天使と悪魔
生まれて初めて小説というものを書いてみました。まだまだ未熟な部分だらけかと思いますが、少しでも多くの皆様に読んでいただけると嬉しいです。
太郎は葛藤していた。
高校に行き、つまらない授業を受け、母が持たせた弁当を食べ、だらだらと掃除をし、家に帰る。
それが太郎の日常。
今日もこうなるはずだった。いや、家路につくところまでは実際にいつも通りだった。
……財布だ。
彼の目の前に落ちていたもの。
それは落ち着いた雰囲気を醸し出した黒の長財布だった。
蛇の皮でできているのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
重要なのは中身だ。
確認してみないことにはわからないが、あんな高そうな財布だ。
中もそこそこ入っているだろう。
「……今なら誰も見てないぞ~」
どこからか声が聞こえた。これが悪魔のささやきというやつだろうか。
「ほら、欲しいものがあるだろう。何だって買えるぞ~」
悪魔の攻撃に、太郎は必死に抵抗した。
(でも小学校のとき『落し物は交番に届けなさい』って先生が……)
根はかなりマジメな太郎であった。
しかし悪魔の攻撃は続く。
「そんな甘いこと言って何になる?」
(でも……でも……人のお金だし……)
「いいか太郎、財布を落としたほうが悪いんだ。拾った瞬間、それはお前のものだ」
(うぅ……)
「おい、太郎っ!」
(は、はい!)
「お前、何か欲しいものあるよな。言ってみろ。」
(いえ……特に何も……)
「ああ!?」
(ひぃ……! げ、ゲームが欲しいです……)
何で自分の心の声に脅されているのだろうか……。
太郎は自分が情けなくなった。
「おう、そうだろそうだろ? じゃあネコババしようぜ!」
(いや、だからそれはまずいですって……)
「何も中身ごっそり持ってけとは言わねえよ。俺だってそんな鬼じゃない。……まぁ悪魔だからな! はっはっは、冗談冗談」
(あぁ……はい)
「何だよ、今の笑うとこだろ」
(あ、すいません……)
俺の中にはずいぶんと陽気な悪魔がいたもんだ。
しかし悪魔は悪魔。やはり俺を悪の道へ引っ張り込んでいく。
「俺様の見たところ、20万はあるな。諭吉を何人か持ってくだけで許してやるよ。そのくらいならチョロいだろ?」
(まぁ……そのくらいならいいかな?)
いつのまにか太郎の心はほぼ悪魔に支配されていた。
悪魔のそそのかしによって、太郎は冷静な判断力を失っていた。
そして太郎が財布を拾おうと手を伸ばした…そのときだった。
「待ちなさい、太郎……!」
どこからか澄んだ声が聞こえた。
(こ、この声はまさか……?)
「そう、私はあなたの心の中の天使よ。よく考えて。あなたはそんな人じゃない」
透き通った天使の声に、太郎は正気を取り戻した。
するとまた心の中で悪魔の声がした。
「くそ、現れたな! 天使め!」
「悪魔……やっぱりあなたのしわざね」
どうやら因縁の仲らしい。太郎の中で天使と悪魔の争いが始まった。
「あともうちょっとでこいつを悪に染め上げることができたのによぉ! 毎回毎回邪魔しやがって!」
「あなたの好きにはさせないわよ!」
「けっ! 良い子ちゃんぶりやがって!」
「な、何ですってー!!」
(お、俺はどうすれば……)
天使と悪魔の争いというより、もはやただの口喧嘩である。
太郎は自分の心の中の2人においてけぼりにされていた。
「このままお前にやられてたまるか! くらえ! デビル・ビーム!!」
悪魔の指先から黒い光線が放たれた。……もちろん、太郎の心の中でだが。
「あなたなんかに負けないわよ! エンジェル・フラッシュ!!」
天使の体がまばゆい光に包まれた。……もちろん、太郎の心の中でだが。
黒い光線と白い光がぶつかり合う中、ついに太郎は決断をせまられた。
「さあ太郎! この財布をお前はどうするんだ!」
「あとはあなた次第よ! 太郎!」
太郎は葛藤した。
(交番はすぐそこだ。先生の教えを守るんだ!)
(…でもこんなにお金が入っているんだ。少しくらい抜いてもいいんじゃないか?)
太郎は悩んだ。悩みに悩んだ。そして……
(俺はこの財布を……交番に届ける!)
「よく言ったわ、太郎! さぁ、今の言葉を聞いたでしょう。消えなさい、悪魔!!」
「ぎゃあーーー!!」
白い光が一瞬強くなったと思った次の瞬間、悪魔は光の中へ消えていた。
天使の優しい声が太郎の心の中に響いた。
「よく決心したわ、太郎。賢いあなたなら、どうすべきか気付くって信じてたわ」
天使が静かに微笑んだ。
「これで合法的に1割のお金がもらえるわね」