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7.悪の手先 その五 Can you 加入?

-石山寺-


 9:50に着き、小屋に入ると門脇は既に中で待っていた。


 『時間厳守。いいね。ゆとり世代にしては。』


 『ありがとうございます。』


 この門脇という男、なんか胡散臭い。


 直感的にだが。今の人を馬鹿にした言い回しにしてもだ。


 『早速だが、今回、柊君に覚えてもらいたい術は、”御堂乱流”という。


  ”閃光蓮”と違い、札を使用しないが、体力を消耗する。


  正確には、体内の水分を消耗する。


  使いすぎると脱水症状になるから、使用する際は、体調に気をつけて。』


 『はい。』


 『効果としては、術者を中心に円状に霧を発生させる。


  目隠し等のカモフラージュに使う。


  デメリットは、発生させた霧が風の影響を受ける事だ。モロにな。


  使う場所を誤ると、何をやっているのかわからなくなる。


  以上、簡単に説明したけど、質問は?』


 『どれぐらいの使用時間で脱水症状が起きますか?』


 『個人差があるからなんとも言えない。


  術の発動前後は、水分補給するようにして。


  自分の術で死んだら笑えるだろ。』


 『分かりました。次の作戦日程、内容は?』


 『次は、施設破壊になる。あぁ、心配しなくていいよ。実行は僕だ。


  柊君にはカモフラージュで”御堂乱流”を使ってほしい。


  長距離から砲撃するんで人目につきたくない。という訳だ。


  では、術の使用法について教える。


  両手の親指を刃物で傷付けて、右手の手のひらにはこの模様を、


  左手の手のひらのはこの模様を描く。


  次に両手の手のひらを合わせ”乱”と唱え、両手を広げ”流”と唱える。


  ”閃光蓮”のように叫ぶ必要はないよ。その体勢を維持している間


  術は発動し続ける。分かった?』


 『はい。』


 『よし。ほれっ!』


 門脇は僕にミネラルウォーターのペットボトルを投げてきた。

 

 『飲んだらやってみて。』


 無言で僕は、ペットボトルを飲み干し術を試す。


 両手を合わせ『乱』、開き『流』。


 僕の両手の手のひらから霧が発生する。


 変な感じだ。冷たいような、暖かいような。


 僕は、しばらくその体勢を維持していたのだが、


 急にガクンと膝が折れてしまった。


 眩暈がする。気分も悪い。なんだこれは。僕が戸惑っていると、


 『それが脱水症状。5分か。ちっと、きついな。』


 門脇がペットボトルを開けて、渡してくれた。


 僕は、それを一気に飲み干した。


 すげぇ、疲労感。まだ、頭がくらくらする。


 『本番までは、まだ時間がある。練習してくれ。20分はほしいな。


  コツっつーわけでもないが、何回か試して、


  この体調ならこれぐらい維持できるといった体感を持つ事。


  今日はここまで。しばらく、その症状は続くだろうから、休んでて。』


 そう言って、門脇は小屋を出て行った。


 『ふぅー。』


 体力がないのは知っていたから、今まで体育の授業でもずっと手を抜いていた。


 脱水症状なんて始めてだ。僕は、床が汚いのを承知で横になり、休むことにした。


 寝転んだ状態で手の甲を見上げた。


 順調じゃないかもしれないけど、2つ目の術だ。


 僕は、一人、フフっと笑った。




-石山駅-


 門脇が携帯で誰かと話している。


 『よぉ、俺だ。


  黒連に新しい術者あり。


  見込みある為、機を見てこちらに引き込む。


  以上だ。』



 

-石山寺から帰路-


 僕は、家に向かって歩きながら考える。


 さて、新たな術を手に入れた訳だが…どこで練習するかな。


 ”閃光蓮”みたく、なぞればいいってもんじゃないしな。


 風呂場かな。両親にはバレないだろうし。


 でも、どこまで効果範囲が広がるか確認したいしな。


 だとすると…玉川高校の裏に森があったな。


 あそこでやるか。朝一や夜ならば人も来ないだろうし。


 よし、行くか!


 その夜、家を抜け、


 コンビニで2Lのペットボトルを買い込んでから、森の奥へ進む。


 ちょっとした広い場所があったはず。


 小学生の頃、秘密基地なんて作って遊んだ記憶がある。


 そんなあやふや記憶を頼りにズンズン進む。あった。


 草木が成長した性だろうか、もう少し、広かった気がするが、ココだ。


 まわりを見ても人影はなし。というよりほとんど見えない。絶好の場所だ。


 早速、2Lのペットボトルを1本、空にし、術を発動させる。


 『乱』、『流!』


 両手の手のひらから霧が発生する。


 一回目より明らかに発生量が増えている。


 ”閃光蓮”同様、術は、発動回数を回数を重ねる毎に効果が上がるに違いない。


 ある程度、発動させると、


 軽い眩暈を感じたので術を解除し、僕は、すぐに水分補給をする。


 左手の腕時計を確認する。


 9分25秒。いいぞ。伸びてる。


 『よっと!』


 手近な木に少し登り、霧がどの程度拡散したか確認する。


 20~30mといったところか。


 門脇から拡散範囲については、要求されていないから判断つかんな。


 まぁ、キリがいいところで50mぐらいを目指すとしよう。


 僕は、近くの木に目印をつけ、その場を移動する。


 『いいぞ。僕は成長している。


  この調子でいけば、次はどんな術を学べるのだろうか。』


 生まれて始めて学ぶ楽しさ、意欲が沸いてくる。




-学校- 


 一日二回、あの森で”御堂乱流”を訓練する日々。


 林が話かけてくる。

 

 『柊、今日、ゲーセン行かんか?』


 『いいよ。スパ4でもやりますか。』


 『いいね。リュウ禁止で。』


 『なら、林は、ヤン使うな。』


 『マジかー。話変わるけど、柊、最近なんかあったん?』


 『なんで?』


 『いや、前は、授業中、よう寝てたやん。でも、最近、寝んやろ。


  物理の小テストも良かったやんけ。地味に勉強しとるやろ。』


 『中間テストが酷かったんで。これ以上、こづかい減らされたくないだけだよ。』


 『がっはははは。お前も同類よな。』




-放課後-


 林とゲーセンで遊んだ後、ふと気になったので、あの場所へ行ってみる。


 始まりの場所へ。


 当然、誰もいない。戦闘もない。当たり前だ。


 けれど、確かにココは、僕が変わるキッカケになった場所だ。


 『柊君?』


 不意に後ろから声を掛けられ、振り返るとそこに宇梶がいた。

  

 『なんでこんな場所にいるの?』


 宇梶は、不審な人間を見るような目で僕を見ながら近付いてくる。


 『さっき、林とゲーセンに寄っててさ。


  ちょっと前、宇梶さんに言われたのを思い出して来て見たんだ。』


 『そう。』


 『何かあったの?』


 白々しく、僕は宇梶に尋ねる。


 『別に何も。』


 あの時、戦闘していたのは恐らく宇梶だろうが、


 宇梶も本当の事を言わない。当然だ。


 『じゃあ、また明日。』


 そう言って、帰ろうとすると、宇梶が話し始めた。


 『あのさ、柊君て、妖怪とか信じる?』


 少し考えた振りをして、


 『妖怪?カッパとかそんな類の?


  昔はよくいたって、じいさんが言ってたような…』


 僕が、話をはぐらかそうとすると、

  

 『真面目な話なんだけど。』


 宇梶がキツイ目線で僕を見る。


 『信じてないよ。まだ、宇宙人の方が現実味があると思うけど。』


 『そう、だよね。そう思うよね。』


 宇梶は困った顔をしてその場に立ち尽くした。


 どういうつもりだ?僕が黒連のメンバーだと気付いたのか?


 だとするとこの状況はマズイ。圧倒的に不利だ。


 遠藤をフルボッコにする宇梶に僕が敵うはずがない。


 ”閃光蓮”でトンズラするしか思いつかん。


 後の事は…高橋に頼もう。


 覚悟を決めろ。恭一!


 右手のポケットの札を握り締めた。


 行くぞ!南無三!!


 『あのね。ちょっと、お願いというか、手伝ってほしい事があるんだけど…』


 『えっ?』


 もう少しで札をこぼすところだった。


 ゆっくりと右手の札をポケットに戻す。


 『何?委員会とか部活の仕事?』


 『ううん。私、個人というか、その説明したいからついて来て。


  あ、時間ある?』


 『う、あ、いいよ。』


 取りあえず、命の危機は去ったようだ。


 イキナリ斬られなくてヨカッタ。


 僕、小便ちびりかけたよ。


 宇梶について行った先は、草津駅駅前のマンションの一室だった。


 911号室。表札に名前はない。


 『連れてきました。』


 宇梶は扉を開きながら、中の人物に話しかけた


 『いらっしゃい。柊君。始めまして。』


 中には、スーツ姿の女性がいた。なんとなく教師っぽい感じだ。


 宇梶が敬語を使うという事は白鞘の上司に当たるのだろうか。


 顔が似てないから、親子ってわけでもなさそうだ。


 女性を一瞥した後、僕は丁寧に頭を下げる。


 『始めまして。柊 恭一です。』


 『どうそ、そこのソファにすわってちょーだい。


  陽子から少し話があったかもしれないけど、あなたの力を是非借りたいの。』


 陽子?あぁ、宇梶の下の名前か。


 宇梶が僕の前にお茶と茶菓子を出し、スーツ姿の女の隣に座る。


 『突拍子もない話だけれど、私達は、よく言う妖怪と日夜戦っています。


  柊君にはそのサポートをお願いできないかしら。

 

  もちろん、お給料もでるわよ。』


 妖怪と?よく言う。


 人間通しの派閥争いの間違いじゃないのか?


 極力、驚いた振りをする。


 『妖怪って、冗談でしょ?』


 ぼくが笑いながら返すと、スーツ姿の女性は、僕の目の前に右手を伸ばし、叫んだ。


 『霊槍 コガラシ!』


 その瞬間、女性の手の中に大きな槍が出現した。

 

 『うぉう!!』


 あまりにもビビッタ為、ソファをひっくり返すところだった。


 『びっくりした?でも、これは手品でもなんでもないわ。』


 そう言って、女性は、テーブルの上に数枚の写真を出した。


 蛇に猫?見たいな物、ブーメラン見たいな物。サイズが違いすぎるが。


 中には、以前、宇梶が戦った犬と思しき物もあった。確か大狼と呼ばれていたな。


 『これは一部。最近になって頻繁に出始めたの。


  私達の台所事情も苦しくてね。そこで有力な人材を探していたのよ。


  陽子の見立て通り、筋は悪くないと思うわ。どう、やってみない?』


 『その、命の危険はないんですか?』


 『直接、戦闘に参加してもらう必要はないわ。あくまでサポートのみ。』


 『時給とかって、どのくらいですか?』


 『高校生で、出来高で、3000円くらいかしら。』


 安い。黒連の方が羽振りいいぞ。


 つーか、僕の身辺調査をした上で、誘っているのか?


 わからん。ここはお茶を濁したほうがよさそうだ。


 『あの、スミマセン。急に言われても…、考えさせて下さい。』


 『もちろん。構わないわ。色良い返事、期待してるわよ。


  あ、そうそう、遅くなったけど、私の名前は、御門野(ミカドノ)よ。


  その気になったら、いつでも陽子に声を掛けてちょーだい。


  今日は、わざわざ、ありがとう。』


 『いえ、どーも。』


 そう言って、僕は、席を立つ。後ろから宇梶がついてきた。


 『草津駅まで送るわ。』


 『ありがとう。』


 マンションから出て、エレベーター内、草津駅まで僕も宇梶も無言だった。


 『ここまで来たら、帰り道は分かるよ。ありがとう。』


 僕は、無言の空気に堪えられず、宇梶に言った。


 『うん、今日は急にゴメン。あと、この事は…』


 『分かってる。誰にも言わないよ。また、明日。』


 僕は、自転車に乗り、自宅に向かう。


 さて、どうしたものか。




-その夜 自宅-


 森で”御堂乱流”の訓練をし、布団の中で横になっていた僕の元にカラスが来た。


 『ちょうど良かった。相談したい事があるんだ。』


 『?』

 

 カラスが口を開くより早く、僕は今日の出来事を話した。


 『モッテモテね。恭一君。』


 カラスが茶化す。

 

 『真剣に困っているのだが。』


 僕はカラスを睨みつける。


 『分かった、本部に掛け合ってみるわ。


  こんなレアケース、私じゃ判断できないし。』


 『よろしく、頼む。そっちの用件は?』


 『新たな術の習得依頼。今週の土曜、10:00にいつもの場所で。』


 『了解した。』


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