こんな夢を観た「コタツの魔物」
中谷美枝子の部屋へ遊びに行くと、もうコタツが出してあった。
「まだ、10月中旬だよ? 中谷ったら、相変わらずの寒がりだね」わたしは笑う。
「朝夕は、けっこう冷え込むじゃないの。それに、冷え性だしなあ、あたし」そう言って、深々とコタツに潜る。
「今日なんて、外の方があったかいくらいだよ。まさか、スイッチなんか入ってないだろうね」
座って、コタツ布団をめくってみた。呆れたことに、ヒーターが赤々と点いていた。
「だってー」中谷がぶつぶつと言い訳を始める。「今さっき、食器の洗い物でキッチンに立ってて、すっかり冷えちゃったんだもん」
「うちなんて、まだ扇風機もしまってないっていうのに」つい、コタツに足を入れてしまう。何だかんだ言っても、目の前にあれば入りたくなる、それがコタツの魔力だった。
テレビを眺めたり、雑談をしているうち、いつの間にか1時間ばかり経っていた。
「喉が渇いたね」中谷がぼそっとつぶやく。
「うん……。コタツって、乾燥するんだよね」そう言えば、わたしも喉がカラカラだった。
「ねえ、冷蔵庫にアップル・ジュースがあるんだけど、あんた、ちょっと行って、取ってこない?」
「えー、ずるい。中谷のうちじゃん。それにこっちはお客様なんだよ?」わたしは立つのがおっくうで仕方なかった。
「何よ、そのお客様にジュースをご馳走しようって言ってんじゃない。すぐそこなんだからさ、ねっ、お願い。持ってきて」根が生えてしまっているのは、中谷も同様らしい。
「じゃあ、ジャンケン。ジャンケンで負けた方が行くってどう? それなら不公平じゃないじゃん」わたしは提案する。
「うーん、いいよ。あと出しはなしだからね?」渋々受け入れる中谷。
「最初はグーっ! ジャンケン、ポンっ!」同時にかけ声を発し、利き手を突き出す。
結果、中谷はパー、わたしはグーで負けてしまった。
「うう……」悔しいけれど、そもそも自分で言い出したことだ。従うしかない。
ところが、いざコタツから立とうとすると、それができないのだった。
「どうしたの、むぅにぃ。早く、行ってらっしゃいよ」中谷が急かす。
「コタツの中で、誰かが足をつかんでる気がする」わたしは訴えた。
「まーた、そんなこと。出たくないから、言い訳してるんでしょ」
けれど、現にわたしはコタツから自分の足を引き抜くことができないのだ。
「ね、中谷。一緒にコタツの中を見てくれない? 何か、すごーく嫌な予感がする」わたしは言った。
「いいよ。いっせーのせっ、で布団をめくってみよう」
いっせーのせっ、でコタツ布団をバッと持ち上げると、頭を横にして覗き込む。
ヒーターの真下には、タコそっくりな生き物がいた。それも、茹だって真っ赤になったタコだ。吸盤の付いた触手を持っていて、そのうちの何本かが、わたしと中谷の足首に巻きついていた。
「何これーっ?!」2人同時に叫ぶ。しっかりと絡みついていて、簡単には外せそうもない。
「きっと、こいつが噂の『コタツの魔物』だよっ」わたしは言った。コタツに入った者を縛りつけ、動けなくしてしまうと言う化け物だ。
「気持ち悪ーいっ。ねえ、どうしたら逃れられると思う?」中谷が聞く。
わたしはうーん、と考えた。魔物だろうと妖怪だろうと、何か弱点があるはずだ。
「そうだ、中谷。スイッチを切ってみたらどう? コタツなんだから、寒いのは苦手なんじゃないかなっ」
「そ、そうね。やってみる」中谷は手探りでスイッチを探し、カチッとオフにした。ヒーターが瞬時に暗くなる。
「あ、ほら。見てっ」わたしはコタツの魔物を指差した。
塩をまぶしたナメクジのように、シュワアッと縮んでいく。足首に巻きついていた触手が解け、わたし達は晴れて自由の身となった。
「ああ、すっかり消えてしまった。それにしても、恐ろしい敵だったね。つかまれている間、何一つ、抗うことができなかったもの」中谷はへなへなと、横になる。
額の汗を手で拭い、もう二度とコタツには入るまい、そうわたしは誓った。




