら、なぜ儂の誘いを断る?」
彼女の疑問は至極当然だ。おそらく、俺以外の人間であれば、召喚主の悪魔に魔王討伐を依頼されたとしても二つ返事でOKするだろう。
しかし、俺には俺の美学がある!
「悪魔よ、確かに俺は、異世界召喚物が大好物だし、異世界召喚を願ってもいた。
しかし、俺が望んだのは、こんな邪道な異世界召喚じゃなく、テンプレ王道の異世界召喚なんだよ!
大体、なんで悪魔が召喚主なんだよ、その時点でまずおかしいだろ。
ふつう、そのポジションは女神さまとか、邪神さまとかのものだろうが。
むしろ、悪魔は召喚される側の、言ってみればこっち側の存在なのに、何で呼び出す側に回ってるんだよ!
まぁ、召喚主が悪魔なのには目をつぶるとしても、呼び出した目的が魔王討伐ってどういうことだよ!
お前は、魔王の部下じゃないのかよ、何軽く君主に牙剥こうとしてるんだよ。
でも、その二つに関してはまだいいよ。
魔王討伐の動機が、俺を新魔王にしたいとか、苦しんでる魔界の民を助けたいとかなら、まだ俺も納得できたからな。
なんで、魔王討伐の目的が人々を救うことなんだよ!
それこそ女神さまのセリフだろ、それ?
どこの世界に人々の救済を望む悪魔がいるんだよ?
以上述べたように、今回の異世界召喚は俺の理想とするテンプレ展開とは程遠い。
したがって、俺はお前の依頼を受けることはできないから、速やかに元いた世界に戻してくれ。」
・・・また、やってしまった。
悪魔に対する恨みのこもった長い突っ込みを終えて、一人反省する。
昔から、テンプレ展開のことになると、どうも周りが見えなくなって、一人でしゃべり倒してしまう。
でも、あのポンコツ悪魔には、これくらい言ってやらないと効きそうもないし、結果としてはよかったか。などと思っていると、目の前の悪魔が、大声をあげて泣いていた。
号泣も号泣、大号泣である。
「おいおい、何も泣くことはないだろう?ほかのやつを探して、もう一回お願いすればいいじゃないか?」
慌てて悪魔をなだめにかかるも、彼女はいやいやと首を振って一向に泣き止む気配がない。
そんな彼女の泣き声に反応してか、あたりをうろついていたモンスターたちがこちらに向かってくる。
・・・おいおいおいおい、まずくないか?この状況。
このままこいつが泣き止まなかったら、やってきたモンスターに殺されちゃうんじゃないの、俺?
理想をとるか、命を取るか、究極の二択を迫られる。
理想を追い求めて、現実の壁にぶち当たり、夢をあきらめていった人の感情がわかったような気がした。
「わかったよ、前言撤回、前言撤回だ。お前と契約して、魔王でもなんでも倒してやるよ。」
ワンワンと泣いていた彼女が一瞬泣き止み、目に涙をためたまま、こちらを上目遣いに見つめてくる。
「それは本当か?本当に本当の本当か?」
不安そうに見つめてくる彼女を、安心させるために、俺はもう一度力強く言う。
「あぁ、本当に本当の本当だ。魔王を倒すまで、お前のそばにいてやるよ。」
俺がそういうと、彼女は一瞬のうちに笑顔になり、こちらに向かって抱き着いてきた。
―近い、近い、近い。
おまけに、どことは言わないが、なんか柔らかいものが当たってる。
柔らかい感触がダイレクトに伝わってくるし、いい匂いはするし、もう勘弁してくれ。
・・・そういうわけで、不本意ながらも、俺はこのポンコツ悪魔と魔王討伐の旅に出ることとなったのである。
まぁ、どこの世界でも、男は女の涙に弱いというし、これも一つのテンプレか。
俺は、悪魔に抱き着かれたまま、そんなくだらないことを思いながら、今後の展開に思いをはせるのであった。
まだまだ、初心者で、どういう形式が読みやすいのかわかっていないので、ぜひコメントをいただけるとありがたいです。