プロローグ
現実なんて残酷なものだと誰かが言った。理不尽で不平等でうれしいことや楽しいことよりもつらいことや悲しいことの方が圧倒的に多い。やり直しはできない失敗をなかったことには出来ない。起こったことは事実として受け止めることしか出来ない。ブサイクな奴よりもイケメンのほうがモテる。可愛い子の方がモテる。別にこうしようとした訳ではない。別にこんな顔で生まれて来たかった訳ではない。そんな風に心の中で何回言っても変らないし強く渇望しても現実は何一つ変化はない。
そしてある男は逃げた。現実がつらくて耐えられないから目を背けて二次元に逃げた。そして、男はこう言った。人生なんてクソゲーだと。
しかし、男は気がついていなかった。自分が人生をクソゲーにしている事実を。自分自身が人生を一番否定している事実に。では、さて。現実とゲームの違いとは一体何か?普通の人はこう答えるだろう。ゲームはありえないことを表現できると、現実はただ現実に沿ってありえることしか起こらない。俺だって現実とゲームの違いはわからない。
いや、知らないのだ。だって、それは自分自身で体験したことがないのだから。自分が体験したことのない物は話しを聞いても深くは理解出来ず、上辺だけの理解になってしまう。ゲームと現実の違い……それはひどく簡単な区別に見えるが、深く説明出来る者はそう多くは無いはずだ。
だが、今目の前で起こっている出来事はゲームなどではなく、現実だろう。しかし、これを現実と読んでいいのかは誰もわからず、それでも俺が存在している空間はゲームなどではなく、間違いなく現実だ。
たまたま散歩に出かけただけだった。今歩いているのは普段から人通りがさほど多くない場所で、周囲は木に覆われている森だ。何もなく町明かりもあまり入らない場所で、森の奥には廃墟になった工場があるだけで、他の物はなに一つない。
俺はなぜか夜に目が利くのだ。昼間は周囲も明るいので誰でも見えるのだが、明かりがあまり無い場所でも昼間と同じ感じで周囲を見れるのだ。別に異常なことではなく、世界には俺のような人間など何億という数居るだろうが、夜に目が利くことに損をしたことはなく、どちらかというと暗い部屋の中でも普通に動けるので得をしていることの方が多い。
森の周囲にも何も無く静かな場所なので昼間は散歩をしている人が居るらしいのだが、さすがに暗い中森を散歩している人など存在せず、どこを見渡しても人など居ない。俺だって誰か居るなんて思ってもないし、居たら居たで驚いているだろう。
静かな森の中を一人で歩いていると、何か音が聞こえてきた。何もない森で音が聞こえているのは不思議な感じで、気になって奥に進むにつれて音は騒音に変る。
この時は既に異変に気が付いていた俺は脚を止めた。普段から静かな森で何かが爆発するような音を立てているのだから、異変に気が付かない方が可笑しい。それに鉄を叩いているかのような甲高い音も聞こえ、どんな光景かなど見なくても異常だと理解出来ていたが、止めた脚を再び動き出させた俺は奥に進む。
少し進むと騒音と共に光が見えるようになった。点滅する光のように消えたり光ったりしている光景を早く見たいがために駆け足で進む。この先にある物は間違いなく危ないと理解していながらも何かに惹かれるようにもう、脚を止めることなど出来なかった。
そして、こう工場が見える位置に来ると俺は目を見開いた。そこに広がっていた光景はあまりに非現実で、想像を超える光景だったのだから無理はない。こんな光景は現実では絶対に見れる光景ではないが、ために俺は光景から目を離せない。
目の前で光が踊っていたのだ。点滅したり線を描いたりする光は青白く、何か不吉な感じがする……その瞬間、光は爆発するように周囲に迸り、工場と動いているもう一人の人影を飲み込もうとするが、人影は回避する。
迸る青白い光は俺の知っている言葉で言うのなら雷鳴だった。音を立てながら周囲に迸る雷鳴は花火などより綺麗で、そして恐ろしかった。理由は簡単であれに触れれば一瞬で死ぬと自覚しているからだ。
よく見れば雷を放出しているのは一人の少女だった。身長はあまり大きくないが、持っている鎌は身長より一回りか二回りほど大きく、普通なら持ち上がることさえ不可能に近いのに、少女は俺から見ると瞬間移動でもしているほどの速度で移動して、子供がバットを振るように軽く鎌を振る。振るう鎌からは雷鳴が迸り、別の人影を襲うが、何かバリアのような物で簡単に防がれてしまう。
二人はそれを何度も繰り返す。少女の振るう鎌が人影に当たることもないが、人影からは攻撃をしようとしている素振りもない。ただ、その場だけ防げたらいいといわんばかりに回避とバリアを使う。
そして、この二人の怪物は間違いなく同じ人間などではない……いや、正確には俺は二人の正体を知っていた。見たことないはずなのに、まるで記憶に刷り込まれているかのようにはっきりと明確に二人はなんという存在か理解出来る。
この二人は人間ではなく、召喚者という怪物だということを。




