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ジュピタル王国英雄奇譚  作者: ヤー子
第二章 ドラゴン辺境編
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別れと旅立ち

ドラゴン辺境編はこれで完結です。


悪魔がこの世界のどこかに封印されているということは魔術師協会ではずっと語り継がれてきており、場所は明かされないがその封印術式に魔力を注ぎ込むことはあの魔法大戦が起こるまでは欠かさずにやってきていた。魔法大戦が起こり、それがおざなりになって、ここ百年でその封印術式を知るものもずいぶん少なくなったものだ。マルスは魔法大国たる所以から、その存在は秘密裏に連綿と受け継がれてきている。しかし実態は封印術式にどう魔力を注げば良いのかわかる魔術師がいなくなっていた。その術式は魔術師協会が持っているはずである。ダンテも魔術師協会へは参加していたので、存在だけは知っていたのだ。


「そうか、あなたの国に、ジュピタルの魔力を吸った悪魔が現れたと、そういうことなのだな」

ダンテはジェイドの事情をもののわずかで理解した。

「聖獣の加護を集めれば・・・確かに悪魔には非常に有力な効果をもたらすと思う。」

聖獣が悪魔の天敵である、そのことはダンテも知っているが、実際に集めたという記録は千年まえで、文献は残されていないのだ。集めた後、何が起こるのかまでは分からない。

「ダンテを救ってもらった、この恩は必ずお返ししたい。・・・その、聞いてもいいだろうか、ヘルメス四世と血のつながりは・・・」

「あ、兄です。魔術師協会ではそう名乗っていると聞いたことがあります。」

ダンテは目が零れ落ちそうになるほど驚愕した。少し目の色が似ていて、そしてその国から来たというから聞いてみたら、なんと血縁だと発覚したのだ。周りの魔法使いたちが一斉に傅いて、ヘルメス四世の弟君!!といきなり崇め倒された。ジェイドは、自分ではなく、兄を崇めてくれ、と言いたくなった。

「西の大魔法使いだろう!俺達には憧れの存在だぞ!!血縁者なら、サインをくれ!」

ジェイドのサインで満足なのだろうか。マルスの民たちはヘルメス四世と騒ぎ立てている。魔術師協会において、大魔法使いまで上り詰めれば、伝説上の魔法使いの名前が授与される。ジェイドの次兄はそれを賜っていた。

「お前たち、これは国家、いや世界を揺るがす一大事。ヘルメス四世を救う栄誉が我らに与えられるぞ!」

「はい!ルーカス様!」

「こうしてはおれんな、ジェイド、また手紙を出す。どうか、貴殿の旅の運がよいものであることを祈る。」

ジェイドは礼を言って、ダンテ領から戻るためにランサーの近くへ行く。


「ミリー、来てくれたこと、知らせてくれたこと、感謝する。危険な目に合わせてすまなかった。後でドレイクにも謝罪に行こう・・・ドレイクが会ってはくれんだろうが」

「・・・・ルーカス、父は逃げたのよ。私、後ろ盾がなくなっちゃったの。爵位は返して、ドラゴン姓はニコラス達、ドラゴン使いにあげるつもりよ。これからはただのミリアリアとしてドラゴン辺境で生きるわ。」

ミリアリアはそういった。

「ミリアリア様!」

ニコラスは驚いている。それが、彼女の戦いである、とミリアリアは言っているのだろう。もとより、ドラゴン使いはこの辺境において、もっと地位が高くあるべきなのだ。こんな使えない辺境伯にこき使われている立場はおかしい。

「み、ミリー・・・それなら、ダンテに来てくれ!俺のもとへ、来てほしい」

ダンテはミリアリアの手を取った。

「ええ、ルーカス。行きます、そして私がドラゴンとダンテをつなぐ橋となりましょう。」

「えええええ、ミリアリア様、いいんですか、アレクは!?」

ニコラスが余計なことを言う。

「ニック、いえニコラス。ドラゴン領を頼みますよ。」

ミリアリアは綺麗に笑った。アレクシスを見ていれば、彼がどれだけあのグリフォン令嬢を大切にしているのかがわかる。それはミリアリアにとっては辛く苦しく、穴があくような喪失感だった。彼に恋をしていた4年の月日は、ミリアリアにとって短いものではない。あの男は、幾人もの女をこんな目に合わせているのだろう。だけど、アレクシスだって彼女に関しては一方通行なのも笑える。アレクシスもそのうち、この苦しみを味わうのか、はたまた彼女が振り向くのかはミリアリアにはもう関係ないことだ。グリフォン令嬢は、向こう岸のドラゴンとドラゴン使いたちに手を振っていた。それをアレクシスが自分には絶対に向けない優しい顔で見ている。


「ところでジェイド殿下、あなたのドラゴン・・・・あれはゴッドドラゴンよ。」

「・・・ノルン?ゴッドなの?うん、ちょっと知ってた」

普通のドラゴンじゃない。ドラゴンを使役することができ、複数の加護を扱うことができ、人語を操ることができるし、なんかいろいろ知っている、心も読める。もうそれしか当てはまらない。


ゴッドドラゴンが帰ってきた。ドラゴン辺境はきっともう大丈夫だ。


***


ドラゴン領に帰ってきて、ユズがどうしてもメアリーに会いたいというから、ジェイドはついて行った。アレクシスはドレイクが蒸発したあとの後始末に追われて大変忙しく、話しかけるのも躊躇われるくらいだ。これからのドラゴン領の統治をどうするか、そういう話し合いを持たなければいけない。もちろんニコラスも駆り出されている。ミリアリアも辺境伯のままで輿入れさせたほうがよいだろうし、解決しなければならない問題は山積みだ。しばらくは落ち着かないだろう。

「メアリーさんはユズに変なことばっかり言うから、」

「本当はニックを引きずってでも来させたいよ」

「ユズは人の恋路は全力で応援するんだな、あいつらはもう叶ってるもんだろ」

「結婚させたいの!」

「それは野暮だろー、ニックだって頃合いをはかってると思うし。地位が上がれば給金だってきっと増えるって、そのうちそのうち」

「そんな悠長にしてたら、生まれてしまうでしょ!生まれたら、大変だし、結婚式とかやっぱり憧れるだろうし、女は今日という日が一番若くて、綺麗なんだよ、男の事情とか見栄とかどうでも良くないか?」

ジェイドはユズがいろいろすっ飛ばして話しているのを、冷静に主語を補って頭で整理する。

「・・・おう、そりゃあそのうちなんて、言ってられません・・・ね・・・」

ユズはメアリーの安否が知りたくて、定食屋にかけこんだ。

メアリーとカイトが元気そうに出迎えてくれた。昼時だが、客はいない。

「やっほーユズちゃん、ニックは無事?」

「ニックもランサーも無事。でも結構すごい戦いだった」

カイトは、ひゃー、とかカッコいいーとか目を輝かせて様子を聞きたがった。

「ユズちゃんも無事でよかったわー、あ、ジェイド、今日は卵かけご飯がおすすめだけど、500ジュピターよ」

「もっと取れよ、100万ジュピターぐらいあっというまに無くなるぞ」

「・・・この店たたんで、売って、小さいアパートに引っ越そうって話してたの。」

メアリーはため息をついて話す。実際問題として切実な経済状況である。

「俺が早くドラゴン使いになって、稼げたら良いんだけど」

カイトは幼い顔を悲しそうに伏せる。メアリーはそれを撫でてやる。

「カイト、ユズちゃんに言いたいこと、あるんでしょ?」

メアリーは促す。

カイトはバツの悪そうな顔をして、手のひらを開いた。エメラルドの石のついたピアスがある。

「・・・ユズから、落ちたのは知ってた。売って、金にしようと思った・・・。ニックが人のものなら売らないで返してやれって言って、でも、返せなくてずっと持ってた。」

アレクシスからもらった、あのピアスであることに相違ない。ユズはぽかんとしていて、ジェイドもそれが見つかったことに大きく目を見開いた。ユズは落としたものが戻ってくることはないと思っていた。そしてそれをカイトが拾ってお金にして、メアリーのためになるなら、本望だとも思う。だけど、これをユズにくれたときのアレクシスの顔も確かに思い浮かんだ。自分が彼にあげた鞘飾りはボロボロだけど彼の剣にくっついている。だから、アレクシスはユズが落としたと言ったとき、それなりショックだったろうとユズは思ったのだ。

「あ・・・ありがとう、拾って、くれて・・・とても、」

「・・・大事だったよな、ごめん、ほんと」

「・・・お礼、お礼したい。交換、しよ・・・これ、リスクーザでさ、洞窟に入った時の石なの!」

ユズはカバンから、大きなクリスタルやサファイヤを取り出す。

「え、・・・これ」

「ただの、石だから!!」

ユズはそう言ってカイトに石を押し付ける。カイトはわらしべ長者になった気分だった。実際ユズが持っていてもただの石だから持ち腐れである。金は回した方がいい、必要なところへ。メアリーに体調は大丈夫なのか、具合は悪くないかとユズはいろいろ聞いて、一安心したら、店を出た。午後はノルンと遊ぶのだそうだ。


***


ノルンは城の屋上で、ドラゴン辺境領を見渡していた。ユズの前では人語を話さないし、話したとしてもきっとユズには聞こえないのかもしれない、とジェイドは思った。夏の日差しは和らぎ、いつしか秋の風を伴い、ここにきて、三か月、ジェイドはワンシーズンが過ぎたことに気づく。

ユズは言った通り、ノルンと走り回ったり、側転やバク転をして見せて、ノルンにやらせようとしたり、ノルンが小さいときと変わらずに全力で遊んでいた。それを眺めて、どこか切なくなって、涙が出てくる。


『ジェイド、加護をあげるときが来たようね』


それは、ノルンと別れなければならないということだ。卵だったときから、ずっと一緒にいたノルンが、独り立ちをする。

「は、早すぎる」

『あら、早く帰りたいって思ってたことも知ってるわよ』

ジェイドはノルンに抱き着く。それを見てユズはとりあえず自分もノルンに抱擁した。そしたら、ユズにもノルンの声が聞こえた。


『ジェイド、ユズ・・・卵の時から、一生懸命育ててくれて、ありがとう。私はとっても幸せだった。あなたたちに会えて、本当に良かった。』

「ノルン・・・お別れなの?」

ユズはノルンの虹眼を見つめる。ドラゴンはお別れの時に言葉をくれる―ユズはニコラスに教えてもらったことがある。お別れとは、独り立ちのときと、その生命を終えるとき。

『ユズ、グリフォンの愛し子。とても優しい子。どうかあまり無理とか我慢とかしないでね。私のママ、幸せになって。』

まだ、行かないでほしい、でもユズはその言葉を飲み込む。ジェイドが大号泣なのだ。彼が人一倍、愛情を注いで、育てていたから、別れは一入に辛いだろう。ノルンは顔をジェイドに摺り寄せる。最初は卵で、生まれた時は小さくてガリガリだった。それが、もうこんなに大きく立派なドラゴンになったのだ。


『ジェイド、・・・私のパパ。大好きよ。あなたが大好き。幸せに、なって。』


ノルンも泣いているようだった。その涙が、ウラヌスの剣に落ちる。剣が光って、その刃面に竜の形のブラックダイヤモンドが増えた。ノルンが翼を広げて、羽ばたかせる。ゆっくり彼女が浮いて、ユズとジェイドから遠ざかった。

「ノルン・・・ノルン・・・、俺の、ノルン・・・・お前も、幸せに。」

ジェイドの言葉は届いたのかわからない。秋晴れの空に遠ざかっていく。ユズは、泣いているジェイドを抱きしめてあげた。本当は胸を貸してあげたいのに、こういうときは難しいものである。ジェイドはありがとう、とユズの頭を撫でてくれる。夕方になるまで、ジェイドは一通り泣いて、ぐいっと涙をぬぐう。


「・・・次は、フェニックス領だ。」


アレクシスはあれこれ仕事に覆われていたが、全部部下に押し付けて、出発に間に合わせた。ドラゴン領を出るとき、ニコラスとメアリーと、ミリアリアが見送りに来てくれた。

「どうか、気を付けて。フェニックス領へは山を越えないといけないわ。」

「ミリー、お前、本当にダンテに行くのか。」

アレクシスは人の婚約者を愛称で呼んでいる。本当に罪な男だ、とメアリーとユズは人でなしを見るような目で彼を見たが、ミリアリアはこれでアレクシスに会うのが最後だと分かっているのか、少し切なそうに笑うだけだった。

ミリアリアが言うには、ドラゴン領から山越えルートだと六日もあれば着く。いったん王都に戻って鉄道を使うルートは10日かかるという。ジェイドはユズの家がある王都を通る提案もしてくれたが、ユズは迷わず山越えだと即答した。家族に会えば、引き留められるのは目に見えている。ジェイドに時間がないことに、彼はあまりそう見せないけれど、だからこそユズは焦っていた。彼を、国まで連れて行く。それがユズのやるべきことなのだ。


「ユズちゃん、ニックに教えたの、そしたら、土下座して結婚してくださいって言われた」

「よかった、よかったよ、メアリー」

ユズは心から喜んだ。ニコラスは恥ずかしそうに頭をかく。フフフとメアリーは笑う。

「また会おうね。」

「また、必ず来るよ・・・」

ユズは、チクチクと痛む胸の痛みを感じ、うまく笑うことができなかった。

「二人でおいで。子どもも生まれるから、見てほしい。」

ニコラスは言う。

「二人?ニック、三人の間違いだろ」

アレクシスは突っ込んだ。

「・・・悪い、アレク、お前をカウントしてなかった。なんかお前はここ所属のような、錯覚があってな」

「たしかにー、アレクの名は後世まで語り継がれそう。いろんな意味で」

メアリーはユズと顔を見合わせて笑う。あの不名誉な噂のことだ、とユズは思ったが、喋ってはいけないことだと理解していた。


門番のドラゴンが一行の旅立ちを祝福するように咆哮した。



ユズ・グリフォン

本作主人公。騎士と英雄に憧れている女の子。

腕っぷしは強い。

口下手なので、口うるさいアレクシスは苦手。

貞操観念がゆるいのはジェイドに対してだけ。

ジェイドを守りたい。

思春期なので、いろいろ興味がある。


ジェイド・ウラヌスタリア

本作準主人公と言いたいが物語は彼を中心に回る。真の主人公。ヒロイン枠。頭脳と魔法担当。

国を救うために情報収集。だんだん核心に迫ってきた。

なんでも器用にこなすポテンシャルが高い人。

一応アレクシスのことは応援しているが、ユズのことは大好き。


アレクシス

本作ビジュアル担当。ユズの武力面を補佐。

多くの子女たちを虜にしているが、本人はユズに一途。

しかし伝わらないし、いまさら素直にはなれない。

ジェイドはきっと恋敵。そのうち抹消したい。


ニコラス

ドラゴン使い。ブラックドラゴンのランサーを使役している。

メアリーと結婚に踏み切らないのはお金がないから。


メアリー

居酒屋と定食屋のダブルワークお姉さん。

ニコラスの恋人。

いろいろ大人のことを教えてくれるすごい人。


ミリアリア

ドラゴン辺境伯一人娘。アレクシスに苦節4年の片思いを散らせる。

アレクシスは罪な男です。お父さんが蒸発。これからダンテへ嫁ぐ。


ノルン

ジェイドが育てたゴッドドラゴン。何でも知っている。

ジェイドは大好き、ユズは好き、ニコラスはまあまあ、アレクは嫌い。

何でも知っているが、わがままで子どもっぽいところはある。


オニキス

ユズの兄。

外伝でウラヌスタリアに到着。

この人は強い。一人で千人分くらいの戦力。

現状を見て無視できる鬼畜ではないので、強制的に行かせたお父さんの作戦勝ち。


エルドラド

ジェイドの兄。別名ヘルメス四世。

すごい魔法使い。

髪が銀色なのは魔力のせい。本当は黒髪。

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