<プロローグ>
『キィン。』
『チュイン。』
『ガッ!』
刃物が交わる音が琵琶湖 湖岸に響く。
覆面の大柄な男は、両手にナイフを持ち、
短い日本刀を持った黒髪で華奢な体格の女子高生と対峙している。
だが、劣勢なのは、男の方だった。
男は肩で息をしているが、女子高生の方は、息一つ乱していない。
素人の僕の目にも勝敗は明らかだった。
あとは、合図で撤退を待つのみというなんともジリ貧な状況だ。
『ひぐらし!』
仲間の合図とともに僕は、お札を指でなぞり、女子高生に投げつける。
『砕!』
僕のかけ声とともに辺りは、閃光に包まれた。
撤退だ。
僕は、すぐさま回れ右をし、後ろを振り返らず、自転車をこぎ続けた。
『宇梶、強ぇえ。パねぇわ。』
僕の始めての実戦は、敗北による撤退という陰鬱なものだった。
僕の名前は、柊 恭一。
滋賀県在住の高校一年生。
運動、勉強、ルックス、スタイル、全てにおいて日本人の平均を下げる男。
将来の負け組もほぼ保障されている。
でも、たった一つ、他人とは違う、他人には言えない秘密がある。
それは、僕が悪の手先だって事だ。
時給5千円で。