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ジュピタル王国英雄奇譚  作者: ヤー子
第一章 出会いーバジリスク討伐編
5/14

バジリスク

バジリスク討伐編はこれで完結です。


「見ろ、この戦利品!」

ウラヌスの剣の中で、スカーレットは洞窟で集めた魔石や宝石をテーブルに出す。

「魔石はジェイドにやる、前はリゼにやってたんだ。魔法を使うやつがもつべきだし、余ったら売ればいい」

「へえ、いいのか?」

「ユズにはこれとこれとこれだな」

スカーレットは比較的大きなクリスタルとサファイヤをくれた。

「え、私、エメラルドがいい。」

「え?こっち?こっちのほうがでかくて綺麗だろ?」

「緑が好きなの」

ユズは小さなエメラルドをもらった。ならそれもやるから、それももらっとけ、お前の報酬だ、とスカーレットは言う。取り分を分けるのはリーダーの仕事だそうだ。倒した獲物も結構換金できそうだし、リスクーザに戻ったらまた集まろう、とニコニコと彼は笑う。

「・・・とはいえ、ここからが本番だろう」

深刻そうにジェイドはつぶやくように言う。目指してはいたが、いざ城にたどり着くと、いよいよだと感じざるをえない。

「俺も城に入るのは初めてだ。魔境には正直宝探し目的で入っていたからな。」

ラルフにリザを貶されてからは打倒バジリスクを目標に力をつけてきたつもりであるが、城に挑むにはやはり尻込みをしていたのが本当のところである。ヴェルミオンとリゼにいたっては、バジリスクの加護など、ここに住んでいれば必要ないという。彼らはここに移住するのだろう。スカーレットも移住するつもりだった。ここまで来たのはラルフへの当てつけと正直勢いだ。城まで行ったとあればバジリスクは倒さなくても自分の経歴には箔がつくのは確定だ。ここで、死なずに戻れるのなら。

「・・・一ついいだろうか。ここから先、一人もかけずにリスクーザへ戻る保証はできないだろう。俺が死んだら、そのことをリゼに伝えてもらえるか」

「・・・約束しよう。」

ジェイドは神妙に頷いた。

「お前らのことも聞いておく。」

「ユズを、死なせないようにしてほしい。俺の死体は持って帰ってほしい。」

「・・・わかった。」

ユズはぱちくりと瞬きをして、何も言えなかった。心臓がどきどきと高鳴っている。戦の前は興奮するのだ、と騎士が話していたことを思い出す。恐ろしい怪物が立ちはだかる魔の城へ明日は挑むことになる。武者震いなのか、ただ怖いだけなのか、それとも泳いで体の芯が冷えたのか、ユズにはわからなかった。

「じゃ!飲みますか!辛気臭いのは終わりだ、バジリスクの城で何がしたい?キメラとかもいるんだろう!俺のファイアタガーの実力を見せてやる!」

明るくスカーレットが言う。

「戦の前はカツ、だってな。リチョウの肉がまだあったからそれで作るか」

「ほらユズ、お前はジュースだ、ガキは酒は飲まんでいい」

スカーレットは自身にはビール、ユズにはオレンジジュースをついでやる。ジェイドもビールを片手にトラのカツを揚げる。サクサクに揚がったカツでカツサンドやカツ丼、卵とじというようなトラカツ料理がどんどん出来上がった。

「バジリスクに勝つ。グリフォンが絶対勝つ」

「聖獣が戦う、みたいなことになるのか・・・本当、どきどきしてきたわ」

「グリフォン?グリフォンはここにはいねえだろ」

スカーレットはグリフォンは中央の聖獣?だったかなーとうろ覚えの知識を引っ張り出した。

「ああ、ちゃんと名乗ってなかった、私は、ユズ・グリフォンだ。」

「・・・・はあ、グリフォンって姓なのか。それは、聖獣のグリフォンと関係あんの?」

スカーレットは首をかしげる。ジェイドはユズの説明を引き受けて続ける。

「聖獣グリフォンが加護を与えている血筋なんだよ。だから、そう、剣士の大会で優勝できるくらい飛びぬけて強い。」

パチクリとスカーレットはユズを見る。ジェイドはカツ揚げ第二弾にキッチンへ引きこもった。


スカーレットは目を細めて、ユズを鼻で笑った。

「なーるほどな!ヴェルミオンが負けるわけだ、詐欺してたってことか!」

「詐欺じゃない、グリフォンだって加護を与える人は選ぶ!」

ユズは膨れた。ユズが剣士の大会で優勝できたことは寝る間も惜しんで剣術や体術に明け暮れた成果なのだと信じたかった。はたから見れば、やはりユズはグリフォンから加護をもらっているから優勝できるし、魔獣討伐でも立ち回れる、というように見えるのだろうか、なんだかそれは納得が行かなかった。同じ加護をオニキスがもらってもオニキスはさすがとか、素晴らしいとか、グリフォンの血を引くだけある、みたいに賞賛されるのに。

「加護持ちだったのか、なら、大会に参加させるべきじゃねえよな、参加するにしたって、公表すべきだろ」

スカーレットはビールを一気飲みした。

「私は!加護なしの自分は最初からないんだよ!だから加護を含めて私の強さなんだ!」

それをユズから、取り上げることはできないのだ。生まれたとき、聖獣に祝福される、それがグリフォン家に生まれたもの定めである。ユズはいつでもグリフォンの加護とともにあった。それを詐欺だと、否定されるのは屈辱である。


加護があっても、ユズはアレクシスに挑んで、勝ったことはない。だから加護がある、なしに関わらず、剣技や体術の強さは個人の鍛錬の賜物であるとユズは思っている。ユズから加護を取ることはできない、だから加護のない自分を知らない、それを慮ることは不可能だった。最初から与えられているもの、の傲慢だと、言われてしまえばそれまでで、きっと持つ者と持たざる者、どうしても分かり合うことのできない境界線があるのだろう。

「考えてみろよ、お前がただの女だったなら、ヴェルミオンのファイアタガーを折るだなんて芸当はできねえだろ、それも含めてお前だっていうなら、お前の強さは全部グリフォンからの加護だってことだ」

「・・・ちがう、グリフォンはちゃんと・・・私の努力を認めて」

「ただの女は剣術なんてやらねえけどな。」

油でカツを揚げていて、事態を聞いてなかったジェイドが揚げたてのカツを持ってくる。

「また喧嘩かよ、いい加減にしろよ。本当に追い出すぞ」

ユズは握りこぶしをギュッと握った。ウラヌスの剣は扉を開ければ外に出れる。外に出たら、戻る術はない。またジェイドが連れ戻してくれない限り、外から中に入る方法はないのだ。

「明日は城に・・・ってユズ!」

ジェイドの声を無視して、テーブルを離れて、ユズは扉を開けて外に出る。外は夜が深まり、湖のせいなのか気温も低い。低いからこそ頬に熱を持っているのが分かった。剣の大会に出て、こんなことは自分の人生で起こりえないことで、ユズはただその憧れの場で剣を振ることが楽しかった。幼いころから、男児にのみ与えられる名誉だと、それを諦めてきた。いざ出場して、自分の実力を知って、通用すると思えた。それはだけど、実力ではない、ということになるのか・・・とスカーレットに言われたことを反芻する。

湖にあの星空が映り込んでいる。覗き込むとひどい顔をした自分も映った。

『ユズ、何を言われても、お前はグリフォンとともにあるべきだ、違うか?』

肩に乗ったミニグリフォンが湖に映り込んだ。

「わかってる、」

湖に水滴が落ちて、水面のユズの顔が波紋だつ。

「わかってる、調子に乗ったんだ」

『舞い上がるのは分かる、我も久しぶりに飛んでいる気持ちだ』

グリフォン自身が舞い上がっているとパタパタ飛び立ち、水面のユズの顔の上に止まる。湖面に四本足で浮いてたつグリフォンはユズを見上げる。

『お前が我を自由にしてくれる。気の向くままに剣を振っておくれ』

ミニグリフォンは光の粒子になって消えてしまう。


「どうした、怖くなったか?」

バサリとローブをかけられて、隣にジェイドが座った。明日はこのバジリスク辺境領に来てとうとう目的のバジリスク討伐という大一番になるだろうと思っている。城の中が思ったより迷宮で、二日三日出られないなんてことも予想はされる、それは入ってみてからでないとわからない。ユズでもそういうことに不安になったりするのだろうか、とジェイドはいつだって勇猛果敢に魔獣退治に勤しんでいた彼女を考える。普通の子女なら、もちろん恐れるだろうが。現にジェイドはバジリスクという伝説の怪物に対峙するのは恐ろしいと思うのだ。しかし、こんなところまで文句も言わず楽しそうに進んできたユズである。彼女でもバジリスクは恐ろしいのだろうか。

「ジェイドは、」

凛としたユズの声が空気の冴えた夜に響いた。ローブで隠れてしまって顔は見えなかったが、湖の向こう岸を見ているようだ。

「ジェイドは、グリフォンだから私を連れてきたでしょう・・・私で良かったのだろうかと思ったの。やはりオニキスの兄上が来ると言えば、それが妥当だったのだろうか。」

「・・・うーん・・・どうだろうな、お前の兄上は来てくれそうにはなかったぞ。それにお前を連れて行けと言ったのはグリフォンだ。グリフォンに選ばれたのはお前だろう。」

それは、誇るべきことだと思う、とジェイドはユズにならって星空を映す湖面を見た。

「初めて、会った時、お前に言ったことを覚えてるか?」

初めて会ったのがつい5日前だなんて、信じられないくらい、彼と過ごす日々が充実していたような気がする。もうずっと一緒に旅をしていたような感覚になる。

「俺はな、お前がグリフォンだからってのはあんまり考えたことはない。女でも戦えるなら戦うべきだ。戦う力が、あるのなら。」

ユズはそっとジェイドの横顔をのぞいた。冷たい風が頬を撫でる。

「俺の考え方は、この国にはあんまり受け入れられんのだろうな、でもお前は戦ってくれるんだろう、俺のために。」

「そうだね、剣を取るのに理由はいらないのか」

しいて理由をつけるならば、彼が好きだから、ぐらいで良いのではないか、とユズは思った。彼を助けてあげなさい、とグリフォンが言った。そうじゃなくて、ユズ自身が、ジェイドを助けたいとそう今は思っている。

「戦っているお前は楽しそうだしな。それを言ったら戦闘狂みたいだが」

ハハハとジェイドは笑った。今回は魔獣メインだが、この旅を続けていれば、またユズが人を相手に対峙することもあるだろう。彼女の剣は豪胆さも繊細さも兼ね備えている。そして、外に出て、剣を取ったばかりの彼女の精神はまだまだ未熟だとも思う。命のやり取りが当たり前の世界に、彼女を引っ張り出してしまった責任はだれあろうジェイドにある。その未熟さは自分が支えてやらねばなるまい。

「明日は早いんだ、戻るぞ。」

ユズの手を取れば、自分の手のほうが冷えていた。

「子ども体温かよ。」

「代謝がいいって言って。」


***


崖の上までは道があって、不思議と魔獣はでなかった。三人で城に足を踏み入れる。ギィ・・・と軋む音を立てて大きな門扉が開いた。中は手入れが行き届いた、今にも側仕えや侍女が出てきそうな城の内装に、スカーレットは驚いているし、ジェイドは幻覚か?とユズを見る。

「魔法、ではない、みたい。人が、住んでいるのか?」

ユズはジェイドに首を振って見せた。グリフォンの加護は魔法を無効化する。これが幻覚なら、ユズには違うように見えているはずである。

「・・・こんにちはー!誰かいませんかー!」

スカーレットが大きな声で叫んだ。声が反響するだけで、エントランスホールに何かが出てくる様子はない。

エントランスホールから、大広間はこちらへ来いと誘われているように扉が開いていた。ジェイドは一つ息を吐いて、進もう、と一歩踏み出した。ユズには鏡つきの盾を持たせて、件のイタチの尻尾はジェイドの分はスカーレットに着けてやった。スカーレットもリスクーザで鏡は買ってきた、とそれを盾代わりに歩を進めている。

大広間はダンスホールのように広々としていて、フロアは丁寧に磨き上げられており、塵一つ落ちていない。やはりこっちへ来い、というように奥の間の扉が開いている。

「罠なのか・・・」

「でも、進むしかねえだろ?二手に別れてみるか?」

スカーレットは勇敢だ。

「みんな一緒にジエンドの場合を考えてなかったな」

「死の光線が魔法なら、ユズには効かないはず・・・一応俺もグリフォンの加護はもらっているから、守ってはくれないだろうか」


考えれうる幸運な方の考察に希望を見出して、次の間を覗き込む。ここは、王座、と呼ばれる場所なのではないか。フロアは赤い絨毯張りになっていて、そして奥には階段があり、王様が座る椅子がある。そこに人が座っていた。銀色の髪、透き通った白い肌に空色の瞳、頭には王冠を被ったラルフ本人だった。ラルフ・バジリスク、それが彼の真実の名前だった。


「よく来たな、ジェイド・・・とその他虫けらども」

カチンと苛立つスカーレットを抑えて、ジェイドはラルフに向き合う。ラルフはユズを毛嫌いしていたけれど、スカーレットもその類なのだろうか、スカーレットの性別は男だけど、男でも全員好きというわけではないのか、とユズは見当違いに思考する。

「ラルフ、ここに、住んでいるのか??」

ジェイドは平常心で話しかけた。若干震えているから、装っているだけだろう。現に警戒してウラヌスの剣を前に出している。怖いなら後ろへ下がっていればいいのに、変なところで年長の責任感があるようだ。

「そうだな、ここは俺の城だ。」

会った時のように黒いマントではなく赤い上等な、それこそ王族が着用するようなマントを着て、服も紫色の王族然としていて、妙に似合っている。

「ん?どういうことだ、ここはバジリスクの城だろ、お前、加護もらったからって自分の城にしてんのか!傲慢だ傲慢だ人には言ってるが、お前が一番傲慢じゃねえかよ!」

スカーレットは噛みつくように言う。ラルフがスカーレットを鋭く睨めば、彼は口をつぐんだ。

「ゴミは黙っていろ、貴様をこの城に招いた覚えはない」

ラルフはジェイド以外の人間には興味も欠片もないようだ。ここが彼の城だというのなら、ユズは話しかけたって、スカーレットと同じような扱いなのは目に見えている。ここがバジリスクの城で、彼の城ということは答えは明確だ。彼はバジリスクを姓にもつ、ユズと同じ最初から加護を持つ者だったということだ。スカーレットには詐欺扱いされるが、最初から持つ者もそれだけ苦悩があるのだろうとユズはラルフを見つめた。ユズのことなど視界の端にも入れていないようだったが。

「レット、・・・ラルフがいつバジリスクの加護をもらったのか、わかるか」

「そうだな、・・・5年前に俺がここに来た時に騒がれてたから、5年前じゃねえの?」

スカーレットはそれを深く考えていないようだった。そしてこの領の住人はそれを当たり前と思い込んでいる。

「・・・みんな一様に、自分の来た時にラルフが賞賛され、ラルフが加護をもらったと思わされて(、、、、、)いる。」

ジェイドは聞き込みをして不思議だったのだ、老若男女、ラルフは加護をもらったと知っている。そして自分が町に来た時だと口をそろえて言うのだ。それが本当ならば、ラルフは年がら年中バジリスクを倒していることになる。もしくは、彼がバジリスクを姓に持つ末裔だ。しかしラルフはあくまで勇者に扮しているのが、引っかかる。

「リスクーザは多くの冒険者が移住を希望する・・・同時に一度出て行ったものは二度とバジリスク領には入れなくなるらしい。魔の森が拒絶するそうだ。」

しかしジェイドは一度ここへ聞き込みに来て、出て行った。そしてまたこの地へ踏み込むことができた。それができる人間はラルフには至極珍しかったのだろう。だから興味を示しているのだ。

「賢いな、ジェイド・・・なぜお前は二度この地へ来れたんだ。加護を集める者の建前なのか。」

つぶやくように、分析するようにラルフは言う。ジェイドに近づいたのもそれを知るのが目的だったようだ。そしてその目的はいまだ達成されていないために、ジェイドはここまで招かれた、ということなのだろう。図書館でうまく地図が見つかったのも魔物が倒しやすいようなものだったのも何もかも、ラルフの手の内にあるような恐ろしさを感じる。

「どういうことだ?確かに一度来たら、出て行こうとは思わないとこだけど」

「そうか?私は別に富とか名声に興味ないぞ。」

「優勝して嬉しそうだったじゃねえか、ヴェルミオンはあれが快感だって言ってたけどな、なんかここにずっといたいって思っちゃうんだよな」

ユズは考えて、やっぱりそういう執着のようなものはなかった。優勝も詐欺だと言われたから、もう大会なんて二度と出るか、とも思う。


「グリフォン・・・の加護を持っているからか?いや、あいつも二度はこの地までは来れなかったはずだな。加護は関係ないはずだ。俺の加護を与えても、ここに二度来ることはできない。ジェイド、お前は何者なのだ。」

前来た時と、今来た時の違いは確かにグリフォンの加護を持っているかいないかと考えることもできる。ジェイドは自分自身でもなぜ魔の森を通り抜けられたのかは分からない。人と違う点があるとすれば、自分は悪魔に呪われている、という点だろうか。

「前に来た俺と、今来た俺は、おそらく違うんだと思う。」

ジェイドはラルフに向かった。

「一回死んでいる、そのための死だったのかもしれない。」

ここにまた来るためには、あの死が必然だったということだ。ラルフはその回答に目を細める。そしてくつくつ笑い出す。彼の背後が黒い空間になった。

「なるほど、呪われた魂を持っているのか、それは、ずいぶんな手土産を持たされたものだな。」

ズリ・・・ズリ・・・と床を這う音がして、背後からそれはゆっくりと姿を現した。白銀に輝く鱗にサファイヤを埋め込んだような眼を持つ大蛇だ。優に20メートルはあろうか、その姿はいっそ神々しく、見る者を畏怖させる。

「これが、バジリスク・・・」

「こ、これが化身?、本体に見えるぞ!」

スカーレットは聞いてない、と言わんばかりに後ずさりする。

「話はわかった、これを倒せば加護をやろう。」

ラルフは笑う。

「・・・性悪男・・・、加護を持てば、バジリスクを自在に操れんのか!」

背後から、灼熱の業火が襲ってきて、ユズはスカーレットを蹴っ飛ばし、炎を薙ぎ払う。

「いってえ、くそ!ってキメラ!?」

キメラの背後からゴブリン、トロール、オークとランクが高い魔獣が王座の間に侵入してくる。

「・・・倒しがいがあるな、」

スカーレットもファイアタガーを抜く。バジリスクはどうやら、ジェイドに狙いを定めているようだ。ユズとスカーレットでこの魔獣たちをなんとかしなければいけないだろう。「お前と共同戦線なんてな、詐欺女」

「詐欺でもなんでも使って、やるしかないだろ!」

ユズはキメラに向かっていく。ライオンの頭、ヤギの胴体、そして蛇の尾を持つ最高ランクの魔物だ。ライオンは火を吹くし、その火は獲物を燃やしきるまで消えない悪魔の火である。蛇の尾も厄介で毒蛇に噛まれれば致死量の毒が体中に回る。ユズは毒消しの液体をあおって、その苦みに顔を顰めた。

ブン!とトロールが棍棒を振り回して、威力に床が破壊された。トロールはスカーレットに任せ、キメラに集中する。キメラは目から光線を出した。鏡でそれを跳ね返せば、キメラの後ろにいたゴブリンが石化した。石化させる光線はバジリスクだけじゃない。この魔物もラルフが操っているなら、石化光線はみんな使えるのかもしれない。先手必勝で、ユズは飛んだ。敵が繰り出す石化の光線も利用して、敵を一掃する。ユズは動体視力がいいのか、光線は予想できた。キメラの尻尾を切り落として後ろのゴブリンを数体切り倒し、ライオンのあたま目掛けて剣を振り下ろすことに躊躇はしない。かぶりと切り落としてもユズのブーツにかみついた蛇は振り払った勢いでトロールに激突して、とトロールはバランスを崩して床にしりもちをついた。そこをスカーレットは逃さずにヘルファイアという技を繰り出した。キメラの吐く炎と似たような技らしい。

倒しても、魔物は沸いて出てくる。全部幻影なのかもしれない。


「ラルフを倒さんと、止まらないのだろう」

ユズは倒すべき相手は王座に鎮座して面白そうに戦況を見ている男なのだと確信した。まずはあそこから引きずりだす・・・。落ちていたトロールのこん棒は2メートルはあるだろうか、それを持ち上げて、やり投げよろしく王座まで飛ばしたのだった。


ジェイドはバジリスクと対峙した。自身に息をしなくてもいい魔法をかけて、鏡の面となるウラヌスの剣をしっかり胸の前にもつ。やはりバジリスクも知恵がついているのか、うかつに死の光線は出してこないようだ。バジリスクが威嚇の咆哮にその口を開けば、鋭利な牙をむき出しにする。このでかさにどうやって太刀打ちしろというのか、聖獣相手に攻撃魔法は効ないが、化身になら効くのか、もう考えている場合もない。蛇は元来視力が悪く、匂いや熱で個体を判別している。ジェイドはイタチの体臭で作ったスプレーをそこら中にばら撒くことにした。鼻を麻痺させるのが常套である。しかし、悪手だったのか、バジリスクは暴れ、尻尾がジェイドの頭すれすれを通過した。とっさにしゃがんで交わしたが、威力は凄まじく、壁を当たり前のように破壊している。当たれば致命傷だったかもしれない。冷汗が流れる。ユズやスカーレットを気にする余裕はもはやなかった。

「イタチはもはや恐れる対象ではない。匂いがつけば逆に襲われるぞ」

シャー!とバジリスクがジェイドを食らいつくそうと頭が向かってきた、考えろ、思考を止めるな、弱点はなんだった、ガッと牙を剣を受け止めても威力は殺せず、このままじゃ壁に埋め込まれてしまう。牙が、剣で折れてそのまま大蛇の口の中に入ってしまう。


果たして、トロールのこん棒は飛んできた。王座には届かず、バジリスクの胸に直撃し、蛇は飲み込もうとしたジェイドを吐き出して倒れる。

「な、おま、おまえ人間かよ!」

スカーレットが目をむいてユズを見た。ユズはくそ、ラルフに当たらんかった、と舌打ちをする。結果ジェイドが助かったのはさておき、蛇はのろのろ起き上がり、ユズに狙いを定めて毒の息を吐く。それを搔い潜って、ユズはバジリスクの尾から背、そして頭に駆け上り、頭上から剣を突き刺した。そして引き抜けば、大蛇の頭から大量の血が噴き出す。

「ラルフ!お前が私と勝負をしろ!」

ラルフは同じような高さからユズに言われて、徐に立ち上がった。化身が消えて、ユズはジェイドの隣に着地した。

「殺すぞ、小娘」

ラルフが低くうなる。

「ユズ、俺たちは、思い違いをしているのかもしれない」

ジェイドは何を悟ったのか、ユズを後ろに下がらせる。

「ユズ!やったな、バジリスクを倒した!加護がもらえるぞ!」

スカーレットは浮足立ってやってきた。バジリスクがいなくなったら、魔物もすべて消え失せたらしい。


―バジリスクを倒せば、バジリスクの加護をもらえる、冒険者にとってこの挑戦を達成することは名誉あることで、ここ数年はラルフしかその栄誉を得たものはいない―ラルフが栄誉を得た正式な年月日は不明である―彼はバジリスクの姓を持ち、この城に住んで、バジリスクを使役することができる―

「ラルフ、お前・・・」


「俺に挑むか、グリフォンの姫。よかろう、我が名はバジリスク。小娘、理解できるのか?俺が、バジリスクなのだ」


ラルフ自体が、バジリスク本体だという。どう見ても人間に見えるのはそう擬態しているからだ。


「ま、待て、化身を倒したら加護はもらえる約束だ!ラルフ本人が出てこなくてもいいだろ。」

「そういうなジェイド、グリフォンとは因縁があるのだ。それにお前のその呪われた魂・・・知っているか、聖獣にとって悪魔は大好物でな。本当はこの小娘よりもお前を食いたいぐらいだよ。」

「俺は食われるために呪われてる、欲しけりゃくれてやる!」

「言っただろ、グリフォンとは因縁がある、千年前の雪辱を果たす」

ラルフは美しい碧眼でユズを憎悪するように見つめた。千年前はユズは生まれていないのに、それは先祖で話をつけておけと言いたい。

「ラルフは千年生きてるの?」

ユズは純粋に驚いている。

「わからん、聖獣が何歳かだなんて・・・・」

ラルフはハンデとして、ユズの得意な剣で勝負をしてくれるという。ということはラルフという人間に擬したままで戦うということだ。バジリスクの毒牙や、死の石化光線が繰り出ないあたり、ジェイドはほっとした。

スカーレットはラルフの剣の腕を知っているから、ユズはグリフォンの加護があっても、彼には太刀打ちできないだろうと零した。剣士大会にラルフが出たときヴェルミオンは瞬殺だった。そのヴェルミオンといい勝負をしていたくらいのユズでは話にならないのだ。そんなことを言うスカーレットはラルフにとって代わってバジリスク領を統治したいなんて野望があるのではなかったのか、今の話を聞けば、取って代わるなんて土台無理である。

「どちらかが死ぬまでだ。」

「望むところだ」

そんな勝負を頼むからしないでくれ、とジェイドは願わずにはいられなかった。グリフォン、グリフォン、ユズを助けて・・・とひたすら念じる。

『いつもユズを心配してばかりだ、大丈夫、ユズは強いよ』

ジェイドの肩にミニグリフォンが乗っていた。


ユズは踏み込んだ。剣が交わり、ラルフが薙ぎ払う。グリフォンの緑とバジリスクの紫のオーラがぶつかり合う。ユズの剣はラルフが予想した以上には重かった。あのトロールのこん棒をぶん投げた腕力は見間違いではなさそうだ。素早さもある、剣の才能はあるのだろう。今、その才能の塊、まだ自分の寿命のうち百分の一も生きていないような小娘の命を摘もうとしているのか・・・とラルフは剣を受けては突き返した。この剣の刃の切っ先が少しでも掠ったら、人間の小娘は毒で死ぬだろう。自分を裏切ったあのグリフォンの子孫なら、なるべく惨たらしく殺してやろうと考えていた。

ユズは少しの毒を受けても、あまり弱っているように見えなかった。グリフォンが乗り移っているかのように太刀は重く、猛攻だった。受けてばかりでは身が持たないとラルフも攻撃に転じる。ラルフの剣はエストックだ。加護で折れないようにはしているが、ユズの持っているブロードソードに比べれば、分が悪い。突き技を彼女は下がって交わした。かすかに切っ先は彼女の頬をかする。別にラルフは一撃当てようとは思っておらず、少しでも剣の毒が彼女に掠れば、もう勝てるのだから焦ってもいなかった。毒が回るのも時間の問題である。

相手は人間だ、少しでも体力が落ちれば、すぐに隙ができる。じわじわと嬲るのがいい。あいつの子孫を殺せる、奇しくも女を。そう思うだけでラルフは高揚した。激しく剣同士がぶつかり合って、近くに来た、ユズの目を見る。ラルフは美しい碧眼を蛇の目に代えた。ユズは咄嗟に目をつぶる。

クックドゥルルル、と突然雌鶏の声が響いた。それを聞いたラルフは胸を抑えて崩れ落ちる。それは明らかな好機だ。ユズは逃さず剣を叩き落として、ラルフに突き付けた。受けた毒でずきずきと頬がうずく、意識も朦朧としてきた。

「・・・小癪な、コカトリスを連れ込んでいたかっ!」

連れ込んだわけではない、ずっとあの鳥はユズとジェイドについてくるだけだ。ラルフはとうとう目から光線を出した。それをすれすれで交わす。油断した、どちらかがどちらかを殺すまでが決着だ。青い翼のコカトリスは光線に当てられ、石化して地面に落ち、砕け散った。

ガッとラルフの手がユズの首にかかって、もはや床とは言えないボロボロのフロアにユズを叩きつけた。

ユズは決死の抵抗で、ラルフの首に剣を充てる。彼の首にもセレスの剣が食い込む。

「終わりだ、死ね」

彼の目が光る。首を落とせば、勝てる。ユズは力を込めた。


光って光線が出る、と思ったらラルフの目は碧眼に戻り、大粒の涙が零れ落ちてユズの頬にバタバタと零れ落ちた。首を絞める力も緩んで、ユズはそのまま剣を薙ぎ払う。ラルフの首がばたりと落ちてなお、涙を流している。

「セレス、ここに来ていたのか・・・」

首のままでラルフはうわ言を言った。


「ユズ!」

ジェイドが駆け寄って、治癒魔法をかける。毒の回りが遅くなって、止まって、浄化していった。

「いきなり、力が緩んでっ、私、負けたかと」

ユズは呼吸を乱してラルフを見た。ラルフの体は倒れていたが、手が蛇になって、首を探していた。ジェイドはとっさにラルフの頭をとって、胴体を蹴飛ばした。

「負けを認めてやる。身体に頭をもどせ」

こうしてみれば、ラルフはやはり人間ではないのだ、と一同は納得せざるを得なかった。


***


「その剣を見せてくれるか、グリフォンの姫」

首も胴体もすっかりくっついて元通りのラルフはユズに言う。ユズは自分の武器がなくなるのは、少し心もとないが、剣を鞘に納めてラルフに差し出した。

「イタチの尻尾はとってくれ」

例の鼻白む表情で、ラルフはすごんだ。やはりイタチは苦手らしい。

「・・・この・・・この剣はどこに・・・グリフォンにあったのか」

美しい碧眼を目いっぱい開いて、ラルフは問う。ユズは首を振る。

「ギルドの町で、鍛冶屋さんからもらった」

「グリフォンの剣だからグリフォンの血縁ならやるって、タダでもらった」

ジェイドは付け加えた。

「・・・そうか・・・・そうか、セレスは、」

この剣にはまだラルフが与えた加護が残っているようにも感じた。そんなはずはない、もう千年も前のことなのだから。セレスは加護を使ってしまったはずだ。だから魔の森を抜けて、ラルフのもとへ来ることはできなかった。だけど来られる一番近くまでは来てくれていたのだろう。


「セレスって、知り合いなのか?」

ユズはこの剣をセレスの剣と呼んでいる。

「・・・セレスには千年前に加護をやった。集めるのだと、あいつも言っていた。」

ジェイドはやはりラルフは知っているのではないかと思った。加護を集めた後、何ができるのか。それこそグリフォンも知っていて、知っているが教えてはいけない決まりのようなものがあるのだろうか。

「どうしてセレスは、加護を集めてたんだ。」

ジェイドは独り言のようにつぶやいた。

「・・・どうして・・・だったのだろうか、俺には分からん。人間の考えることは総じて分からぬ。」

「セレスはラルフの恋人なの?」

ユズはラルフに直球を投げた。それは普通は空気を読んで聞いてはいけないことなのではないか、とジェイドは思うのだ。スカーレットにいたっては、城のあちこちにある財宝を袋に詰め込んでいる、城の主が目の前にいるのにただの泥棒である。

「この俺が人間などと番になることは悍ましくあり得ないことだろう、吐き気がする、二度と口を開くな、小娘」

ラルフは通常運転で毒舌を浴びせる。

「セレスがすべて終わればまた俺に会いに来ると約束したのだ。俺は領地から出られん。出られるとすれば加護が集まった時だ。セレスから召集はかからなかった。きっと途中で坐したのだろうな・・・。ジェイド、加護を集めて、すべてが終われば・・・お前はまたこの地へ来ると約束できるか?」

その問いは、きっとラルフが加護を与えるときにみんなに聞くのだろう。出ていけば二度と来られないらしい魔の森に囲まれた地へ。

「・・・ああ、そうだな、そのころにはまた死んでるはずだから・・・きっと来ると約束しよう」

加護をもらったものはバジリスク領から出ていく。そのあと総じて不運な死に見舞われる。ラルフが直接かかわっているわけでもないのに、彼は責任を感じているのだろうか。人間のことなど、どうでもいいという割には、優しい聖獣なのかもしれない。ラルフがウラヌスの剣に触る。その真っ白い指先から血を吸うように、ウラヌスの剣が光った。剣の紫色に輝くアレキサンドライトがバジリスクの形に変わる。

「人間との約束など、守られたことはないがな。」

諦めたように儚く笑うラルフはいつも美しいけれど、ユズにはなんだか切実そうに見えて、胸が締め付けられる苦しさを感じた。


「俺には!?ラルフ、俺には加護はないのか!?」

「たわけを申すな、貴様はついてきただけで化身も倒してないだろ」

「化身倒したのはジェイドじゃなくてユズだろうが!」

やいのやいのスカーレットは言っていたが、貴様はおこぼれで城に来ただけだが、しょうがないから称号を与える、というのでそれで当面暮らせるらしく、満足したようだ。


「次はどこへ行く?」

「ドラゴン領だ」

ジェイドは答える。

「ジェイド、行く前に魂を一つ置いて行かぬか。悪魔の呪いを食える機会は最近はなくてだな」

もはやラルフにはジェイドはごちそうに見えるらしい。魂もやはり四つに見えるそうだ。

「勘弁してくれ、まだ旅の序盤なんだぞ・・・ラルフ、さっき加護を集めたらお前はここを出れるって言ったな。」

「招集が、かかればな。」

「加護を集めた俺ができることは言えないが、お前ができることは言えるんだな?」

ラルフは加護を与えたもののところへの呼び出しに応じることができる。それを逆に読み解けば、加護を集めれば、その場に聖獣を召喚できる・・・確かにさっきグリフォンに祈ったら、ミニグリフォンが出てきた。信憑性は高そうだ。

しかし、聖獣を召喚して、あの悪魔は何をさせたいのか、聖獣は悪魔が好物だというし、逆に食われるのでは・・・それは悪魔から国を守りたいジェイドにとっては都合のいい展開である。ならばやはり集めて持っていくべきなのだろう。だけど、それを悪魔自体がジェイドに求めているというのが腑に落ちない。何か別の目的があるのではないか。それを知ることができれば、こちらに有利に交渉できるのに、分からないことがもどかしい。時間は待ってはくれない。

「わかった。その召喚したときに命が複数残ってるなら、お前にくれてやる。ついでに悪魔も食ってくれて構わないからな。」

「・・・加護を全部集めるなんて、世迷いごとだよ、ジェイド。つぶれない程度に達者でやれ」

ラルフはそう労って、城からバジリスク領のゲート、ギルドの町にユズとジェイドとスカーレットを送った。


***


「って!俺はリスクーザで良くねえか!?」

バジリスク領を出ていく予定はないスカーレットをここまで戻したのは、城からいろんな宝をせしめた彼へのラルフの腹いせである。三人は顔を見合わせて、騒ぎ立てるスカーレットをユズが笑って、そしたらなんだかスカーレットもおかしくなってきて笑った。

もう夕刻というので、ギルドの酒屋に入って、酒を酌み交わす。ユズはやっぱりオレンジジュースだった。

「お!お嬢ちゃん!」

鍛冶屋の主人がいて、声をかけられる。

「どうだ、剣の使い心地は」

「聞いて、私、大会で優勝したの!」

「本当か、嬢ちゃんすげえ腕じゃねえか!どれ、おじちゃんが奢ってやる、何飲んでんだ、ジュースか!」

「まだ未成年なんだよ、飲ませんでくれ」

「・・・兄ちゃん、未成年の嫁って犯罪だろうが。可愛いけどな、嬢ちゃんはやっぱり悪い男に捕まっちまったんだな!」

そこだけ切り取らんでくれ!とジェイドは周りの男たちの白い目に居たたまれなくなる。スカーレットがなんだやぱりできてんのかよ!と騒ぐから彼の口にフランスパンを一本突っ込んで黙らせた。

「ふふ、ジェイドは面倒見てくれるから、悪くはないよ。私が付いてきているようなものだし。」

「なんだこっちがぞっこんかよ、女は惚れるより惚れられた方が幸せだぜ?」

人生の先輩はそんなことを言う。ユズにはだけどまだ腫れた惚れたはよくわからない。剣士大会で戦った顔見知りもいた。

「おいおいおい嬢ちゃん!嬢ちゃんもすごかったけどな、昨日またユーピテルから来た新星(ルーキー)が剣士大会で優勝していったのよ!」

ユズに大量ベッドして大量に儲けた男が興奮気味に言う。

「ユーピテルの騎士ってだけで箔が付くもんな!すっげえ男前の兄ちゃんでさ。」

「・・・ユーピテルの・・・騎士・・・」

ユズは既視感を覚えた。あの別れ方で、兄やアレクシスがユズを連れ戻しに探しに来ないはずがない。だってジェイドは行き先を言った。

「・・・その騎士は、黒髪だった?」

男は頷く、すっげえ強かった、ヴェルミオンなんてまた剣折られてたぞ、と余計な情報までくれた。


「ど、どうしようジェイド!追手が来てる、はやく出発しなきゃ!」

ユズは酒盛りに興じているジェイドを引っ張る。

「はあ?今日は宿とって休もうぜ、お前も毒受けてんだから、一応安静にして」

「アレクに見つかったらどうするんだ!私は、ユーピテルに戻りたくなんかない!」

バタン!と酒場の扉が開いた。みんな一斉にそちらを向いた。

「ほら、嬢ちゃん、あいつだよ。知り合いか?」

知り合いも何も確かめる余裕はもうユズにはない。

「ジェイド!」

「・・・・聖騎士は苦手なんだよ、普通の騎士ならまだしも!」

ジェイドはユズの手に引かれるように裏口へ走った。

「レット!支払いは頼む!」

「ええええ、お前ら戦利品の山分けは!?」

「全部やる!お手柄だった!スカーレットはバジリスクの城まで行ったぞー!」

ジェイドは叫んだ。酒場の全員はどよめいて、スカーレットを囲んだ。バジリスクの城に行くだなんて、そして生きて帰ってくるだなんてそれはもうすごいことなのだ。酒屋の裏口から出て、ギルドの町の門まで走る。もう二度とこの地に足を踏み入れることはないのかもしれない。この町に来たときのあの感動をユズは思い出す。感傷に浸っている場合ではない。だけど、走馬灯のようにジェイドと買い物をしたこと、鍛冶屋で剣をもらったこと、食堂にいったこと、剣士の大会、初めてしたこと、かかわった人たちが頭に浮かんできた。

私の知らない世界が、ジュピタルにも確かにあった。私は望んで、ジェイドについていくのだ。ユズは強く思って、ジェイドの手を握る。

ギュッと握り返され、ぐっと引っ張られる。意識してなかったからユズはつんのめり、重力に従って引き返された。


「誰かいる」

ジェイドはユズを後ろに隠して、剣を取る。

「・・・そんなに急いでどこへ行くんだ、もう日は暮れた。街を出るのは得策じゃねえ、そうだろ、ユズ」

アレクシスが立っていた。


ジェイドは悪魔に呪われているから、聖騎士とは相性が悪いのだ。魔法も効かないし、剣の腕がそんなに立たないジェイドにはどう考えても分が悪い。しかも彼はグリフォンから念願の加護をもらわなかったか。そんなのユズを見ていたらジェイドに勝ち目などない。戦わない方法があるなら戦うべきではない相手である。


「やっと見つけた。ここで張ってて良かった。」

アレクシスは安堵のため息をついた。

「逃避行は楽しかったかよ。」

そしてやっぱり怒っているようだ。ピリピリとした殺気のようなものを感じて、ジェイドは後ずさる。彼はユズしか見ていないし、その怒りを向ける対象も彼女のようだった。

距離が近すぎて、ウラヌスの剣を発動させてもこの場合アレクシスも部屋に入れてしまうことになる。しかし、まだギルド内にいるから、ウラヌスの剣の中には入れない。安全な場所があるなら、そこで休め、と今ばかりはいらない気遣いをする不思議な剣である。この状況は、安全とは言えないのではないか、と問うてみても、剣は反応しない。ジェイドは剣をユズに渡して、両手をあげて降参の意を示した。万事休す。

「・・・・話をしよう。彼女は俺が誘拐した。まだ、返すわけにはいかない」

ギロリとアレクシスは怒りの矛先をジェイドに向ける。ジェイドはラルフに睨まれることはなかったが、整った顔立ちの人物が凄むともうそれだけで腰が立たなくなるくらいには恐ろしいと思った。ラルフはラルフで人間ではないから睨んだだけで生き物を殺す能力も実際はあるのだが、聖獣らしく人を守る、というところもあったようには思う。彼とて、丸腰のジェイドをまさか切り倒しはしないのではないのだろうか。ユーピテルの聖騎士とは、悪しきを挫き、弱きを守ることに重きを置いていると聞いたことがある。

「・・・へえ、いつ返却予定か、聞いても。」

声は冷淡だ、全く温度を感じない。

「・・・そうだな、彼女が、帰りたいとき、でどうだろうか。」

ユズはジェイドの後ろで、ギュウっと彼のローブを掴む。

「ユズと二人で話をさせてくれないか。」

アレクシスは簡潔に言った。

「わかった、向こうにいる。」

ジェイドはユズを向く。常時勇敢な彼女は、どうしてか、震えていた。この人物は彼女にとっては恐れるに値する人物なのだろう。そういえば、あのデビュタントの会場から彼女を連れ出すときも、彼女は彼から逃げたいように見えた。

「ユズ、大丈夫だ。」

「お、置いて行かないで」

「置いて行ったりしない、向こうで待ってる」

「あなたについて行かせて。私は役に立ちたいの」

ギュウっと型になるほどユズはジェイドのローブを握りしめている。

「あの男を説得できるか、決別するのか、お前がちゃんと話をしないと納得せんだろう、あいつも別に俺たちとイタチごっこをしたいわけじゃないと思うんだ」

彼女の頭はジェイドの胸のあたりにあって、それを撫でてやる。言われて、ユズは納得はできた。だけどアレクシスと面と向かってしっかり話ができるかどうかは別問題だと思うのだ。昔から彼に勝ったことなんて一度もない。ユズは口下手なのだ、剣でも口でも丸め込まれるのは目に見えている。

「大丈夫だから。あっちで待ってる。」

ユズは観念したようにジェイドのローブを離した。ジェイドが行ってしまえば、ユズは心細くて、うつむいたままアレクシスのほうなんて見れなかった。ユズはこれからのことなんて全く考えていない。ジェイドがここへ行くと言ったところへついて行くだけだ。ジェイドの旅が全部終わったら・・・ユズはユーピテルへ帰るのだろうか。ずっとついては、いけないのだろうか。あのとき、ユズは、あのまま家には帰れない、と思ってジェイドの手を取ったのだ。後悔はない、堂々としていれば良い、だけどアレクシスの顔を見ることができない。約束を・・・破ったから。こんな格好をして、こんな髪の毛で、アレクシスの望む令嬢には、なれていない。

「ユズ」

声色は幾分か剣呑さが和らいでいた。彼が近づいてくる。ウラヌスの剣を持たされたままで、ユズは後ずさった。逃がさない、とアレクシスはユズの手首を掴んだ。剣がからんと下に落ちた。

やっと触れることができた彼女をアレクシスはすぐに腕の中に閉じ込める。もう離さない、離してやるものか、と腕の中のぬくもりに心底安心する。


「心配、かけやがって、どうしてお前はいつもそう・・・」

アレクシスの抱擁は暖かくて、苦しくて、そして懐かしかった。ユズは自分が生きて彼に会えたのだと実感したら、とたん涙が出てきた。どうして彼に会いづらいと感じていたのだろう、こんなに心労をかけて、とんだ不孝者だ。

「ごめん、ごめんね、アレク・・・」

だけど彼の望む姿になれなかった自分を、ユズは彼に見せるのがどうしたって辛かった。この結果に、後悔はないはずなのに、彼に対してだけは申し訳なさが否めないのだ。

「もういい、いいんだ。無事でよかった」

アレクシスはユズを抱きしめた、髪を撫でて、近距離で目を合わせる。やっと目が合った。アレクシスが大人になったようにユズも年を取った。いつも模擬剣を持って自分についてきていた小さいユズの面影はあるけれど、睫毛も伸びて、頬もすっきりして、肌艶もよくなって、あと一年で成人だというのだから、時の流れを切に感じた。

「頼むから・・・俺の知らないところに行くのはやめてくれ。」

いっそ苦しさを交えた声がユズの耳たぶをうつ。

「それと、他の男と二人だけで行くのは、金輪際許可できない。」

アレクシスは厳しく付け加える。

「でも、でもジェイドを助けなきゃいけない!グリフォンがそういったし、私が助けたいの!」

ユズは報いた。落ち着けるようにアレクシスはゆっくり話した。


「わかってる。今更止められるとはもはや思ってない。俺を、連れていけ、それが条件だ。」

ユズは面食らった。あっけなく、懸念していたことが解決した。アレクシスは追手で、ユズを連れ戻しに来たのだと、ユズはそう思い込んでいた。追いかけてきたのは、合流するためだったのだ。力が抜けた。パチクリと瞬きを繰り返す。

「あ、アレクが一緒に来るの」

「・・・不満か、大体それに関していえばかなり説教をしなければならないところがあるんだが、今から聞くか、朝になるぞ。まず「いい!わかった、ジェイドに聞いてくる!」

ユズはアレクシスを遮って、ジェイドのほうへ走った。アレクシスはため息をつきながらその背をゆっくり追いかけた。落ちていた剣も拾って。


ユズ・グリフォン(15)

グリフォン侯爵家第三子。れきとした侯爵令嬢だが、はねっかえりが過ぎて家族や使用人に心配をかけている。グリフォンは兄弟姉妹の中ではユズ推し。剣術や体術が得意で、考え方は男前。悪しきを挫き、弱きを守る騎士道や、勇敢な英雄に憧れている。理想像はアレクシスみたいになりたい。口下手で少しポンコツ。純粋で素直なので愛されやすい。緑色が好き。


ジェイド・ウラヌスタリア(20)

ウラヌスタリア王国の王弟。ちなみに第三子。悪魔に魂が呪われているため死んでも生き返られる。あと4回。国を救うためにジュピタル王国で加護を集めることになる。王弟なのにソロキャンプが趣味で料理もプロ並。温厚な性格で、社交的で調べ物も得意。ユズはなんでも教えてくれるしなんでも知ってるしお世話してくれる人という認識。


アレクシス・アンダーソン(18)

容姿がとにかく端麗。しかし不機嫌がデフォルト。常識人で礼儀などには口うるさい。面倒見が良く、一度懐に入れた人間にはとにかく尽くすタイプ。剣術も体術も加護なしでも加護ありのユズにも負けない腕っぷし。有能なのでどこからも誰からも求められる。オニキスには振り回されるけど、ユズの兄ならしょうがない。味方であれば心強い限り。口が悪い。ツンデレ属性ではあるがデレはない。


ラルフ

バジリスク。聖獣。年齢は不詳。基本人間は嫌いだが、守るべき対象ではあるとも思う。自分の領が栄えていれば良い。去るもの追わず来るもの拒まず。加護を与えたものはまた来て語り合いたい。が、魔の森に阻まれる。2回来たジェイドに興味津々。3回目もちょっと期待。セレスとのことはおいおい。


スカーレット

モブ担当。気前の良いやつ。マルスの国からバジリスクドリームのため妹と入国。ヴェルミオンにコテンパンにされ、妹も奪われる不憫な経歴がある。


オニキス(25)

いざというときは頼れる兄。なんとなくぽわぽわしている父親より妹たちを溺愛している。家族との時間をとるために、王都にいたいし、できれば家にいたい。軍事の仕事はできるし、実際腕も立つ。グリフォンのおかげ。敵は完膚なきまでに叩くのが信条。今はやる気がないが、そのうち活躍する。うちに情熱を秘めているタイプ。

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