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騎士科試験が終わった翌日の学園は、いつもと変わらない朝を迎えていた。
生徒たちは、昨日の試験の話をしている者もいれば、既に次の専攻試験の愚痴をこぼしている者もいる。
その声は軽く、表情も明るい。
昨日の余韻は、教室に引きずられていなかった。
教室に入り、窓際の席に座る。
本を取り出し、ペラペラと読んでいたページを探していると、アウロニスがガラリと教室に入ってきた。
今日はいつもより早い気がする。
無意識に目で追ってしまった。
昨日の怪我は治療師により綺麗に治癒されたようで、顔回りには傷痕は一切なかった。
目が合う。
「……」
互いに無言で、どちらかともなく視線が外れた。
ざわざわと教室の喧騒が徐々に大きくなってくる中、レイフが隣に腰掛けてきた。
「おはよう、シリウス」
「おはよ」
レイフは、肩を回しながら、溜息を吐いている。
「昨日の試合で、まだ腕がだるい」
「運動不足」
「そうなんだよな~」
ランニングとかしようかな、そう言いながら机に肘をついて、こちらを覗き見る。
「そういえばさ」
「なに」
「昨日の試合の最後の方、一瞬雰囲気変わった気がするけど、大丈夫だった?」
本のページをめくる。
「大丈夫」
「そっか、ならいいよ」
それ以上、踏み込んでこないのがレイフだなと、胸に落ちていく。
レイフは筆記となる経済学科試験の勉強をし始めた。
その横顔を見ながら、レイフが話題を振ったせいで、昨日の試合を思い出してしまう。
アウロニスが最後に見せた清々しい笑顔。
―――やっぱ、強いね、シリューは。
胸の奥が小さく疼き、目を閉じるが、さらに情景が鮮明になる。
汗だくで、息を荒くして、下から覗いて。
―――もう抜かれちゃった。
楽しそうに、純真に笑っていた、あいつの……
目を開けた。
喧騒が耳に響き、本を閉じる。
忘れたい記憶だ。
でも、一度見た光景は、全て脳裏に刻まれ続ける。
教師の足音が近づいてきて、教室の喧騒は外へと追いやられた。
「着席。今から魔法科の選考試験について、説明する」
淡々とした声が響く。
教師に視線を向け、姿勢を正した。
胸の中の記憶は、そのまま残り続けている。
それが、自分への戒めだ。




