8.悪の手先 その六 MY WINDING ROAD
-石山寺 外れの小屋-
9:50に到着すると無人だった。
てっきり、高橋か門脇がいると思っていたのだが。
時間があるんだ、もったいない。
僕は、”御堂乱流”を発動させる。
以前より、長時間続ける事ができるようになった。
20分まで後少しだ。
集中して術を続けていると、不意に扉が開き、
『うわっ、冷た!何コレ。』
女の声が聞こえた。僕は術を解除し、振り返る。
金髪の女だ。見た事があるな。
そうだ、”閃光蓮”の試験の時にいちゃもんをつけた女だ。
相変わらず、場違いなチャラい格好をしている。
好きになれんタイプだ。
『おはようございます。』
『おはよ、練習熱心ね。門脇が気に入る理由も分かるわ。』
『今日はあなたが教えてくれるんですか?』
『大阪 泰子よ。やっちゃんって呼んでいいわよ。』
『大阪さん、今日の術をお願いします。』
『いい度胸してるじゃない。柊君。』
こんなチャラい女に教えを請うのでも腹が立つのに、
相手のペースになど合わせていられるか。
『右手、出して。』
『あ、はい。』
つい、僕は不用意に右手を出してしまう。
『”紫音”!』
『バチン!』
『痛っでぇぇぇ!』
僕は、右手に強烈な痛みを感じ、その場で悶える。
あまりの痛みに涙が出てくる。
『びっくりした?これが、今日の術、”紫音”。
今のは、力をセーブしたけど、本気だしたら、
相手を失神させる事もできるわ。』
こ、このアマ……、どついたろか。うぐぐぐ。
右手が痺れて全く動かない。くそぉ。
『乱暴に言うとスタンガンよ。
私は、詠唱抜きで発動できるけど、始めは、一から十まで詠唱する事。
親指と人指し指、中指を合わせて、
”連なれ、紫光の柱、鳴り響け”
そして、指を開き、対象に当てて、”紫音”。
OK?聞いてる?』
聞いているが、右手が痛くてそれどころではない。
こいつ……喰らえ!小声で詠唱し、
『”紫音!”』
左手で大阪に向かって、術を放つが左手は空しく空を切った。
『それぐらい読めるんだなぁ。あはは。』
もう、許さん。
先輩だろうが、構うものか。
このウラミ晴らさでおくべきか!
『”砕!”』
左手で”閃光蓮”をぶっ放す!
辺りが光に包まれる中、一呼吸し詠唱する。
『”連なれ、紫光の柱、鳴り響け、紫音!”』
『バチン!』
今度は、手ごたえ有りだ。
閃光が止んでいく。
ところが、僕の左手は、大阪ではなく、高橋に受け止められていた。
『身内での術行使は感心せんな。』
『やっちゃん、悪くないもん。』
『この女が先に…』
『大阪、柊、やめろ。』
『はいはい。』
『はい。』
僕は、しぶしぶ、左手を下げる。
『今日の講義はここまで。大阪は帰っていいぞ。
柊には連絡事項がある。』
大阪は小屋を出て行った。
『柊、白鞘からスカウトされたらしいな。』
『まぁ、はい。』
僕は、右手をさすりながら答える。
『本部からの指示は、白鞘に潜入し、情報を逐次、報告せよとの事だ。』
『スパイしろって事ですか。』
『そういう事だ。』
『でもそれって、黒連、身内から狙われる可能性があるんじゃないですか?』
『戦闘に直接参加しないんだろ?余程、狙う事はない。』
『本当ですか?』
『不服か?』
『まぁ、そりゃあ。』
『それなりの手当ても出るぞ。』
『お金だけじゃないですよ。』
『期待されているんだ。出来る人間と思われているんだよ。用心してかかれ。』
『分かりました。』
-学校-
次の日、宇梶に協力する旨を伝えた。
『ありがとう。今日の放課後、また、あのマンションに来て、詳細を話すから。』
パシリ、アッシー、そして、スパイ。
悪の手先、出世街道一直線だな。
授業中、宇梶の背中を眺める。
どう見ても普通の女子高生だ。
2回の戦闘を見たが、未だに信じられん。
そういう意味では、僕も見た目は、普通の高校生。
まさか、悪の手先だなんて誰も思わない。
それにしても世間は狭いよな。僕が黒連、宇梶が白鞘。
同じクラスだぞ。
こんな近距離だぞ。
狭すぎるだろ。
あ、高橋も入れるとうちの高校だけで3人も関係者がいるって事か。
もしかして、他にもメンバーがいるのか?
悪の手先、始めました。正義の味方もやってます。