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アウロニス視点です。
「いってえ」
「派手にやられてたもんねー、強かったねー、シリウス君」
騎士科試験が終わり、怪我の治療のため医務室に2台ある寝台の一つに腰掛けながら、一番酷い鼻のあたりをさする。
血は止まっているようだが、骨までいってるんじゃないかっていうほど痛みが響いて、流石に強がったりはできない。
付き添いで一緒に来た幼馴染のサイラスと、同じクラスになって以来よく行動を共にするようになった、パーシヴァル伯爵家長女のベローナ・パーシヴァルが心配そうに覗く。
「大丈夫?アニス。今、治療師の方が来るから、後少し待ってて」
「そーそー、涙流して待っててねー」
前言撤回、サイラスは心配などしていない。
「誰が流すか」
「負けちゃったもんねー悲ちいでちゅねー」
「殴る」
「ちょっとサイラス!煽りすぎよ!」
「ごめーん」
サイラスのおちゃらけはいつものことなので、溜息一つで流し、先ほどの戦闘を振り返った。
「速かったなあいつ」
「ええ。いつの間にかその場から消えてるんですもの。むしろそれに対応していたアニスはすごいわ」
「すごくねーよ、全然すごくねー。本当に弱すぎて腹が立つ」
自分に。
「あれは別格だねー。騎士見習いになったのは1年前なんでしょー?強さの秘密聞いてみたらー?」
そう、シリウスが来たのは1年前だった。
アウロニスにとって、ドレイク・バルタザールという男は英雄だった。
幼い頃エレンディル侯爵領に魔物が押し寄せ、パニックに陥っていたところに現れた救世主で、珍しくもないことだったが、その姿に惚れて、自分も騎士を目指すことを決意した。
ドレイクさんの辿った道を歩みたいという願望で、騎士試験を10歳のころに受けて合格。
一緒に行動を共にしたことなどないし、ましてや、話したこともほとんどないが、それでもドレイクさんの戦い方を研究し、一日でも早く認めてもらいたいと、その一心で必死に努力してきた。
当時の騎士見習いがほとんど平民で、高位貴族のアウロニスはかなり目の敵にされ、わざと多めに平民のような仕事を先輩が与えてきたり、目立たない嫌がらせを受けることも少なくなかった。
それでも必死に耐えて、周りに認めてもらえるようになり、騎士見習いが板についてきたと言われてきた頃にあいつがやってきたのだ。
自分よりも小柄で、漆黒の髪から覗く瞳は、深海を切り取ったような蒼色で、左眼には眼帯。
端正な顔立ちのせいか冷たい印象を与えた雰囲気に目が離せなくなったのは、今でも記憶が新しい。
ドレイクさんに連れ立って歩いて、集会の際に紹介された。
ドレイクさんの推薦で騎士見習いに所属すると。
あの時は怒りよりも、もっと醜い、モヤモヤしたものが胸の中を支配した。
たまに流れてくるシリウスの悪い噂と共に、シリウスがバルタザール騎士団に同行して遠征に向かったと聞いたこともある。
怒りで先輩騎士に抗議したが、バルタザール騎士団長が決めたことであると一蹴されれば、何も言い返すことはできなかった。
そして極めつけは、同じ学園の同じクラスに居て、先輩騎士にそのことを尋ねてみれば、ドレイクさんが援助をしたというではないか。
嫉妬するのは当たり前だろう。
「聞くわけないだろうが、かっこわりい」
シリウスに頭を下げる自分を想像して、胸糞が悪くなる。
強さの秘密なんて絶対に聞かない。
「でも、あの左眼は騎士見習いになる前からでしょー?過酷な戦争してる国から来たとかかなー?」
「さあな」
気にならないわけじゃないが、そんなことを聞いても意味がない。
でも。
「あいつの近くにいれば、あいつの戦い方を覚えられるだろ」
ポロリと口に出した言葉に、サイラスとベローナは目を見開いた。
「え、今聞いた?サイラス。アニスがあのシリウスにお近づきになるとか言ったような気がするのだけど」
「聞きましてよー、ベローナさん。アニスさんはシリウス君のことがお好きになったそうねー」
「ちげーよ!何で男を好きになるんだよ!馬鹿か」
「あらま、必死に否定するところが逆に怪しいわー」
「うるせえ!」
「まあでも、シリウスの近くに居たいなら、仲良くしなきゃいけないわね」
言われて、自分がシリウスと仲良く会話するところを想像した。
「考えられねー」
「頑張ってね」
「頑張れー」
サイラスのニヤニヤした顔にグーパンチをお見舞いしておいた。
次からはシリウス視点に戻ります。




