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ジュピタル王国英雄記  作者: ヤー子
第三章 フェニックス辺境編

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スタンシャイン公爵フェニックス領分家


あれから雨が降るわけでもなく、旅は順調に二つ目の山を下山した。

道中の宿で剣の中に入ったことはステラも驚いた。ジュピタルで魔法が使えるなんて、ジェイドは何者なのだろうと知りたくてそわそわする。彼は料理もできるし、アレクシスは彼を呼び捨てているし、どこかの使用人か何かなのだろうか。ユズに聞けば簡単だが、ステラはめげずにアレクシスに挑んだ。距離を縮めるには会話からだ。

「ジェイド様は、魔法使いなのですか?」

「本人に聞いてみたらいかがですか、」

アレクシスは説明するのかめんどくさいだけである。

「アレク、お前の部屋をステラさんに宛がうから、お前は居間で寝てもらっていいか。俺、ソファでいいんで」

「お前の部屋だろ、俺がソファでいい。」

ジェイドはそんな風に部屋割りをした。部屋は増やせないことはないが、ジェイドもそういうところは横着するのだ。あるもので賄う精神が強い。

「わ、私、アレクシス様のお部屋をお借りするのですか?」

「あ、ベッドのシーツと枕カバーを新しくしようか!」

ジェイドは気を利かせてアレクシスの部屋に突入した。断ってから入れよ、とアレクシスに怒鳴られている。

「見て困るものはないだろ?」

「・・・・ないはずだが」

アレクシスは少し気恥ずかしそうである。そんな表情をするのも素敵だ。アレクシスならなんでも許される。

「どうぞ、お姫様、本来は客間なんです。」

ジェイドはにこやかにステラを部屋に招き入れる。ここでいつもはアレクシスが寝ているなんて・・・とドキドキしてしまう。今日は眠れるだろうか。隣にはユズの部屋もあるらしい。こんな部屋があるなら確かに旅は快適だ。ユズの身分が侯爵だからなのかな、とステラは適当に結論を出した。


そんなこんなで、山を越え、いよいよフェニックス領に到着した。

ステラは家はこっちだと、案内してくれた。スタンシャイン公爵分家は郊外に大きな屋敷を持っている。ステラが白馬に乗って帰ってきた、という知らせはもう家に伝わっていて、父親が泣きながら出てきて、ステラを抱きしめていた。溺愛ぶりがすごい。そしてことの顛末は姉妹喧嘩ということだった。姉は苛烈なのだろう、ジェイドは恐ろしいと感じる。エルヴィンの紹介状をジョージに見せるとジョージは慌てて、ジェイドに最高礼を示した。

「はるばる遠い国からよくフェニックスまでいらっしゃった。どうぞゆっくりしていってください。」

ステラはまさかジェイドに、父がそんな態度をとるとは思わなくて驚く。ジェイドはいえいえそんなお構いなく、と謙虚にお礼を言っていた。

ジョージは次にユズに向かい合った。

「ユズちゃん、小さい時に一回会ったことがあるんだが、覚えていないよな?」

ジョージは再婚を二回できるほど、容姿はとても整っている。金髪碧眼で若々しい。これが俗にいうイケオジというやつである。

「はい」

ユズは即答した。顔は少し凛々しく見えるように装った。それがまた可愛くて、ジョージは笑った。

「トパーズにもよろしく頼まれているよ、ゆっくりしていってくれ」

「はい、ありがとうございます」

屋敷はまるで城のように敷地も庭も広くて、建物も豪華だ。公爵家は王族と密接に結びついている。このスタンシャイン分家もフェニックス領において相当力を持っているのだろう。ユズはエルヴィンの家に遊びに行ったときを思い出しても、ユズは屋敷の大きさより、騎士団のすばらしさに目が行っていたのか、よく思い出せなかった。エルヴィンの家は王城のすぐ隣にあって、もう実際王城に住んでいるようなものだと解釈していた。

侍女頭が接客の間に通してくれて、すぐにお茶が運ばれてくる。客室が用意できるまでここでくつろいでいてくれとのことだった。ジェイドは書庫を拝見したい、とジョージに言えば、彼は快諾する。何が調べたいのかまで聞いて、それならこういう本があったはずだとジェイドを連れて行ってしまう。

「アレクシス様、お屋敷を案内しますよ。」

アレクシスはもし不測の事態が起こった時のために屋敷の全貌は知っておきたかった。

「ユズ、お前も来るか」

ユズは声をかけられて、そっちをむけば、アレクシスの後ろでわかっているわよね、と無言の圧力を向けてくるステラと目が合う。ユズは鈍感だとは言われるが、空気を読むことはできるのだ。

「ああ、私、お花を・・・」

「お手洗いはこちらです、お嬢様」

侍女頭がユズを案内してくれるらしい。トイレは接客の間からそんなに離れていないところにあった。花瓶にグラシオラスとアマリリスの花が生けられていて、良い匂いがする。トイレで心が癒されるなんて、素敵な場所だ。


「お嬢様、お着替えをなさいませんか?」

侍女頭はマリエッタと言って、まだ30代になりたての若い侍女頭であった。彼女はユズに微笑みかける。ユズの旅装が気になったのだろうか。ユズはこれはこれで楽だよ、と思うが、マリエッタに案内され、ドレスルームに連れていかれた。フェニックスの色だという濃いえんじ色の落ち着いたドレスに袖を通した。

「綺麗な髪の毛ですから、赤が似合いますね。」

「そうですか?ステラとかジョージさんの髪の色も素敵ですけど」

「あんまり金色ですわ。私、お嬢様のような髪色の方が好きですのよ。」

マリエッタはユズのそんなに長くない髪もハーフアップにまとめてくれた。

「観光におすすめはどこですか?」

「そうですね、フェリックスではクレーンゲームのお店ができたんですよ。あとは遊園地やカジノとかも有名でしょうか。遊びの都、そういう別名がついています。」

「へー・・・」

それぞれの都に特徴があるのだな、とユズは感心して聞いている。接客の間に戻ってもまだ誰も帰ってきておらず、ユズは用意されている茶を飲んで、お菓子を頬ぼる。このクッキーは紅茶の味がしておいしい。ユズの相手はもっぱらマリエッタがしてくれた。どうやら彼女にはユズくらいの娘がいるらしい。娘は病気で、入院させるにも金がなく、今はとにかく働かないといけなく、昼はここの侍女頭を、よるはカジノでバニーガールをしているという。

「それは、大変だな。バニーガールってなに?私もなれる?」

「お嬢様はそんなものにはなれませんのよ。お尻を触られることだってありますからね」

「破廉恥ね」

ユズは真顔だが、そういう話題は往々にして好きである。

「でも、ぜひお手伝いしてみたい。バニーガールになってみたい!」

「あらあら、好奇心が旺盛なのですね。」

「私はね、マリエッタ。自分のなりたい自分になるっていう夢があるの。」

だからこんな過酷な旅をしているのだろうか、とマリエッタはユズの境遇を不憫に思った。侯爵令嬢は侯爵令嬢なりの気苦労があるのだろう。しかし、この子をバニーガールにしてしまえばきっとお叱りを受けてしまうだろう。聞けばまだ成人していないという。ここのお嬢様たちにはいないタイプのご令嬢である。長女のエリザベスは気が強く、次女のステラは性格が良くない。ユズのようなタイプはもう可愛くてしょうがない。


「マリエッタ、お客さんかい?」

また新しい人物が登場した。

「レジナルド様。グリフォン侯爵令嬢のユズお嬢様ですよ。お嬢様、当家ご次男のレジナルド様でございます。」

マリエッタがこれまた金髪碧眼の美丈夫を紹介してくれた。体格が良く、鍛えているのか胸板が厚い。ユズはちょっとキュンとした。オスみが深い。どちらかといえばタイプだ。金髪碧眼の顔じゃなく、身体の方が。

「ああ、今日ご到着だったのか。初めまして、レジナルド・スタンシャインです。グリフォン令嬢。レジーと呼んでくれ。」

「はい、私はユズです。何とでもお呼びください!」


レジナルドは22だという。ここには養子で入ったが、前の妻の子どものエリザベスとステラは17歳なので、兄になったのだと簡単に説明してくれた。ユズは聞き流した。ステラは彼が今の奥さんの子どもだと言っていたから、いろいろ複雑な事情がユズの中では脚色されていた。

「ステラがじゃあ迷惑を・・・いや、エリーがか?とにかくすまないね。エリーとステラは双子なんだよ、ええっとエリーには会ったかい?」

まだ会っていないとユズは首を振る。

「ステラもそうだが、エリーもなかなかだぜ。」

レジナルドは苦笑いをする。

「嫁の貰い手がなさそうだ」

「そうなんですね」

ユズは他人事はもはや自分事であるのだが、自分は気にしていないので、嫁云々の話はやはり他人事だった。しかし、あんなに美人なのに貰い手がないのは不思議だ。フェニックスは男不足なのだろうか。ユズは頓珍漢なことを考えていたのだった。レジナルドは、フェニックス領の軍部に所属していて、第三軍長を担っているのだそうだ。きっと強いのだろう、手合わせしたいとユズが言うと、ええ、と驚かれた。冗談ごとだと思われているらしい。ユズのはねっかえりの噂はさすがにこの地に及んでいないということだ。

「レジーは結婚とか婚約とかしないんですか、エルヴィンはしているから、公爵家ではそういうのは早めに決めるのでは?」

「今は軍の方が忙しくて、そういう余裕はないな。それに俺がスタンシャイン家に入ったのは二年前のことで、実はエルヴィン様にお会いしたこともないんだよ。年に二回、父は王都へ行くけど、俺は軍から動けなくてさ。妹たちは会ったことがあるらしいけど。どんな人なんだ、エルヴィン様。」

「うーん・・・エルヴィンは物腰柔らかそうだけど裏ではなんか黒いっていうか、あれでいて、マリカを手のひらで転がしているというか・・・侮れないやつだ」

ユズのエルヴィンに対する評価はなかなか辛辣だった。しかし、本人は褒めているつもりらしい。

「大公家ともなると、そうなるのかな・・・一回お会いしたいとは思うんだけど。王都はなかなか遠い。」

ここは辺境である。王都よりも隣国が近いのだ。すぐ南にはネプティーヌ王国がある。ネプティーヌとは同盟を組んで、友好を結んでいる。フェニックスの加護は愛と平和で、争いは好まない。先の魔法大戦から100年ここでは諍いは起こっていないが、辺境の軍備をないがしろにするわけにはいなかい。ネプティーヌがドンパチやっているシティズン帝国の国境に駆り出されることもままあるのが現状だった。

「顔は良いよ、エルヴィンも。なんか甘い感じ。スキンシップが激しいかな。私をもう妹だと思ってしてるらしいけど。」

ハグなんて、父や兄が所望してもユズはしてあげる気などない。ジェイドにならしてあげてもいいが、アレクシスには・・・もちろん無理だ。あの強制的なアレクシスによるハグは事故だったと思うことにした。最近事故が多い気がする。気のせいにしよう、とユズは現実逃避した。

「本当はお姉さんより、ユズのことが気に入ってるんじゃない?」

「それはどうかな、マリカのことは好きだと思うよ。私ははねっかえりだしね」

ジョージとジェイドが帰ってきて、レジナルドはまた自己紹介していた。


キャー!お嬢様方落ち着いて!だれか、旦那様を呼んできてー!!悲鳴のような声が聞こえる。ジョージとレジナルドは顔を見合わせてため息を吐く。客がいようがいまいが関係なく、姉妹喧嘩は起こるらしい。

「すまない・・・騒がしい家で」

「私が、止めようか?」

「ユズ、じっとしていよう、アレクシスが絡んでいる気がする。」

ジェイドはこの場に居ない護衛騎士を不憫に思ったのだった。


アレクシスは入口、裏口、階段、通路、出入り口になりそうな窓の把握を目視して確認し、ステラのここはどの用途で使う部屋、だとかいう説明は微塵も聞いていなかった。ステラはしかし、アレクシスを連れて自分の屋敷を歩いているのに有頂天であった。まるで婚約者と散歩をしているようだと感じる。

「さ、アレク様、こっちが私の部屋ですのよ」

「婦人の部屋には入らない。」

「なんて紳士なの。大丈夫です、片付いていますから」

ステラがドアを開けると、片付いてはいない。逆に荒れ果てている。ステラは叫んだ。泥棒でも入ったのか、と取り乱す。

「帰ってきたの、泥棒はどっちよ、泥棒猫」

後ろから、ヒールを響かせて歩いてきたのは黒髪の美女だ。青い目は勝気にステラを睨んでいる。

「・・・エリザベス・・・あなたの仕業なの!?」

「ええ、あなたに恋人を搔っ攫われたから、腹いせに。」

「掻っ攫われるほうが悪いと思わないの、あなたの恋人が悪いんだわ。」

「しかも違う男を連れている、本当、あなたって救いようもないわ。こんなのを相手にする男の気が知れない。」

エリザベスはアレクシスにも侮蔑の目線を向ける。

「ふん!なら、あなたの前の恋人の気も知れないってことよ、エリーは男心が分かってないんだわ。だからみんな私が良いってあなたを捨てるのよ」

エリザベスは目を細める。

「また山へ捨てられたいらしいわね」

「あんなことをして、エリー謹慎処分だったんでしょ、いい気味だわ」

ギャンギャンとエスカレートしていく言い争いを、アレクシスは露ほども気にせず、通路と会談と窓とを確認していく。

「アレク様も何とかおっしゃって、私、山賊に襲われるところだったわ、アレク様が倒してくれたのよ。まるでお姫様を助ける英雄のようだった。」

いや、ただの一方的な暴力だった。アレクシスを前に山賊は手も足も出なかったのである。

「そんな細っい優男、レジー兄さまの敵ではないわよ。相変わらず、あなたは顔だけよね。なんで私の男を標的にするの?別にあの方はあなたの好みではなかったでしょ」

「あなたの男は、タイプでなくても対象になるのよ。」

ステラはエリザベスを睨みつける。

「性悪女、精魂を叩き直してあげましょうか」

エリザベスは腕をまくった。

「助けて、アレク様。この狂暴女から私を守ってください」

うるうると青い目がこちらを見つめるが、アレクシスはやはり露ほども心が動かない。想像してみた。これがユズならどうだったかと。ユズはまず、意図的に目を潤ませることもできないだろう。

「あなた誰なの、この屋敷に何の用?ステラの恋人なら今すぐ出て行ってほしいわ。ここは娼館じゃないのよ!」

エリザベスは間に入れられたアレクシスに眼をつける。ユズならどうだろうか。まあこれは想像はできた。

「お前が誰だ」

巻き込まれて腹が立って、アレクシスはつぶやいた。

「私はエリザベス。エリザベス・スタンシャイン。この家の長女で、その性悪女の姉よ!」

「そうか、俺はアレクシス・アンダーソン。王都からグリフォン令嬢の付き添いで来た護衛騎士だ。」

「・・・・・お客様じゃないの!!!ステラ!失礼なことしてんじゃないわよ!!!」

「失礼なのはいつもエリーでしょ!?」

エリザベスはステラを捕まえようとアレクシスの後ろを回った。ステラは逃げるように前へ行く。使用人たちが泣きながら止めようとしている。エリザベスがドレスを踏んでつんのめった。エリザベス側の使用人が悲鳴を上げた。アレクシスはとっさに腕をつかむ。なんとか床に顔面激突は免れたようだ。

「・・・大丈夫か」

「はしたないところを見せたわね、ごめんあそばせ」

エリザベスは背筋を正して、お礼を言い、そしてドレスをたくし上げてステラを追いかけたのだった。公爵令嬢とは何なのか・・・アレクシスは考えても無駄だと思った。


夕食で、全員の顔がそろった。エリザベスとステラはレジナルドを挟んで座っている。隣同士にしてはおけないのだろう。エリザベスの髪だけが黒かった。あとはみんな金髪で、容貌はそろって美しい。エリザベスとステラは双子だそうだが、二卵性なのか、似ていなかった。

「じゃあみんなそろったことだし、」

「あらお父様、アレクシス様がまだだわ」

「彼は護衛騎士なんだろ、そのように部屋を手配させてもらった。」

「いいえ、お父様、彼は客人だわ!それなりに接待してほしいわ!」

ステラは私の命の恩人なのよ!と父親さえ惑わせるのだと自信をもって見つめている。ジョージは妻のほうをみると、妻は首を振った。

「じゃあみんなそろったことだし」

気を取り直してジョージは家族の紹介と、客人の紹介を取り仕切って食事が始まった。


「フェニックスは十七年前に代替わりしてね、それからあんまり加護が上手に与えられていないようなんだ。今、まあステラも持っているとは豪語しているが、不完全な加護、と言われている。」

ジョージが話し出す。ステラもステラでフェニックスの加護は魅了の力だと変な解釈をしているようだった。

「・・・不完全な・・・」

「そうなんだ、なんとも言えないんだが・・・東から来ただろう、西の方の山に遺跡神殿があって、そこにフェニックスがいるんだが、会いに行ってみると良い。」

そこで難題をくれるという。遺跡神殿は辺境伯ダイアナ・フェニックスが管理しているとも教えてくれた。

「あ、じゃあ、申請とか必要なんですか?」

「いや、遺跡だからね。観光気分で行っておいで」

とジョージは話す。


とりあえず明日の行先は決まった。

「ユズはどこか行きたいところはあるのか?」

自由行動でもいいんだよ、とジェイドは聞いてくれる。久しぶりにドレスを着ているユズを見れば、この子はどんな格好でも似あうのだな、やっぱり赤も似合う、この赤の色合いが絶妙に良い・・・と惚れ惚れした。だけど中身は変わらない。いつものユズだ。

「私はね、バニーガールに・・・アルバイトをするのよ」

「・・・今聞き捨てならない単語が出てきたけど、俺の聞き間違いかな」

「そうだね、だから明日はとりあえず・・・・マリエッタの家に行く」

「マリエッタさん呼んできてもらってよろしいでしょうか」

「マリエッタなら帰ったわ。夜のお仕事があるのよ。」

エリザベスが言う。

「ユズさん、マリエッタのお仕事をお手伝いしたいのね、私も賛成だわ。一緒に行きましょう」

エリザベスはにこっと微笑んでくれる。

「夜のお仕事を手伝っちゃいかんだろ、この子はまだ未成年で」

「フェニックス領は性に奔放な場所なのよ、ジェイド様。ジェイド様も楽しんでくださいな。」

なんというところに来てしまったんだ・・・・とジェイドは愕然とした。以前来た時は遊興施設が多いとは思ってはいたが、調べもので忙しくてそんなの気にする余裕もなかった気がする。

「エリザベスははしたないことが好きなのよ、アルバイトなんて、公爵令嬢がすることではないわ」

ステラがエリザベスをけなすように言う。

「私はあんたに結婚邪魔されて、この先は一人で生きていくことになるのよ、だから一人で生きていく術を身に付けるために、アルバイトはするべきだわ。ね、ユズさん」

「そうね、そうよ。私もアルバイトはするべきだと思う!!」

ユズはエリザベスに全面同意した。

「ユズはとにかく、明日は一緒に神殿へ行こう。アルバイトは、・・・仕事内容をよく調べて、条件とか規約とか確認して、それからだよ、そんな飛び込みでするようなもんじゃない。」

ユズのやりたいことは極力はやらせたいのだが、ジェイドは珍しく反対のようだった。

「マリエッタの病気の娘さんを助けるの、私、別にどんなところに飛び込んでも、怖いものなんてないよ」

「ジェーンはまだ14歳なのよ、私も力になりたい」

「ジェーンは、例の病気なのかい?」

ジョージは気づかわし気に話に入った。

「そう、先代の奥様と、お母様と同じ固死の病よ。若いから進行が速いみたい、病院に入ることができたら少しでも進行を遅くすることはできるわ。」

エリザベスが話す。


「固死の病って、何ですか」

ジェイドは聞いた。聞いたことがない病気だからだ。

「近年増えてきた、女性にかかる病気でね。身体が動かなくなって、最終的には心臓の動きも止めてしまう病気なんだ。進行を遅くすることはできても、一度かかれば死を免れることはない恐ろしい病気だ。」

ジョージは二回、妻を先立たせてしまったという。

「フェニックスの加護があれば、食い止められるかと思ったんだが、不死鳥の涙には治癒の力があるからね、だけど、思ったように効かなかった。それも代替わりをしてから、起きているんだ。」

「代替わり前は、この国に病気なんて流行らなかったわ。」

エリザベスは悲しそうに言う。

「このままでは、フェニックス信仰が廃れてしまうかもしれない・・・今、フェニックス領は危機的状況なのよ。」


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