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第35話 王都離反

最初に逃げたのは、

小商会だった。


次に中堅。


そして。


ついに大商会まで動き始める。


ルクスバリア

王都商業区。


かつて国内最大の物流拠点だった大通りは、

今や空気が違っていた。


倉庫閉鎖。


人員移転。


資産売却。


表向きは“事業再編”。


だが実態は明白。


辺境への移住。


商人たちはもう隠さなかった。


「王都じゃ利益出ねぇ」

「関税で潰される」

「辺境の方が回転率が高い」


理由は単純。


儲かるから。


それだけだった。


特に魔導鉄道接続後、

差は決定的になった。


輸送速度。


保管効率。


税制。


全部が辺境側の方が合理的。


商人は感情で動かない。


利益で動く。


だから止まらない。


王都貴族たちは激怒していた。


中央議会。


怒号が飛び交う。


「裏切り者どもが!」


「王都を捨てる気か!?」


「商業許可を剥奪しろ!」


だが。


商会側ももう黙らない。


一人の商人が冷静に言う。


「利益が出ませんので」


老貴族が顔を真っ赤にする。


「国家への忠誠はどうした!」


別の商会長が鼻で笑った。


「飢えて忠誠を食えと?」


空気が険悪になる。


もう限界だった。


王都は規制ばかり。


利権ばかり。


許可ばかり。


対して辺境は違う。


速い。


自由。


利益が出る。


商人にとって、

どちらが魅力的かなど明白だった。


そして。


会議室の扉が開く。


静寂。


全員が振り向く。


入ってきたのは、

重厚な黒コートの男。


クロード・ベルマン


王国最大級商会、

ベルマン商会当主。


その登場だけで、

会議室の空気が変わる。


彼は王都商業界そのものだった。


老貴族が叫ぶ。


「クロード!

貴様の商会も辺境へ資産移転したそうだな!」


「説明してもらおう!」


クロードは一瞬だけ沈黙した。


そして。


ゆっくり会議室を見渡す。


怒る貴族たち。


焦る官僚たち。


現実を理解できていない人間たち。


やがて。


彼は静かに口を開いた。


「諸君」


低い声。


だがよく通る。


「商人は国家に従属しない」


空気が止まる。


「市場に従う」


誰も言い返せない。


クロードは続ける。


「王都は過去へ投資している」


「辺境は未来へ投資している」


静かな断言。


「どちらへ金が流れるかなど、

最初から決まっている」


老貴族が怒鳴る。


「貴様ァッ!」


だが。


クロードは全く動じなかった。


そして。


会議室中央で、

はっきりと言い切る。


「金は未来へ流れる」


沈黙。


誰も反論できなかった。


なぜなら。


現実にそうなっているからだ。


既に。


王都商会の半数以上が、

辺境経済圏へ接続済み。


物流。


投資。


人材。


全部が流れている。


王都側は止められない。


止めれば、

自分たちが先に死ぬ。


それほどまでに、

経済構造が変わってしまっていた。


その頃。


ノルディア辺境

中央駅では、

新しい商会看板が次々設置されていた。


ベルマン商会。


ルード商会。


フェルン物流。


国内有力企業が、

雪国へ集まり始める。


駅上階。


執務室。


エレノア・ヴァレンシュタイン

は静かに報告書を閉じた。


「移転完了率、

五十三%です」


シャルロッテ

が少し呆れた顔をする。


「本当に王都が空洞化し始めています」


エレノアは窓の外を見る。


雪の中。


列車が走る。


人が動く。


金が動く。


時代が動く。


そして彼女は、

静かに呟いた。


「市場は正直ですね」

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