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第29話 悪女宣伝

最初に広まったのは、

新聞だった。


ルクスバリア

王都中央広場。


朝。


新聞売りの少年たちが、

大声を張り上げている。


「号外! 号外!」


「辺境公爵令嬢、

国家転覆の疑い!」


通行人たちが足を止めた。


新聞一面には、

大きな見出し。


『悪役令嬢、

王国分裂を画策』


さらに記事は続く。


辺境私物化

独裁経済

危険思想

王家軽視


露骨だった。


まるで犯罪者扱い。


カフェでは貴族たちが笑っている。


「ああ、

やはり危険人物だったか」


「最初から冷血女だったしな」


「鉄道だの通貨だの、

やりすぎなんだよ」


王都上層部にとって、

これは都合が良かった。


今の辺境は危険だ。


そう民衆へ印象づければいい。


恐怖を煽れば、

支持は崩れる。


単純な話だった。


実際、

最初は効果があった。


市場でも人々がざわつく。


「辺境ってそんな危ないのか?」

「国家乗っ取る気なのか?」


誰も本当のことは知らない。


だから噂は広がる。


だが。


数日後。


空気が変わり始めた。


王都下層区の酒場。


新聞記事を読んでいた男が、

不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「馬鹿言え」


周囲が振り向いた。


男は元辺境労働者だった。


鉄道建設へ出稼ぎに行っていた男だ。


「俺、

ノルディア行ったぞ」


酒を置く。


「あそこ、

本当に仕事出るんだよ」


誰かが怪訝そうに聞く。


「でも危険思想家って……」


男は呆れた顔をした。


「危険?」


笑う。


「飢えてた俺たちを救ったぞ?」


酒場が静かになる。


別の女も口を開いた。


彼女は辺境の技術学校出身だった。


「読み書き教えてくれたの、

あの人だけだった」


「王都貴族は何もしてくれなかった」


さらに別の商人も頷く。


「商売も辺境の方が公平だ」


「王都みたいに賄賂いらねぇし」


少しずつ。


少しずつ。


新聞の“物語”が崩れ始める。


なぜなら。


実際に辺境を見た人間が増えていた。


物流。


鉄道。


仕事。


学校。


市場。


全部、

現実として存在している。


デマだけでは覆せない。


王都新聞社でも、

編集長が苛立っていた。


「何故支持が広がらん!?」


記者が困惑した顔で答える。


「辺境経験者の証言が……」


「実態と記事内容が食い違っています」


編集長が舌打ちする。


最悪だった。


普通なら、

民衆は簡単に流される。


だが今回は違う。


エレノアには、

“実績”がある。


結果を出してしまっている。


その強さは、

想像以上だった。


一方。


ノルディア辺境

領主館。


シャルロッテ

が新聞を机へ置く。


「随分好き放題書かれていますね」


記事には、

エレノアへの中傷が並んでいた。


だが。


本人はほとんど興味を示さない。


エレノア・ヴァレンシュタイン

は書類を読みながら言った。


「問題ありません」


「ですが世論が……」


「数字はどうです?」


シャルロッテが資料を確認する。


「物流量増加」

「移住者増加」

「投資額増加……です」


エレノアは小さく頷いた。


「なら問題ありません」


静かな声。


「人は言葉より、

利益で動きます」


その通りだった。


実際。


今この瞬間も。


辺境へ向かう商人の列は、

増え続けている。

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