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不本意なお姫様  作者: 三月
本編
2/9

助けてあげる

 僕は、とあるお城の庭師をしている。

 普通はお城に勤めているとなると凄い羨ましがられるものだけど、このお城の場合はちょっと事情が違う。だってこのお城のある国は今、周囲の国々に滅ぼされる寸前だからね。

 発端はこの国のお姫様が強い魔力を持って産まれたことかな。魔力が強いだけでもかなりの好条件なのに、身分まで保証されてるからね。お姫様は大人気で弱いこの国はいつ攻められてもおかしくない状況だったらしいよ。まぁ各国が牽制しあってなんとかこの国は無事にいられたけどね。

 それから色々あってお姫様の15歳の誕生日に各国の王太子と大規模なお見合いをして、選ばれた一人とお姫様は結婚するってことで落ち着いてたんだけど、お馬鹿なお姫様は集まった王太子全員に気を持たせるようなことを言っていたらしいんだよね。

 それからのことは言わなくてもわかるかな?

 元々、ギリギリの均衡を保って維持されていた平和な日常は呆気なく壊れてしまった。自分の行動が国の未来を左右することを全く理解していなかったお馬鹿なお姫様は、馬鹿にされたと憤り、嫌悪感を滲ませながらも国の為に求婚せざるを得ない王太子達に追いかけ回されている。

 まぁ自業自得だしね。誰も助けてなんかくれない。それより早く相手を決めてくれないと今度こそ攻め滅ぼされると、皆ピリピリしてるよ。

 お姫様の相手選びに与えられた期限は1年。既に残りはあと3ヶ月しかない。これまで逃げ回ってきたツケを払わないといけないお馬鹿なお姫様は、いったい誰を選ぶのかな?

 散々馬鹿にされた王太子達はもうお姫様に対して愛情の欠片も抱いていないみたいだし、誰を選んでも幸せな未来とは程遠そうだよね。

 こんな愉快な悲劇を間近で楽しめるなんてね。この国に来て、本当に良かったよ。さぁ、お姫様がこれからどうするのか、特等席で眺めさせてもらおうかな。



 そう思っていたのに、この状況は何だろう?

 僕の目の前には地面に座りこんで何かブツブツ言ってるお姫様。僕が担当しているのは観賞用の庭園ではなく、専門的な薬草を栽培しているエリアだから、普通は貴族どころか使用人さえ立ち入らないし、僕が入り浸っているから遠慮して同じ庭師さえたまにしか来ないような辺鄙な場所に、何であの高慢なお姫様が?それも地面に座りこんで?

 風で音を散らしてるみたいで何も聞こえてこないけど、僕にとって散らされた音を集めるのは簡単なこと。ちょっとした好奇心からお姫様の独り言を聞いてみることにした。


 ・・・・面白いね。どうやらお姫様はお姫様じゃなかったらしい。

 流石に各国の王太子を怒らせたことは理解できたらしいお姫様が、責任から逃げるために異世界の人間の魂と自分の魂を入れ換えていたなんて、流石の僕も全然気付かなかったよ。何気に高等魔術なんだけど、お馬鹿なお姫様でもそういう才能には恵まれていたんだね。

 つまり僕の目の前で悲壮感を全身から出して座り込んでるのは、お馬鹿なお姫様に無理矢理身代わりにされた可哀想なお姫様というわけだ。

 突然見知らぬ世界に放り込まれた挙げ句、味方もいなくて孤独に震える可哀想なお姫様。同情と好奇心から、僕はお姫様に話しかけてみた。

 お姫様の反応は凄かったね。最初は人がいることに驚いて、そこから自分の立場を思い出したんだろうね。僕が引き留める間もなく、走って逃げちゃったよ。

 それでも他に居場所が無かったのかな。お姫様は毎日薬草園にやって来た。毎日地道に声を掛け続けてたら少し警戒を解いたみたいで、会話出来るようになったあの時は警戒心の強い野良猫が懐いてくれたような達成感があったよ。

 徐々に僕に懐いてきて、たまに笑顔を見せてくれれようになったお姫様に、僕は自分でも驚くほどに嵌まっていった。この可哀想なお姫様は、あのお馬鹿なお姫様とは全然違って、とても素直ないい子だ。感情が直ぐに顔に出てしまうところも、この子なら可愛く思えてしまうんだから重症だ。

 何気無い会話が楽しくて、お姫様が笑うだけで僕もなんだか幸せな気分になってしまう。初めての感情に浮かれていたある日、お姫様が初日以上の悲壮感を背負ってやって来た。

 一体どうしたのかと慌てて尋ねたら、お姫様は泣きそうな顔で僕とはもう会えないと言った。

 言われた瞬間、僕は頭が真っ白になるということを生まれて初めて体感したよ。

 お姫様に理由を聞くと、王様達に早く相手を決めるように言われたらしい。当然だ。お姫様に与えられた猶予は残り1ヶ月を切ろうとしているんだから。言われるまで気付かなかった自分の間抜けさ加減が頭に来る。

 どうやらお姫様と過ごす日々が心地好すぎて、僕の頭はボケてしまっていたらしい。こんな日がずっと続くと錯覚してしまっていたんだ。

 僕の腕の中で泣き続けるお姫様の頭を撫でながら、僕は1つの決心をしていた。

 お姫様と過ごす心地好さを知ってしまった僕は、今さらお姫様が隣にいない日々なんて耐えられない。折角集まった王太子達には悪いけど、お姫様のことは諦めてもらうしかないね。

 さぁ、可愛い可愛い僕のお姫様。直ぐに助けてあげるから、どうか泣き止んで?




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