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不本意なお姫様  作者: 三月
本編
3/9

ただ、願う

 海を挟んだ向かいの大陸には、強大な帝国がある。その帝国の第一皇子は歩く災厄と呼ばれ、各国からも恐れられている。

 かの皇子は伝説にある魔王の再来と言われるほどの魔力を持ち、ほんの幼少期からその魔力を操る術に長けていた。

 長じてからもその魔力が衰えることはなく、寧ろ力は増していくばかり。危機感を抱いて皇子を排除しようと企んだ輩は、皆謎の死を遂げた。

 当の皇子は周囲の思惑などまるで関係無いと言わんばかりに自由に生きている。気の赴くままに出かけ、暫く帰らないという事態も珍しくはなく、出掛けた先々で好奇心のままに行動しているらしい。己の好奇心を満足させる為なら多少の被害も気にしないという何とも困った皇子だ。

 そんな皇子だから当然玉座に興味など無いようで、もしもあの皇子が皇帝となったなら、と危惧していた者達を嘲笑うかのようにアッサリと王位継承権の破棄を宣言した。

 そうして身軽になった皇子は国境さえ気にせずあちこちに出没するようになった。そんな皇子に恐怖を覚えて攻撃した者、逆に利用するため捕らえようとした者達は、やはり皆表舞台から消えていった。

 災厄皇子が来ても逆らうな。決して手を出さず好奇心を満足させるまで放っておけ。そんな不文律が各国に知れ渡るのに、然程時間は必要なかった。


 そんな皇子だから、この国にしか自生しない薬草について知りたいから庭師として雇えと言ってきても、逆らうことなど出来なかった。

 少々時期が悪いと言ってみても、自分なら問題ないから気にするなと言われてしまえばそれ以上は逆らえない。事実、この国が攻め込まれたところで、この皇子なら難なく逃げ出せるだろうとわかるから、案じるだけ無駄だと開き直ったのもある。

 だけどまさか、こんな事態になるとは思ってもみなかった。

 王様の目の前には正装した皇子と帝国の使者達がいる。悠然と座る皇子とは対照に、使者達は若干青い顔をしながら帝国からの親書を読み上げている。我が国の姫を第一皇子の正妃として迎えたいと。

 正直、全く予想しなかった訳ではない。あの可哀想な姫は王太子達から逃げる為に彼の勤める薬草園に逃げ込んでいたという情報は得ていた。彼の方からも姫が来るのは別に止めなくていいと言われたときに、嫌な予感はしていたのだ。


 強い魔力を持って産まれた姫は、周囲が甘やかした為に、かなりの我儘に育ってしまった。そして我儘故に国を苦境へ追いやり、その責任を果たさずに逃げてしまったのだ。

 逃げた姫に無理矢理身代わりにされた可哀想な姫。それでもこの国の王として、可哀想な姫にこの国を救うための婚姻を強要した。姫に許された残り時間は少なかったが、出来る限り時間を与えて彼女自身に相手を選んでもらえたら良いと思っていた。しかし各国の怒りは激しく、引き延ばせるだけの余裕は無かった。仕方無しに姫にこちらが適当と思う王太子に嫁いで欲しいと言った翌日、皇子に正式に姫との婚姻を申し込まれてしまった。

 条件としては、とても良いのだ。何せ相手は災厄皇子。どこの国も文句の付けようが無いし、姫も皇子のことを悪からず思っていることを知っている。姫の為にも、国の為にもなる、これ以上無い良い話だとわかっているのだが。

 懸念することはただ1つ。姫が本来の姫ではないことだ。もしも嫁いでから身代わりであることが発覚したら?体は本来の姫のものなので問題はないが、魂は全くの別物。こことは異なる世界で育った彼女はこの世界の常識を全て知っているわけではない。

 勿論、姫がこの世界で生きていけるように教育を施したが、完璧には程遠い現状だ。ちょっとした動作でも、違和感を覚えるものが出てくるかも知れない。そうなった時、あの可哀想な姫はどうなってしまうのか。たとえどの国に嫁いだとしても、その問題は付きまとう。だから性格的にも穏やかで、内心がどうであれ決して姫を悪いようにはしないだろうと思われる王太子を押したのだが・・・・。

 しかし、あの災厄皇子の申し出を蹴るなど、そんな恐ろしいことをしては、どんな報復をされることか。悶々と頭を抱える王様の気持ちも知らないように、皇子はクスリと笑った。



 「そんなに心配しなくても、あの可哀想なお姫様の事情ならわかってるよ」



 その言葉に、王様はストンと肩の荷がおりたような気がした。そうか、あの可哀想な姫は信頼できる相手を見付けられたのか。自分の事情を話せるだけの相手を、見付けることが出来たのか。

 その相手がかの災厄皇子であるというのには、若干の不安があるが、皇子は今までに見たことがないほど穏やかな顔をしている。この様子なら大丈夫だろう。ただでさえ、この国の為にしなくても良い苦労を強いられてきたのだ。姫が望むのなら反対する理由ももうない。



 「どうぞ、よろしくお願い致します」



 深々と、頭を下げる。皇子も笑って頷いてくれた。詳しい取り決めはまた後日として、とにかく集まった王太子達には姫が皇子に求婚されたことを告げなくてはならない。きっとそれだけで彼らは身を引くことだろう。災厄皇子を敵に回すなど、どう考えても割に合わない。

 見知らぬ異世界で生きることを強いられた可哀想な姫。叶うことなら、かの皇子の側で彼女が幸せになれることをただ、願う。




当然ながら、彼女は何も話していません。全て盗み聞きの結果です。

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