表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/107

3.悪の手先 その一 物運び


 若気が至り、勘違いが暴走し、中二病を患う僕は悪の手先。


 今日も元気に、人類に牙を剥く。


 と言えば、多少、聞こえはいいが、ほぼパシリに近い。いや、パシリだ。(反語)


 まぁ、時給がいいからいいけど。




-あの夜-


 カラスが一つの黒い金具のついた皮紐を渡してきた。


 『メンバーだと分かるネックレス。仕事中は、つけていて。


  それを見せれば、相手も納得するわ。』


 ネックレス。なんというリア充アイテム!


 僕みたいなオタヒッキーには、似合わないなと思いつつ受け取った。




○月○日(土)


 初仕事だ。カラスの指示は、 

 

 『瀬田駅 駅前のローソンに15:00集合。


  物を受け取った後、立命館大学 びわこ・くさつキャンパスの学門前に


  17:00までに運ぶ事。』


 物の大きさ等の指示はなかった。


 つーか、その距離、僕が運ぶ必要あるのか?


 いろいろ疑問はあるが、まぁ、やりますか。ドヒマですし。


 僕は、ナイキのスポーツバッグを背負い、


 両親には友達の家に行くと嘘を言って、13:00に家を出た。


 でも、国道1号線を西へ自転車を漕いでいる道中に急にビビッてきた。


 もし、運ぶ物が、TVで噂になっている違法薬物とかだったらどーしよう。


 捕まるかな。前科とか留年とか停学とか。


 怖ぇぇ。自転車のこぐスピードがガクンと落ちる。

 

 でも、ここでやめますなんて言ったら、あのデカイ犬に食べられたりしないかな。


 うわぁ、どっちもヤバイ、チョーヤバイ。


 あぁ、お腹痛い。チョーストレス。


 いろいろ、考えている内に瀬田駅前に着いてしまった。


 僕は、自転車を置いて、中を伺うが、ローソン内には店員しかいない。


 店の前で待つか、中で待つか。14:30だ。


 僕は、中で雑誌を立ち読みして待つ事に決めた。


 ジャンプのブリーチを読みふけっていると、不意に声をかけられた。


 『柊君?』


 『は、はい!』


 声が上ずった。


 『こんにちは、これ、食べる?』


 声をかけてきたのは、30台ぐらいの女性だった。水商売系の女性に見える。


 女性は、ロッテリアの紙袋を渡してきた。


 僕は、あわてて、ネックレスを見せる。

 

 『オッケー。そんなに緊張しないで。』


 女性は笑って顔を近づけ、僕に耳打ちする。


 『その紙袋を17:00までに、立命館大学に運んで、

 

  学門前に立っている赤いTシャツを着ている男へ渡して。よろしくね。』


 『はい。』


 僕は急いで、紙袋を自分のバッグの中に隠す。


 極力、動揺を隠そうと、ローソンでライフガードを買って、僕は、女性と別れた。


 女性は、瀬田駅の中に入っていった。


 僕は、自転車をまたこぎ始める。



 

-16:35 立命館大学 びわこ・くさつキャンパス 学門前-


 思ったより早く学門に着いた。


 だけど、大学生が多すぎる。


 僕は、周りを見渡し、愕然とする。


 赤いTシャツつったってそれっぽいのがいっぱいいるぞ。


 誰だよ、どいつだよ。パニックになる。


 17:00までは時間があるが、このままじゃ見つけられない。


 どーしよう。どーしよう。


 自転車を漕いできた性もあり、息が上がる。


 あぁ、めまいがしてきた。


 僕は、学門から少し外れた所に自転車を止める。


 取りあえず、ライフガードを飲んで休憩だ。


 『フゥー。』




-16:50-


 未だに大学生で学門前は溢れている。


 赤いTシャツもゴロゴロいる。


 ヤバイ。時間だけがどんどん過ぎていく。


 必死になって学門を見ていると、1人の男が近づいてきた。


 ジッパーの着いた黒いジャケットを着た茶髪の男だ。違う、こいつじゃない。

 

 男は僕に話しかけてくる。


 『どーしたん?誰か探してるの?』

 

 『いえ、あの、その。』


 僕は、返答に困り、どもる。


 『先輩とか?どこの学科?』


 『いえ、そーいう訳でも…』


 ヤバイ。逃げ出すか?パニックになる。


 『何か渡しに来たとか?』


 『ドクン!』


 心臓が口から出るかと思った。


 あばば、どーしよほ…


 『ははは、ごめん、ごめん。大丈夫だよ。』


 そう言って、男はジャケットのジッパーを下ろす。


 赤いTシャツだ。胸元には、僕と同じネックレスもある。


 『す、すいません。』


 僕も急いでネックレスを見せ、ロッテリアの紙袋を渡す。


 男は、紙袋の中を数え始めた。

 

 『1,2,3,4…。OK。ありがとう。またね。』


 そう言って、男は、大学の中に入って行った。


 『ふぃー。』

 

 緊張が解け、僕は、その場にへたり込む。


 ふと思ったが、なんで僕があやまらにゃならんのだ。


 ムカつく。僕は、男が消えた学門を睨み付けた。


 気付けば時間は、17:00。


 疲れた。帰ろう、本当に疲れた。


 僕は自転車を漕いで自宅に向かった。



 

-その夜-


 コンコン。コンコン。


 何が窓を叩く音で目が覚めた。


 僕は、手探りで眼鏡を探し当て、部屋の電気をつける。


 あっ、あのカラスだ。口に何かを銜えている。


 『何か?』


 僕は、あくびをしながら、窓を開ける。


 『お疲れ様。今日のお給料。』


 カラスは口に銜えた封筒を渡してきた。


 僕は、何気なく、中を見る。


 ゲッ、万札!


 1,2,3,4,5。5万も入っとる。


 思わず仰け反ってしまう。


 『こ、これ?』


 僕は、封筒を指で指しながらカラスに尋ねる。


 後で考えれば、実に滑稽な光景だ。


 『相手の羽振りが良かったのよ。時間前の到着、応対もよかったって。』


 ホメラレタ。


 恐らく悪い事しているのに、褒められましたよ。僕。


 僕は、久々に褒められて照れてしまった。


 『中身も見なかったしね。』

 

 『そりゃあ、怖くて見れないし……ハッ!あんた、監視してたな!』

 

 『かわいい部下の初仕事だもの。


  心配にもなるわよ。”はじめてのおつかい”みたいでウケタわ。』


 『うぎぎ…』


 あの醜態ではぐうの音も出ないが、僕は、歯軋りする。


 『仕事振りも良かったから、すぐ次の仕事を手配するわ。じゃ、またね。』


 そう言って、カラスは飛び立っていった。


 もう一度、数えたが、封筒いは確かに5万入っていて、全部透かしもあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ