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ジュピタル王国英雄奇譚  作者: ヤー子
第一章 出会いーバジリスク討伐編
4/14

魔境へ


翌朝は宿の朝食を取った。ジェイドのものと違った味付けで、ジェイドはこれはシーザードレッシングとサウザントを混ぜたのか・・・なんて人の料理を分析している。彼の感性はユズにとっては新鮮だった。


ユズのローブが破れていたのをジェイドは繕ってくれ、何でもできる男なのだな、と感心する。食料や、必要になるものを買い足して、奥の魔の森、人呼んで魔境に足を踏み入れた。なるほど、正面の魔の森よりもゴブリンへの遭遇率も高ければ、グリズリー型の魔獣やウェアウルフも普通に出てくる。しかし剣士大会優勝のユズの敵ではなかった。

「そうだ、ユズ、イタチの尻尾をつけろ」

バジリスク除けなのかなんなのか、効果があるのかもわからないそれをジェイドはユズの剣の鞘に括り付けた。バジリスクに効きそうな魔除けは全部持ってきている。


バジリスクは毒蛇の王と呼ばれる。ジュピタル王国では聖獣であるが、他の国からしたら怪獣、魔獣の類と並ぶ邪悪なる存在である。その牙で穿たれたものに死を回避するすべはなく、目から出る光線に当たれば石化、即死だ。文献によれば雌鶏の鳴き声、イタチの体臭を恐れるらしいが、そのような怪獣相手にどれだけ有効なのかは知らない。文献自体もだいぶ前のものだし、ラルフ曰くバジリスクは誰にも倒されない間に進化しているらしい。グリフォンのあの大きさを見てしまったら、バジリスクも化身とはいえ、相当な大きさだと想像はしている。果たして生きて帰れるのか、ジェイドはこれからのことをユズと話しておかねばならないと感じた。

「ユズ、もしバジリスクにやられたら、一応毒消しと石化を解く魔法は習得してはいるが、この魔法はお前にしか使えない。俺がやられたら、ウラヌスの剣を持って俺と一緒に逃げられるか」

ウラヌスの剣を持てば死んだジェイドは石ころの重さになるらしい。ユズはジェイドからもらったヤマモモを食べながら頷く。

「倒さなきゃ加護はもらえないんだろ、刺し違えてもやるしかない」

「お前が勇敢なのは嬉しいんだが、刺し違えないでくれ、頼むから。」

勇敢と無謀とは紙一重だとどこかの哲学者が言っていた。外に飛び出したばかりのこのグリフォンの姫は嬉しさからなのか、それとも無知なのかとても危ういところがある。グリフォンから預かったといえる彼女を間違えても殺すわけにはいかない。一人旅と違って、戦力はかなり増したのだが、守るべきものが増えるということは動きにくくはなるものだ。だけど自分一人でこんな魔境へ挑めるかと聞かれればジェイドは無理だった。ソロキャンプを始めた時だって最初は海辺のカニにでさえ怯えていたのだ。元来臆病な自分の性格では、ユズぐらいの破天荒な人間がそばにいない限り、魔の森の入口にさえ立っていないだろう。ここからはジェイドも踏み込んだことはない、魔の森の奥、魔境である。


ガサリと物音がして、そちらを見る。ユズはジェイドの前に出て剣を構える。

「お、ユニコーンだ」

「わー!初めて見た」

魔境には人を襲う危険な魔獣だけではなく、このように希少な聖獣もいるらしい。悪い人間はユニコーンもとらえて金にするらしいけど、そんなことすれば呪いがかかる。そういう人間は総じて魔の森から拒絶され、一生さ迷い歩くことになるのだとうわさで聞いたことがある。真っ白な葦毛に鬣は虹色で、目の色も美しいアメジストの美しい一角獣だった。ユニコーンは純潔の乙女を好むといわれている。事実ユニコーンはユズに友好的で、ジェイドには歯をむいて威嚇をした。なんだかここらを統治しているラルフとは似つかない好みだな、とユズとジェイドは顔を見合わせて笑った。ユニコーンについていくと、魔草の群棲があった。

「この魔草には、毒消しの効果がある。せっかくだから摘ませてもらおう。」

ユニコーンはここに生息しているのか魔境でも日当たりがあり、何頭かユズたちの様子をうかがっているものがいた。昼飯だ、とジェイドはおにぎりと弁当を出した。こうしてピクニックのように肩を並べていると、とても魔境にいるようには思えない。

「あ、見て、青いトサカの鳥」

ユズがさす鳥は鶏の頭で青い翼と青いトサカを持って、鶏なのに空を飛んでいた。

「・・・・やっぱあれはコカトリスなのか??小さくねえか??」

コカトリスはバジリスクと対で語られる鶏の怪物だ。バジリスクと同じように睨むだけで相手を石化させる能力を持つという。

「うちのミニグリフォンみたいなものかねえ、いざというときは大きくなるでしょ。」

「・・・まあ、とりあえず害はねえみたいだから、ほっとくか。」

ぽかぽかと麗らかな日差しの昼下がり、そろそろピクニックは終わって、魔境を進むか、とジェイドはユズを見たら、大の字になって昼寝をしていた。

「お前、慣れてきたら自由だな。」

ジェイドが自分のローブを彼女にかけてやれば、身を縮めるようにして眠ってしまった。はちみつ色の髪を数度撫でて、ジェイドは魔草を煮て、薬を作る。バジリスクと戦うのなら、毒消しはいくら持っていても足りないのではないかと不安になった。そんなジェイドの不安などお構いなくユズは穏やかに眠っていた。


***


ジュピタル王国王都ユーピテルでは、グリフォン家にグリフォンが現れたことでてんやわんやしていた。各方面へ報告を済ませ、ようやく一息つけるとオニキスは執務室に腰を下ろす。ユズがいなくなってから三日が立っていた。

「さてオニキス、」

しかし父は話し出した。いつもの呑気な声色ではなく、真剣を装っている。碌なことじゃない・・・とオニキスは顔をしかめて父親を見る。

「加護を集める者が現れた、どういうことか分かるか」

「いいえ父上。」

加護云々については、古い伝承に残っている。オニキスは勉強方面は軍略方面に特化してきたからそっちのことはさっぱりだ。グリフォンの加護は武力である、ということだけはわかる。

「ユズにすべてを投げるわけにはいかん。グリフォンが力を貸せというならば、私たちもできることをせねばならない。お前は第三軍を将軍補佐に任せ、今すぐウラヌスタリアの状況を見てきなさい。」

「は?」

「状況に応じて、その場に残るのか、いったん帰ってくるのかは判断に任せる」

「・・・国の仕事投げて、よそへいけって、寝言は寝てからにしてくださいよ」

オニキスは父の言っていることを理解しようとは思わなかった。

「お前は昔からグリフォンへの敬意が薄い。それでもグリフォン家の血を引いているのか。ニケや、オニキスを頼んだ」

トパーズはやれやれとオニキスに理解させるのを諦めた。

「はい、トパーズ様の仰せのままに。行きますよオニキス坊ちゃん。ニケが案内します。ウラヌスタリアは西の果て。馬を走らせても3か月。急ぎますよ!」

父の側近のニケとその他の従者が、オニキスを取り囲む。

「待て、父上、強制かよ!この年になって子供を力で押さえつけるなんて横暴なことすんじゃねえ」

「力はグリフォンの特権だろうが。オニキス、これは国家案件だ。お前の好きな国のためになることだぞ」

「アレクシスを戻せ!アレクシスに行かせる!」

「オニキス、アレクシスは分裂できんのだ。もうリスクーザにつく頃だろう。」

ここから北の辺境、リスクーザまでも三日は馬を走らせなければならない。ユズとうまく合流できればいいのだが、とトパーズは帰って来たばかりで家族にも顔を合わせていないアレクシスを不憫に思った。聖騎士の試験を受けに帰ってきたはずなのに、全く災難である。クソおやじ!てめえがいけ!オニキスは悪態をつきながら従者に引きずられていったのだった。


***


ユズは目が覚ました。

「起きたか、疲れはどうだ?」

ジェイドは心配そうに伺う。

朝は魔の森をあるいて午前中にはリスクーザへつき、ユズはなぜかコロセウムの大会に出場していて、酒盛りをしていたのだ。それに慣れない旅の疲れも出たのかもしれない。

「は。ジェイド!襲われなかった!?」

ユズは飛び起きる。

「ん。ここはユニコーンの縄張りみたいだな。他の魔獣は入ってこなかった。」

ジェイドは自分のローブを拾って羽織る。

「ごめん、こんな道草くって」

「俺が無理させてんだ。気にせずゆっくり行こう。地図的にはあっちだと思う。」

ユニコーンにお礼を言って、ユズはジェイドと魔境を進んだ。橋のない水辺があり、飛び出してきた巨大なカエルがその長い舌でジェイドを捕まえて、一飲みにしようとした。

「わあ・・・大きなカエル」

「感心してんじゃねえ!食われる!」

「腹の中から出してやる」

「今すぐ助けてくれ!」

ユズはしょうがなく、カエルを叩き切った。ジェイドはカエルの唾液でべとべとになっていた。カエルは難易度はBランクだ。ジェイドもそれなり剣はできるはずなのに、抵抗もできない間に舌で囚われていた。カエルの腹が蠢いている。ジェイドの直前に何か食ったのだろうか。内側からは出てこれないのか、ジェイドは剣の切っ先でカエルの腹をつついた。カエルは破裂して、中から昨日会った赤髪の勇者が出てきた。服が胃液で溶けたのか、素っ裸だった。彼は慌てて、前を隠す。ユズは見てはいけないものを見てしまったという自覚は乏しいようだった。この子はいろんな意味で大物だ・・・とジェイドはため息をつく。

「ジェイドの未来が見えた」

「やめろ、見るなそんな未来・・・」

ユズとジェイドは同時に男にローブを差し出す。男はジェイドのローブに飛びついた。さながらカエルのようだったとは言わない。今日はここで休もう、と男も一緒にウラヌスの剣に入れてやった。


「すまねえ、恩に着る」

「いやいや、いいんだが、お前たちはパーティーじゃなかったか?」

「ヴェルミオンがいつまでもしょげていて、リゼも付き添っていたから俺は一人で来たんだ。ラルフだって一人で攻略したんだろ、行けると思って」

このざまだ・・・と勇者スカーレットは言う。彼もファイアタガーという剣を持っているのだが、あのカエルはこっちの隙をついて舌で拘束という卑怯なやりくちだった、とスカーレットは拳を震わせた。パーティーで挑まなければならないのはこういう時への対処を推奨するためなのだろう。気を張っていても格下の相手にしてやられることはあるものだ。

「ラルフってそうか、加護をもらったってことはこういう場所も一人で攻略してんのか・・・あいつのスキルってどんだけ高いんだ」

「普通は攻撃に特化してれば防御が弱い、とかあるんだが、あいつはバランス型でどれも飛びぬけてるチートだよ」

「・・・張り合うなって、次元の違うやつって思えば割り切れる」

ジェイドは慰めるようにスカーレットの肩を叩く。スカーレットはだけど納得がいかないと腕を組んだ。自分たちはパーティーを組まなければ、いや、組んだとしてもラルフ一人の能力値に及ばないなんて認めたくなかった。

スカーレットに着替えを渡し、風呂へ案内する。ジェイドもこのべとべとの唾液を流したいけれど、お客様優先だ。

「ユズ、おいで。これを布で漉してほしい。魔草のほうはすり潰して、丸薬にする。液体のほうはもう少し煮詰めて、効果を限りなく高めよう。」

ユズは魔法薬を作るのは初めてだった。そのままでも食べられるけど、味に癖があるから、飲み干せる液体か丸薬にしてしまうに限るのだそうだ。言われた通り、一つ魔草を食べれば、想像を絶する苦みに悶絶した。

「っ!癖どころじゃない!」

「でもいざ毒を浴びたら、そんなこと言ってられねえだろ」

ユズはまだ良い、ジェイドが治癒魔法を使ってやれるのだから。魔法薬は主にジェイドのためなのだ。まだ数回死ねるからといって無駄遣いはよくないし、できれば死は回避したいと思うのは人間の本能である。

「この家ってどうなってんの!?お前すげえ魔法使いだな、俺のパーティーに入ってくれ!」

風呂から出てきたスカーレットは今更この家の不思議さ、魔法の精巧さに気づいたようだった。

「いや、お前がうちに居候してんだろうが、立場をわきまえろ」

ユズはぴしゃりという。彼女は育った環境故なのか、上下関係をはっきりさせたいようだった。強いものが上という謎の概念を持っている。

「・・・っ、ここで会ったが、ヴェルミオンの仇討ちをやってもいいんだぜ」

「言っても聞かないなら力勝負か、受けて立とう」

「受けるな、喧嘩するな、放り出すぞ。俺も風呂入ってくる。いいか、二人とも、剣を抜いたら飯も抜く。」

勇者とは、各パーティーのリーダー格なのだろう。人の下にはつかず、人を率いるタイプである。数日ユズを見ていて、彼女もそういうところがある。武力に恵まれた彼女は人の下について動くよりも、きっと大軍を率いて、自ら敵陣へ突っ込むことで兵士を鼓舞することに憧れている。そんな場所はジュピタルの彼女の立場ではおおよそ与えられない夢物語なのだ。だけど今は自由で、とてものびのびと、自分のしたいことをしているように見える。

ユズとスカーレットの様子が心配で、烏の行水のごとくシャワーを浴びて居間に戻ると、二人は茶を飲みながら会話をしていた。茶はユズが出したらしい。

「この茶、めちゃくちゃ濃いぞ」

「そうか、まあ飲めないこともないだろ・・・うわ、無理」

「無理なもんを人に出すんじゃねえよ」

ユズは渋すぎて、カップを置く。

「お前とあの男は恋人なのか」

「恋人ではない」

「男女のパーティーは総じて恋人だろ」

「どういう考え方でそうなるんだ」

「リゼとヴェルミオンも恋人だ」

「へー」

「夜は必ず二人でいなくなって、どっかでやってる」

お兄ちゃんは辛いっ!とスカーレットは泣き出す。ユズは妹離れができていないオニキスを連想した。きっとすごく怒っている。もう想像すれば家に帰りたくなくなるくらいだ。脳内の怒り心頭オニキスを頭から追い出して、ユズは質問する。

「ラルフが女がなんとけって言ってたけど、あんたは男がって考えるの?」

「いや、そうなるのは世の理だろ。だから男と女って性があるわけで」

スカーレットは意外とまともなことを言い出した。

二人は案外会話ができているので、ジェイドはほっといて夕飯の準備をする。食べられそうな魔草のサラダと取れたての果実とクラッカーで作ったカナッペを二人の前に出す。

「お前は恋人の一人や二人はいないのか?」

「は?馬鹿にすんな、そういう店にはいくぞ!」

「素人なんとけってやつだな」

「くそっ!この小娘・・・」

スカーレットはニコニコしているユズを捻りつぶしたくなった。しかし昨日彼女がヴェルミオンに勝っているという事実上、彼女は自分よりも格上である。スカーレットは剣に関してはヴェルミオンに勝ったことがない。そのせいでリゼのことを認めざるをえなかったのだ。

「時にユズは、どこでそんな言葉を覚えてくるんだい、ジェイドさんは将来が心配だよ」

メインディッシュのスペアリブとハッシュドビーフが出てくる。

「こういう話題はマリカとかヴィアンカとかからだね、性教育って言われた。」

ヴィアンカは知らないが、マリカとはこの子の血縁だった気がする。姉なのか妹なのかあのときは区別はできなかったが、おそらく姉だろう。

「・・・世の令嬢はそんなに恐ろしい会話をしているのか」

ジェイドはジュピタルの常識を疑った。


***


そのままスカーレットは同行することになった。自分のことはレットと呼んでくれ、と握手する。スカーレットはさすがに熟練の勇者だけあって、出てくる魔物はすぐ退治してしまう。それにユズが張り合うから、向かうところ敵なしであった。

敵がいないのと、足場が悪いのは別物で、魔の城へ向かう道は過酷だった。目の前には洞窟がある。普通のサイズを大幅に超えた蝙蝠が出入りしていた。

「ここを通るようだな」ジェイドは意味があるのかないのかわからない地図を確認した。

「鍾乳洞になってる・・・綺麗だねェ!」ユズは洞窟が冒険っぽいと喜んでいる。

「ここまでは来たことがないっていうか、魔境は毎回違う道が出るよなー、宝石とか魔石があるんじゃねえかな」

スカーレットも目をキラキラさせていた。

この即席パーティーはジェイドだけが慎重派のようだった。洞窟の前で腹ごしらえをして、ジェイドは先行のスカーレットにランタンを渡した。ユズは殿しんがりは任せろとジェイドを見る。一応はぐれないように全員ロープでつながろうときつくそれを結んだ。

「ジェイドってさー、頭良いんだなー、いろいろ知ってるし。俺のパーティーにほんと欲しいわ」

スカーレットのパーティーは知恵担当の魔法使いは不在ということだ。治癒魔法なら聖女が使える。聖女が怪我をしないように守れば、一応は冒険は成立するのだ。その聖女と剣士は恋人同士で、スカーレットはいつも邪魔者にならないように気を遣っていた。男女比は同じはずなのだが、ユズとジェイドはそんな関係ではないというし、ユズが武力担当で、ジェイドがその他担当という役割分担がされているというし、自分が入っても邪魔にはせずにしてくれる。スカーレットの中でジェイドの株は爆上がりである。

「なんでジェイドだけなんだろ・・・人徳ってやつ?」

ユズはバジリスク領に入ってから、ジェイドがモテているのが不思議だった。いいやつだとは思う。ユズだって好きだ。だけど言葉にならないもやもやした感情もあった。

「俺は魔法に関しては詐欺だと思うんだが・・・まあウラヌスの剣が頼りってことだ。ユズ、足場が悪いぞ、気をつけろ。」

洞窟内はごつごつした岩場がドリップストーンで濡れていて、滑りやすい。数十分後には強かに濡れていて、冷たさは体力を奪う。気温は鍾乳洞においてそんなに低くはならないが、どこまでも続いているように思える。

魔石なのか、洞窟内は赤、青、緑に光る岩があちこちにあって、神秘的だった。

「地底湖だ」

先を歩くスカーレットがつぶやく。ドラゴンブルーに光る湖が広がっていた。湖の奥に出口がある。湖は深そうで、水質は人体に問題なさそうである。船はない。

「行くか。ユズさんは泳げるんすかー?」

スカーレットは一応聞いてみる。

「泳いだことはないけど、大丈夫だ、たぶん」

ユズはむっとして答えた。剣術と体術の訓練は参加できたけど、水泳の訓練は断じてオニキスがさせてはくれなかった。

「ユズには治癒魔法しか効かないのは難点だな。加護を無効化できる魔道具とかねえのか」

魔法には精霊魔法と治癒魔法があって、精霊魔法が得意なのが魔法使い、治癒魔法が得意なのが聖女と棲み分けされている。治癒魔法は聖なる力をもとに行われるから、聖獣の加護を持っているものにも作用するが、精霊魔法は聖獣と相容れない。精霊魔法は土、火、水、風、闇、光・・・とさまざま自然に由来する力を使う。ジュピタルには魔素は少なく、魔法使いは魔石や魔道具などを借りて魔法を使わなければならない。ジェイドのウラヌスの剣はそういう意味では魔道具である。しかし聖なる力も併せて持っているらしいこの剣はユズを取り込むことを拒絶はしなかった。ジェイドもジェイドでウラヌスの剣にかんしては天智を超えた不思議剣ということで納得している。


水はとても冷たかった。ジェイドはリュックに浮きの魔法をかけて、ユズにそれにつかまるように言い、水の中へ誘った。水の冷たさに身体を固くするユズをみて、本当は身体が冷えないような魔法もかけてやりたいところだが、泳ぎきるまでの辛抱だ。地底湖を入口に向かって泳いでいく。


洞窟を出れば、満天の星が輝いていた。街の明かりがなく、あたりが真っ暗な中、眩しいくらいに星たち一つ一つが明るい。赤く光るもの、青白く光るもの、夜空に煌々と光る星。そしてそれを背に崖の頂上に古びた城が一つ。

「あれが・・・バジリスクの城・・・」

その城は息をひそめて冒険者たちを出迎えるように聳え立つのだった。


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